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第20巻「真実の窓の戦い」

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第13章 三つめの窓

37.三つめの窓

 ロキ、どこにいるんだ!? 返事をしろ! と呼ぶ声が、窓のすぐ向こうから聞こえてきたので、フルートたちは仰天しました。彼らにとって、あまりにも縁の深い名前でした。まさか……と誰もが考えてしまいます。

 すると、窓の向こうで急に風向きが変わりました。雪まじりの風が、窓からどっと吹き出てきます。その匂いをかいで、ポチが叫びました。

「ワン、大荒野の匂いだ! やっぱりここはシルですよ!」

 それを聞いたとたん、フルートたちはいっせいに窓へ駆け出しました。窓枠を乗り越え、向こうに見えている雪原へと飛び出していきます――。

 

 とたんに雪が彼らに吹きつけてきて、周囲が見えなくなりました。雪原は吹雪になっていたのです。思わず立ち止まった一行の後ろで、真実の窓が消えていきました。フルートたちは吹雪の真ん中に取り残されてしまいます。

 けれども、風はすぐにやみました。雪がまた上から下へ降るようになります。

 同時に、彼らのすぐ近くで声がしました。

「誰だ、君たちは!? どこから来たんだ!?」

 振り向くと、防寒具を着て長い棒を持った男性が、そこに立っていました。雪で真っ白になったフードの下で、目を丸くしています。その人をフルートたちは知っていました。いっせいに声を上げます。

「ロキのお父さん!!」

 男性のほうも金の鎧兜を着たフルートに気がついて言いました。

「フルート君じゃないか! それに勇者の仲間たちも! どうしてここにいるんだい!?」

 それは闇の民から人間に生まれ変わったロキの父親でした。かつて仮面の盗賊団の戦いのときに、ロムドのコネルアの町でフルートたちと出会い、フルートたちがロキを盗賊団から助け出した後、奥さんの実家を頼ってシルの町に移り住んだのです。

 ロキの父親は突然現れたフルートたちに驚いていましたが、フルートたちはそんなことにはかまわず、いっせいに尋ねました。

「おじさん、ロキを探しているんですか!?」

「ロキがいねえのかよ!?」

「いつからさ!?」

 ロキの父親は我に返りました。

「君たちもロキを探しに来てくれたのか! ありがとう……! いつの間にいなくなっていたのか、わからないんだよ! 気がついたら家の中から姿を消していて、家から町の外へ一人で歩いていく足跡が、雪の上に残されていたんだ! 君たちも知っているとおり、あの子はちょっと変わった子どもだ。これまでも、他の子どもと遊ぼうとしなくて、一人で遊んだり勝手に出かけたりしていたんだが、それにしても、こんな天気の中を町の外へ出かけるなんてことはなかったんだよ。町の人たちと急いで足跡を追いかけてきたんだが、雪が降ってきて足跡がわからなくなってしまったんだ――!」

 そう言って父親は周囲を見回しました。荒野に降りしきる雪の向こうからは、やはりロキを呼ぶ声がいくつも聞こえていました。町の人々が探し回っているのです。

 フルートたちは青くなりました。雪は降り続き、すでに彼らのふくらはぎのあたりまで積もっています。小さな子どもがこんな雪の中に出かけていって、無事ですむはずはありませんでした。

「おじさん、ぼくたちもロキを探します!」

「絶対見つけてやるぜ!」

「ありがたい! 頼むよ――!」

 とロキの父親が言ったとたん、またごうっと風が吹いてきました。吹雪があたりを真っ白に染め、視界が効かなくなってしまいます。

 けれども、風は間もなくやみました。雪が静かに降るようになって、あたりがまた見通せるようになります。

 腕で顔をおおって雪を防いでいたロキの父親は、自分が雪原の中にひとりで立っていたので、びっくりしました。今までいたはずのフルートたちが消えていたのです。夢でも見ていたのかと思いましたが、足元には彼らの足跡が残されていました。もうロキを捜しに駆け出していったのです。

「頼むよ。今回もロキを助けてくれ」

 と父親は祈るようにつぶやくと、また息子の名を呼びながら雪原を歩き出しました――。

 

 吹きすさぶ雪の中をフルートたちは走り、なだらかな斜面を下っていきました。風の強い場所なら積雪もさほどではありませんが、窪地(くぼち)まで来ると雪はいきなり深くなって、彼らは腰のあたりまで埋まってしまいました。ポチとルルは、完全に雪に潜ってしまいます。

