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第20巻「真実の窓の戦い」

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36.通路

 真実の窓から飛び出して通路に戻ると、ポチとルルはすぐに変身を解いて犬に戻りました。二匹が巻き起こした風が、通路を吹き渡って遠ざかり、ぼぉぉぉ……と低い笛のような音をたてます。

 通路に降り立った一行は、ふぅっと大きな息を吐きました。自分たちが出てきた窓を振り向くと、そこにはいつの間にか一枚ガラスがはまっていて、もう向こう側へ戻ることはできなくなっていました。窓の向こうは一面の空ですが、雪雲が切れて、青空に変わっていく様子が見えていました。やがて、雲の切れ間から太陽が顔をのぞかせます。

「闇の灰がなくなったから、上空から雲も消えたんだわ……」

 とポポロが言ったので、フルートたちは少し安心しました。この好天がいつまで続くのか、彼らにはわかりませんが、ずっと雪と寒さに閉じこめられてきた街の人々には、きっと恵みの日ざしになることでしょう――。

 

 風が吹き抜けた後の通路に、しんと静けさが戻ってきました。灰色の絨毯を敷き詰めた通路の両側には、数え切れないほどたくさんの窓が並んでいます。すべて、この世界の「今」を映している真実の窓です。

 それを彼方まで見遠しながら、フルートが言いました。

「今の窓の向こうでも、デビルドラゴンを倒す方法は見つからなかった。竜の宝のことも、まったくわからない。でも、真実の窓はぼくたちに真実の手がかりを示してくる。今の窓でも、きっとぼくたちは何かをつかんでいるんだ。そうとは気がつかないうちに」

 だな、とゼンがうなずきました。

「何が手がかりなのかわかんねえのは参るけどよ。デビルドラゴンが、ちらっと姿を現したもんな。なんか関係あるんだろう。――しっかり考えろよ、フルート、ポチ」

「え、考えるのはぼくたちだけなんですか!?」

「人任せにするな。一緒に考えろよ!」

 とポチとフルートが反論すると、ゼンがまた言いました。

「無茶言うな。こんな正体不明で曖昧(あいまい)な手がかりを、俺たちにどうにかできると思うのか? 考えるのは、おまえらの仕事だよ」

 そうそう、とメールもうなずきました。ゼン同様、単純明快な考え方をするので、やはりこんな漠然としたものは苦手だったのです。

 フルートは仲間たちへ言い続けました。

「そうは言うけれど、二つの窓の向こうには共通点もあったじゃないか。ユラサイでも、ロムドのレコルでも、噴火で飛び散った闇の灰の影響を受けていた。それが闇を刺激して、闇の怪物を増やしていたんだ」

「でも、それのどこがデビルドラゴンを倒す方法になるの? 竜の宝ともまったく関係ないでしょう?」

 とルルが言ったので、フルートは困った顔になりました。そんなふうに突っこまれると、フルートにもそれ以上は説明できなかったのです。

 

 すると、ポポロが言いました。

「次の窓を探しましょう。三つ目の真実の窓を……! いくつもの窓を見ていくうちに、きっと窓が何を伝えたがっているのかわかると思うのよ!」

 普段はおとなしい彼女が、懸命に仲間たちに訴えていました。彼らがあきらめてしまえば、フルートはデビルドラゴンの消滅を願い石に願ってしまうと考えて、必死になっていたのです。

 仲間たちは思わず笑顔になりました。

「大丈夫だ。あきらめてるわけじゃねえ」

「そうさ。ヒントが少なくて、わけがわかんないって言うなら、ヒントを集めて回ればいいってことだもんね」

「三つ目の窓を探しましょう、ポチ。また私たちの出番だわ」

「ワン、そうだね。真実の窓からは、窓の向こうの匂いがしてきて、ぼくたちにはすぐわかるんだから」

 二匹の犬たちが匂いをかぎながら通路を駆け出したので、ゼンとメールはそれを追いかけていきました。

 ポポロはフルートへ手を差し出しました。

「さあ、行きましょう、フルート」

 すると、フルートはちょっとまぶしそうな目をしました。光などどこからも射してこない場所なので、ポポロが怪訝(けげん)に思うと、フルートは笑顔で言いました。

「違う、君がまぶしかったんだよ。みんなを励ましてくれてありがとう」

 ポポロは真っ赤になると、あたしは何も……と言いかけ、急に真剣な表情に変わりました。自分からフルートの両手を握って言います。

「あきらめないで手がかりを探しましょうね、フルート。真実の窓をくぐって、その向こうにあるものを見て……。あたしたちも一緒に探すから、最後までずっと一緒に探すから……だから、フルート一人で見つけて行ってしまったりしないでね。約束よ」

 フルートも顔を赤くしました。籠手におおわれていない手のひらに、ポポロの手のぬくもりを感じながら、わかった、とうなずきます。願い石に願えば簡単にデビルドラゴンを倒せるとわかっていても、フルートがそれをしないのは、この華奢で温かな少女の手が彼をつなぎ止めているからです――。

 

 その時、通路の先で仲間たちが声を上げました。

「あったぞ! 次の窓だ!」

「早くおいでよ! また雪だらけだよ!」

 ワンワンワン、と犬たちも呼んでいます。

 フルートとポポロは手をつないだまま駆け出し、仲間たちの元へ行きました。ガラスがはまっていない窓の向こうをのぞき込んで、フルートが言います。

「野原だな。本当に雪でいっぱいだ」

 そこには一面の雪原が広がっていました。雲におおわれた空からは雪が降りしきり、細々と生える木に降り積もって、枝をしならせています。

 ルルが言いました。

「この向こうからも闇の匂いがするのよ。しかもレコルより強いわ。たぶん空にあるのは闇の灰の雲だろうし、地上にも闇の灰が降っているんじゃないかしら」

「とすると、噴煙が流れた道筋に当たる場所だってことか。ここも雪が降り続いて、日ざしがなくなっているんだな。いったいどこだろう?」

 とフルートは窓の中の景色を見渡し続けました。噴煙の流れた場所は、ザカラスからユラサイまで広範囲に渡りますが、レコルより闇の匂いが強いのであれば、レコルよりもっと火山に近い地域なのかもしれません。ザカラスの南部かな……とフルートは考え続けます。

 すると、ポチとルルが急に、ぴんと耳を立てました。

「ワン、人の声が聞こえてきますよ」

「大勢が誰かを探しているみたいね」

 そこでフルートたちは息をひそめ、窓の向こうへ耳を澄ましました。ガラスのない窓枠の向こうから、冷気と共にかすかな声が伝わってきます。

 とたんに、犬たちが、えっとまた声を上げました。耳の良い犬たちは、フルートたちより早く声を聞き分けたのです。びっくりしたように顔を見合わせます。

「あなたもそう聞こえたの? ポチ」

「ルルも? じゃあ、聞き違いじゃないんだ」

「なんだよ!?」

「何が聞こえたのさ!? 教えなよ!」

 とゼンとメールが、じれて言いました。彼らの聴覚では、まだ声の内容までは聞き取れなかったのです。

 すると、窓のすぐ近くで、ざくりと雪を踏む音がして、急に大きな男性の声が響きました。

「ロキ! ロキ、どこにいるんだ!? 返事をしろ!」

 男性の声は、そう言っていました――。

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