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第20巻「真実の窓の戦い」

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23.次の窓

 「次の窓を探しゃいいわけだよな。ガラスがはまってない窓を探せ。それが次の真実の窓だ」

 とゼンが言ったので、仲間たちはあちこちの窓へ散っていきました。中には昼の景色、夜の景色、山の景色、海の景色、平原や街の景色……とさまざまな風景が見えています。今現在、世界のどこかに存在している風景です。

「ガラスがはまっていないんだから、また匂いがするはずよね。私たちの出番だわ。探しましょう、ポチ」

 とルルが鼻面を上げて、くんくんと匂いをかぎ始めました。

 ポチも一緒にあたりの匂いをかぎました。通路はしんと静まり返って、冷たい石壁の匂いがしていますが、奥の方から、かすかに別の匂いが漂ってきます。ポチは懸命に匂いをかいで言いました。

「ワン、これはパンの焼ける匂いだ。それに、肉を焼くような匂いもする」

「あら、本当。どの窓かしら?」

 ポチとルルは匂いを追って駆け出しました。通路を走っていくと、おいしそうな匂いはどんどん強くなっていきます。同時に他の匂いもし始めます。

「ワン、馬車の匂いだ。それと、たくさんの人の匂い、石畳の匂い、泥とゴミの匂い……街の匂いだな」

「雪の匂いもするわね。あとは――やだ。闇の匂いよ、これ」

 とルルが顔をしかめました。様々な匂いと一緒に、はっきりと、闇の匂いもかぎわけてしまったのです。

 ワンワンワン、とポチは大きくほえました。駆けつけてきたフルートたちに言います。

「ワン、この先に次の真実の窓があります。街の匂いがするんです。ルルは闇の匂いもするって言ってます」

「どれだ?」

 とフルートたちは付近の窓を見回しました。窓は様々な景色を映し出しています――。

 

 すると、ひとつの窓から、ひゅうっと風が吹き出してきました。風には白い雪がまじっています。

「あれだ!」

 と一同は窓の前へ走りました。ガラスがはまっていない窓枠の向こうに、広場と、そこに面して建ち並ぶ大小の建物が見えていました。教会も、店屋もあるようです。

 彼らの目の前を、二頭立ての馬車が横切っていきました。その向こう側の歩道を、大勢の人が行き交っています。広場や歩道には雪が降り積もっていますが、馬車や人がひっきりなしに通るところは、雪が溶けて泥だらけのぬかるみになっていました。鈍色(にびいろ)の空から雪が降ってくるので、人々は厚着をして、足早に通り過ぎていきます。

「みんな、見慣れた恰好をしている……。ここはきっと中央大陸のどこかの街だな」

 とフルートが言いました。人の服装は地域によってかなり違いますが、この街の人々は、男性はズボンに厚手のマントかコート、女性は長いスカートにフード付きのショールという、フルートにもなじみのある恰好をしていたのです。

「ねえさぁ、こんなに人がたくさんいるところに出ていって大丈夫かい? 窓を通って向こうへ行ったら、あっち側の人たちには、あたいたちが突然姿を現したように見えるんだろ? びっくりされるんじゃないかな?」

 とメールが言ったので、一同は考え込んでしまいました。窓の外に見えているのは、ごく普通の街の広場の風景です。そこへ突然フルートたちが出ていったら、確かに大騒ぎになってしまうかもしれません。

 すると、ポポロが言いました。

「あたしの肩掛けを使いましょう。これで姿を消して、こっそりあっち側へ行くの……!」

 なるほど、と一同はすぐにポポロのまわりに集まりました。フルートとゼンがポチとルルを抱き、オシラにもらった肩掛けをつけたポポロや、ポポロと手をつないだメールと手を握り合います。

 

「よし、行こう」

 とフルートは言って、真っ先に窓を乗り越えました。すると、そこはもう雪が積もった広場の外れでした。振り向けば空中に真実の窓が浮いていて、そこからポポロが出てこようとしています。フルートはつないだ手に力を込めて彼女を支え、続けてメールとゼンが出てくる様子を見守りました。全員が街に出たところで、窓は音もなく消えていき、勇者の一行だけが残されます。

 彼らは周囲を見回しました。

「ここはどこだろう? 真実の手がかりらしいものはあるかな……?」

 とフルートが言っていると、目の前を馬車が勢いよく通り過ぎていきました。御者には彼らの姿が見えていないのです。

 一行は急いで広場の端へ移動しました。歩道があって人が通っているので、歩道の手前に立ってあたりを観察します。

 四角い広場を囲むように建物が建ち並び、その手前に一段高くなった歩道が巡らしてありました。雪が多い地方のようで、歩道や広場ののあちこちには雪かきをした後の雪の山ができあがっています。広場の中央の噴水も、雪にすっかりおおわれ、こぼれた水は凍りついて氷の柱になっています。

 なんとも寒々しい風景の街ですが、ここがどこなのか、フルートたちにはわかりませんでした。看板はあちこちにありますが、中央大陸の国々は同じ中央文字を使っているので、文字で場所を知ることもできません。

 すると、フルートに抱かれていたポチが急に言いました。

「ワン、あの看板! 仕立屋(したてや)って書いてあるけど、上にロムドの紋章がありますよ!」

 一同は驚いてその看板に駆け寄りました。仕立屋という文字を読めるのはフルートとポチだけでしたが、その上に冠のように掲げてあるもうひとつの看板には、確かに、獅子と樹と山を配したロムド国の紋章が描かれていました。

「これは、王室御用達(ごようたし)の店だけが掲げられる看板だよ――。つまり、ロムド王たちの服を作っている仕立屋ってことだ」

 とフルートが言ったので、ええっ!? と一同はまた驚き、通行人がいぶかしそうに振り向いたので、あわてて声をひそめました。

「ってことは、ここはロムドなのか?」

「あたいたち、窓をくぐって今度はロムドに来たわけ?」

「ロムドのどこ? 王都のディーラ?」

「ううん、ロムド城は見えないわ。別の街だと思うけど……」

 フルートとポチは焦って周囲を見回し続けました。彼らの故国ですが、街並みに見覚えはありません。訪れたことがない街なのです。

 

 しばらく考えてから、フルートは言いました。

「中に入って、店の人に話を聞いてみよう。そうすれば、きっとわかるはずだ」

 仕立屋の入口の扉は、彼らのすぐ目の前にありました。「ルイースの店」と刻んだ表札が出ています。

 フルートは、ポチをそっと地面に下ろし、ポポロの手を離しながら店の戸を開けました。

 とたんに鈴の音が響き、暖かい部屋が目の前に現れました――。

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