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第20巻「真実の窓の戦い」

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38.少年

 ロキ!! とフルートたちは叫びました。

 隣の丘の中腹に立っているのは、黒い服を着て短いマントをケープのようにはおった少年でした。黒い髪に黒い瞳をしていて、いたずらっぽい表情で笑っています。

 次の瞬間、フルートたちはいっせいに駆け出しました。自分たちがいる丘を駆け下り、また雪だまりに突っこんでしまったので、雪をかき分けながら隣の丘へ登っていきます。

 すると、フルートの肩でポチが風の犬に変身しました。あっという間に少年のところへ飛んでいくと、絡まるようにつむじを巻いて言います。

「ワンワン、本当にロキだ! 本物だぁ!」

 そこへゼンもたどり着き、少年に飛びついて言いました。

「おい、なんでまたその恰好なんだよ!? おまえ、ちっちゃいロキに戻ったはずだろうが! 闇の民の姿でいたら、父ちゃんや母ちゃんが悲しむから、って言ってよ!」

 すると、黒ずくめの少年は口を尖らせました。

「しょうがないだろう。おいらだって、好きでこの恰好に戻ったわけじゃないんだから。町の外に出て荒野を進んでたら、急に昔の姿に変わっちゃったんだよ」

「このあたりは闇の気配が強いから、闇の民の時の姿が呼び出されてしまったんだな。なんにしても無事で良かった!」

 とフルートもたどり着いて、ロキを抱きしめました。背が伸びてきたフルートなので、ロキの小柄な体をすっぽりと包み込んでしまいます。

 へへへ、と少年はまた笑いました。

「フルート兄ちゃんはやっぱり優しいなぁ。久しぶりで再開したのに、いきなり文句を言うゼン兄ちゃんとは、大違いだ」

「なんだとぉ!? 相変わらず、くそ生意気なヤツだな! だいたい、あれだけ感動的にちっちゃなロキに戻っていったくせに、なんだよ!? 節操もなく、ひょいひょい元に戻りやがって! 俺はもう二度とおまえのために泣いたりしてやらねえからな!」

「あ、なんだよ、それぇ? そんなの、兄ちゃんが勝手に泣いただけだろ? 言いがかりはやめてほしいな。おいらだって、この恰好に戻って困ってたんだからさ!」

 とロキは負けずに言い返します。

 

 そこへ、メールとポポロもやっと到着しました。ルルがメールの腕の中から尻尾を振ります。

「無事で本当に良かったわ、ロキ。でも、どうして町の外に出たりしたの?」

「元に戻って困ったってことは、闇の民の姿に戻るとは思ってなかった、ってことだろ? 小さいロキのままで、こんな雪の中に出ていくなんて、危険すぎるじゃないか」

 とメールも言います。

 ロキは少女たちを振り向いて、また笑顔になりました。

「姉ちゃんたちも、久しぶり。実は、町の外に気になるものを見つけたから、それを確かめようとしたんだよ」

「気になるもの?」

 とフルートは聞き返しました。

「うん。でもさ、それを話す前に、兄ちゃんのマントをおいらに貸してくれないかな? おいら、見た目は闇の民でも、中身は人間なんだよね。この恰好じゃ寒くて寒くて。兄ちゃんは魔法の鎧を着てるから、マントがなくても平気だろ?」

 ちゃっかりとそんなことを言うあたりも、昔のままのロキでした。仲間たちは思わず苦笑しましたが、フルートはすぐにマントを外して、ロキに着せてやりました。ロキがはおっていたマントは幼児用で、少年になったロキには小さすぎたのです。

 緑色のマントに足元まで包まれると、ロキは嬉しそうに言いました。

「ああ、暖かいや! 生き返るなぁ!」

「そら、これも食って、体の中からも温めろ」

 とゼンが荷袋から携帯食を差し出したので、ロキはますます笑顔になりました。そんなふうに笑うと、生意気そうな顔が急に素直になります。

「ありがとう! 兄ちゃんたちは、やっぱりすごく優しいね!」

「お世辞はいいから、さっさと食え。足りなけりゃ、もっとあるからな」

 なんだかんだ言いながらも、フルートに劣らず面倒見の良いゼンでした。

 

 で? とフルートはロキに尋ねました。

「気になるものって、なんだったんだ? 小さなロキのままでも確かめに行かなくちゃいけないほど、重要なことだったのかい?」

 うん、とロキは携帯食を食べながらうなずきました。

「昨日、父ちゃんたちとラトスの町に買い物に行って、帰り道に、荒野の雪の中にちらっと見えたんだ。馬そりで走っていたから、一瞬で通り過ぎたけど、もし本当においらが思った通りのものだったら、放ってはおけないと思って、父ちゃんや母ちゃんに話したんだよ。でも、おいら、その時はちっちゃなロキだったから、全然話を聞いてもらえなくてさ。しょうがないから、おいら一人で町の外に出て行ったんだ。おいらが外に出たってわかれば、絶対父ちゃんたちも町の人たちも探しにきてくれるはずだもんな。そうやって、みんなを案内しようと思っていたんだけど――まさか、闇の民の恰好に戻っちゃうなんてさ。想定外もいいとこだよ。この恰好じゃ町にも戻れないし、どうしようと思っていたら雪まで降ってきて、寒くてしょうがないから、とりあえず雪に穴を掘って中に潜っていたんだ」

「雪に穴を? どうやって掘ったんだ?」

 とゼンは尋ねました。

「もちろん、手で掘ったんだよ。ちっちゃなロキじゃ、雪を掘る道具なんて持って歩けなかったもんな」

 とロキは空いている手を広げて見せました。手のひらや指が真っ赤に腫れ上がって、指先には血がにじんでいたので、ゼンは顔をしかめました。

「無茶しやがって。だが、無茶でもそうしたのは正解だったな。長時間この雪ン中をさまよっていたら、体温を奪われて死んでいたかもしれねえもんな」

 すると、ロキは、ふふん、と得意そうに笑い返しました。

「ゼン兄ちゃん、おいらを誰だと思ってるのさ? 昔は、あの北の大地で生きるトジー族だったんだぜ。こんなことくらい、基本中の基本だろう?」

 一方、フルートはペンダントを引き出してロキに押し当てていました。凍傷にかかった手が、みるみる綺麗になっていったので、ロキはまた嬉しそうな顔になりました。

「金の石の力は、相変わらずすごいなぁ。体も温かくなってきたよ。でも、腹はまだもう少し減ってるな。ゼン兄ちゃん、お代わりをもうひとつくれよ」

 図々しいくらいちゃっかりしているところは、本当に相変わらずのロキです――。

 

 ロキが二つめの携帯食を食べ始めたので、フルートはまた尋ねました。

「君が荒野に見つけたものって、なんだったんだ? 怪物が雪の中にいたのか?」

 ロキが闇の民に姿に戻ったのは、荒野に闇の灰が降って、闇の気配が濃くなっているためです。だとすれば、闇の怪物も荒野に出現したのではないか、とフルートは考えたのでした。

 すると、ロキは食べるのをやめました。今までの茶目っ気のある表情が嘘のような、真剣な顔つきになって言います。

「怪物よりもっとたちが悪いよ……。あれが本当にそうだったら、絶対に大変だ」

「だから、なんなんだよ!?」

「何があったって言うのさ!?」

 と短気なゼンとメールが同時に声を上げます。

 ロキはフルートたちの顔を見回すと、ゆっくりとこう言いました。

「闇の花だよ……。闇の花が、この地上に生えてるんだ」

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