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第20巻「真実の窓の戦い」

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35.野次馬(やじうま)

 怪物になりかけた闇の灰が消えていっても、勇者の仲間たちはしばらく動くことができませんでした。彼らの心を強烈な恐怖が縛っていたのです。

 すると、フルートがペンダントを首に戻しながら言いました。

「灰の中から生まれようとした怪物は、ドラゴンに似ていた。翼も四枚あったような気がする。ひょっとしたら、本当にデビルドラゴンがあそこから現れようとしていたのかもしれないな」

 フルート自身も、怪物を見た瞬間、すさまじい恐怖に襲われてしまいました。それは、デビルドラゴンに出会ったときの感覚によく似ていたのです。

 仲間たちは大きく息を吐き、ようやくまともに動けるようになりました。

 ゼンが舌打ちします。

「ったく。なんで、よりにもよってデビルドラゴンなんだよ? 俺たちがここにいることに気がついたのか?」

「かもしれない。ぼくたちの姿は金の石の力で奴から見えなくなっているけれど、大きな魔法を使うと、それを奴に感知されるからな――。金の石と願い石のおかげで助かったんだ」

 とフルートは答えました。その時にはもう精霊たちは姿を消していて、空にいるのはフルートたちだけになっていました。

 

 すると、話し合う彼らの足元からも、大勢の人の声が聞こえてきました。地上から吹き上げる風が、話し声を運んできたのです。

「おい、あれって人だろう?」

「なんで人が空にいるんだよ!?」

「あの空飛ぶ蛇みたいなのは何? 怪物――!?」

 街の人々が通りに立って、空のフルートたちを指さしていました。街の中を謎の光が通り過ぎていった後、黒い煙が地面から立ち上って、上空で巨大な渦になったので、人々は驚いて空を見上げていたのです。不思議な生き物に乗った一行が、強い光で渦を消した一部始終も見ていました。

「あれはきっと金の石の勇者たちだぞ!」

 と勘のよい人が声を上げたので、人々は空の一行の正体を知りました。

「金の石の勇者!?」

「あれが――!」

「空には怪物が見えたぞ! 金の石の勇者が倒してくれたんだ!!」

 騒ぎがどんどん大きくなっていくので、フルートたちはあせりました。

「おい、やべぇぞ。人が集まってきた」

「フルートのおじいさんの家のまわりが、人でいっぱいになってるわよ」

「早く、中庭に戻ろうよ! 真実の窓をくぐらないと!」

「ワン、こんなに注目を浴びながら下りたら、おじいさんの家にみんな殺到しますよ! 大騒ぎになる!」

 下りるに下りられなくなって、一行は困ってしまいました。どこか人目につかないところはないか、と空を飛び始めると、野次馬もそれを追いかけてきます。金の石の勇者だ! 空を飛んでいるぞ! と叫び続けているので、それを聞きつけた人が外に出てきて、騒ぎはますます大きくなります。

 噴水のある広場の上まで来ると、歩道に面した建物から仕立屋の主人と弟子も出てきました。空にいるのが先ほどの客だと気がついたのか、ぽかんと見上げています――。

 

 すると、ポポロが、あっと声を上げました。行く手の空を指さします。

 そこには、蔦のような縁飾りのある窓が浮いていました。ガラスのない窓の向こうには、無数の窓が並ぶ通路があります。

「ワン、真実の窓だ!」

「迎えに来てくれたのね!」

 真実を彼らに見せるという窓は、まるで空が壁になっているように、青空の中にきっちりとはまり込んでいました。当然のことのように、そこに存在しています。

 フルートは、ほっとして言いました。

「よし、戻るぞ」

 おう! と一行は返事をすると、ポチが前、ルルが後になって窓に飛び込んでいきました。

 空から彼らの姿が消えると、窓もすぐ見えなくなっていきます。

 

 勇者たちがいなくなったので、野次馬たちはまた大騒ぎをしました。消えたぞ!? どこに行ったんだ!? と口々に言い合います。窓に飛び込んでいくのを見た、という人もありましたが、窓に空なんかあるもんか、と他の野次馬から一蹴(いっしゅう)されてしまいました。

 すると、そんな人々の上に日ざしが降ってきました。雪雲が消えて、太陽が出てきたのです。レコルでは、もう二カ月以上も雪か曇りの日が続いていたので、街の人々が太陽を見るのは、本当に久しぶりのことでした。誰もがまぶしそうに目を細め、全身で太陽のぬくもりを受けとめます。

 騒ぎを聞きつけて通りに出ていた子どもたちも、目をぱちくりさせながら、久しぶりの太陽を見上げていました。口々に大人たちに尋ねます。

「ねえ。これって、金の石の勇者のおかげ?」

「金の石の勇者が、お日さまを連れてきてくれたの?」

 大人たちはそれに答えることはできませんでした。彼らにもよくわからなかったのです。

 金の石の勇者を捜す騒ぎはいつの間にか収まり、人々は頭上に広がっていく青空を見上げていました――。

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