 風がやんで、また見通しが効くようになりましたが、彼らは雪の中で立ち往生してしまいました。

「ロキの親父さんみたいに、雪ン中を探る棒が必要だったな。雪だまりに突っこんじまったぜ」

 とゼンが渋い顔をします。

「雪がますます降ってきている。一刻も早くロキを見つけないと」

 とフルートは真剣な顔で言いました。かつては北の大地に暮らすトジー族だったロキですが、今は普通の人間に生まれ変わっているので、トジー族のように寒さに強くはありません。しかも、ロキはまだ三歳前の幼児です。こんな天候の戸外にいれば、たちまち体温を奪われて凍死してしまいます。

「ワン、雪におおわれて匂いがしないんですよ。雪が降っているから、ぼくもルルも変身できないし」

 とポチは悔しそうに言いました。雪の中からなんとか抜け出そうとするのですが、もがくと逆に周囲の雪が崩れてきて、生き埋めになりそうになります。フルートはポチを引っ張り出して、自分の肩に載せました。ルルは長身のメールに抱いてもらいます。

「とにかく、もう少し雪のねえところに出よう」

 とゼンは先頭に立って歩き出しました。故郷の北の峰で獲物を追って雪山を駆け回ったゼンです。雪の少ない場所を見分けながら、仲間たちを低い丘の頂上へ案内します。

 

 丘の上からは周囲がよく見えました。雪は相変わらず降り続けていますが、雪原も、そこでロキを探す人たちも、見極めることができました。いくつも連なる低い丘の向こうには、シルの町も見えています。

 ポチがフルートの肩から町を見て言いました。

「ワン、教会の塔が見える。ここはシルの町の南西みたいですね」

「だが、やっぱりロキは見当たらねえな――。ロキの親父さんたちは足跡を追いかけてきて、あの辺を探し回っているだろう? ロキは今はチビ助だからな。あのあたりから、そう遠くへは行けねえはずなのに」

 とゼンは重い声で言いました。目の良いゼンですが、いくら見回しても、小さな子どもの姿を雪原に見つけることができなかったのです。

「まさか、雪の中に埋まっているの!? 死んじゃうじゃない!」

 とルルが言いました。彼女自身、自分の背丈より深い雪の中にいたので、全身雪まみれになってしまっています。

「ポポロ、まだ見つからないかい!?」

 とメールもあせって尋ねましたが、ポポロは遠い目のまま首を振りました。

「見当たらないの……。あたしは丘の陰でも雪の中でも見通せるんだけど、あの付近にロキはいないのよ……」

 いったいどこへ!? と彼らは本当にあせりました。フルートは唇をかみ、両手を拳に握って雪原を見回し続けます。一面の雪原は、昔ロキと一緒に駆けた北の大地のようでした。うかつに踏み入れば、たちまち雪と氷に閉じこめられて、命を落としてしまいます――。

「ワン、ぼく、やっぱり変身します! 上を飛んでロキを探しますよ!」

 とポチが飛びたちそうになったので、フルートはあわてて引きとめました。雪はすぐに吹雪に変わります。吹きすさぶ雪の中を飛べば、ポチは風の体を吹き散らされて死んでしまうのです。

 フルートの腕の中で、ポチはほえました。

「ワンワンワン……ロキ! どこですか、ロキ!? 返事をしてくださいよ……!」

 犬のほえる声は人の声よりも遠くまで響きますが、やはり誰も応えません。

 雪は後から後から降ってきます――。

 

 と。

「なぁんだ。誰が大騒ぎしてるのかと思ったら」

 彼らから少し離れた場所で急に声がしました。そちらに人影がなかったので、フルートたちがぎょっとすると、隣の丘の中腹で雪が崩れて、中から人が出てきました。十歳くらいの小柄な少年で、髪は黒く、黒い服を着て短いマントをはおっています。

 その顔を見たとたん、フルートたちはあっけにとられてしまいました。彼らがよく知っている人物だったのです。

 すると、少年も、にやりと笑いました。

「こんなところで金の石の勇者の一行に会えるなんて、おいらは本当についてるな。お久しぶり、兄ちゃんたち。相変わらず元気そうだね」

 小生意気な口調でそう言うと、ロキは、えへへっ、と声をたてて笑いました――。

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