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第20巻「真実の窓の戦い」

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20.壁画

 ロウガがランプで照らした屯所の壁を、フルートたちは眺めました。白い切石を積み上げて作った建物ですが、奥の壁に、確かに薄く絵のようなものが浮かび上がっています。高さが五十センチくらい、幅は二メートルほどの、横に細長い絵です。

「埃が降り積もっています。払ってみましょう」

 とラクが呪符を投げると、たちまち壁から埃が消えて、色鮮やかな絵が現れました。鎧兜を身につけて剣や槍を持った大勢の人、渦巻く雲、空を飛ぶ大きな竜、そして、それに対抗するように反対側から押し寄せてくる黒い軍勢と巨大な黒い竜。黒い竜の背中には四枚の翼が描かれています――。

「デビルドラゴンだ!!!」

 まったく予想もしていなかったものの出現に、彼らは大声を上げてしまいました。

 すると、竜子帝は向かって右側に描かれた軍勢の先頭の人物を見て言いました。

「青い服を着ているぞ。これは琥珀帝に違いない」

 そう言う竜子帝自身も、青い服を着ていました。王宮で青を身につけることができるのは帝ただ一人なので、絵に描かれるときにも、青は帝を象徴する色になるのです。

「こっちは白い竜! 神竜ね!」

 とリンメイも言いました。ユラサイの守り神である白竜は、琥珀帝の頭上に描かれています。

「ということは、これは琥珀帝が闇の軍勢と戦ったときの壁画なのか。二千年前の、光と闇の戦いの記録だ」

 とフルートは言いました。驚きと興奮で体が震え出します。

「あの戦いの記録は地上からは消えてしまったはずなのに、こんなところに残っていたのね」

「ワン、デビルドラゴンは世界中に呪いをかけて、戦いの記録を消したり変えたりしたんだけど、ここは紅門高師がいる場所だったから、呪いをまぬがれていたんだ。高師のおかげなんだよ」

 と犬たちが言ったので、一同は部屋の中央の塚を振り向きました。国を敵から守るために自分自身を防壁の一部にした術師が、そこに埋まっています。彼らは誰からともなく塚へ深々と頭を下げました――。

 

 それから、彼らは改めて壁画を眺めました。

 絵は、彼らの目線とちょうど同じくらいの高さに描かれていました。石の上に白い漆喰(しっくい)を薄く塗ってから顔料で描いているので、驚くほど色鮮やかな絵になっています。

 それを注意深く眺めて、フルートが言いました。

「デビルドラゴンが率いる闇の軍勢は、黒一色で描かれているけど、琥珀帝が率いている軍勢は、いくつかの色が混じっているな。緑色の防具を着た兵士が多いけれど、白や黄色の防具の兵士もいる」

「緑は国の色だから、シュンの軍勢ね。白や黄色は古くから光を象徴する色。光の軍勢を意味しているんだと思うわ」

 と歴史に詳しいリンメイが言いました。ラクもうなずきます。

「おそらくこれは、光の軍勢がシュンの国に到着してからの戦いの場面でございましょう。琥珀帝はデビルドラゴンを拒否して、光の軍勢と一緒に戦った。その場面を描いた絵なのでしょう」

「こういうの、前にも見たよねぇ。ユラサイの王宮の書院でさ」

「ああ。おとぎ話だと思ってた絵巻が、いきなり戦記に変わったんだったよな。あん時はすぐに絵巻が燃え出して、じっくり見る暇なんかなかったけどよ。こんな感じの絵だったことは覚えてるぞ」

 とメールとゼンが話し合います。

 フルートは壁画を眺め続けました。屯所に埋められた宝というのは、人柱になった術師自身のことであって、彼らが探し求める竜の宝のことではありませんでしたが、それでも、目の前にあるのは貴重な記録でした。二千年の時を越えて彼らの前に現れた絵に、何か手がかりはないかと、たんねんに見ていきます。

 すると、隣で一緒に見ていたポポロが、絵の一箇所を指さして言いました。

「ねえ、ここ……何かがはがれた痕のように見えない?」

 そこは光の軍勢の先頭に立つ琥珀帝の、さらに前に当たる場所でした。周囲と比べて、ほんの少し白さが増している箇所があります。

 どら、と身を乗り出してきたのはゼンでした。あちこちの角度から絵を眺めて言います。

「ポポロの言うとおりだ。ここの漆喰がはがされてるぞ。削った痕が残ってらぁ」

「誰かがこの部分を削ったってことか?」

 とフルートは驚いて、足元の床を見ました。はがされた漆喰が落ちているのではないかと考えたのですが、そんなものは見当たりませんでした。

 竜子帝も興味をひかれて、その部分を眺めました。

「ここには何が描かれていたのだろう? ラク、復元することはできないか?」

「申し訳ございませんが、それは不可能でございます。この場所には非常に強い力が充ちているので、私が術を使うのは困難なのです。おそらく、紅門高師が今もここを支配しておいでなのでしょう」

 と術師が答えます。

 ふぅむ、と一同は絵を見つめました。削られた部分に何が描かれていたのか、何のためにそこだけが削られたのか、と考え続けます。

「ひょっとして、画描きが琥珀帝を書き損ねたんで、失敗を削って後ろに描き直しただけじゃねえのか?」

 とゼンが言って、そんなまさか! とメールに背中をたたかれます――。

 

 一方、全員の中で一番背が高かったロウガは、太陽の石のランプを掲げて絵を照らしながら、絵の上の部分を眺めていました。

 そこには渦巻く雲が描かれていましたが、よく見ると、雲の中を何頭もの竜が飛んでいました。頭が犬になった風も描かれています。竜や犬が背中の上に人を乗せているのを見て、ロウガは満足そうにうなずきました。

「この竜は、間違いなく竜仙郷の飛竜だな。で、こっちは風の犬だ。二千年前に竜仙郷の一族が闇と勇敢に戦ったって言い伝えは、本当だったわけか」

「ワン、風の犬も描かれているんですか!?」

「どれ? 私たちにも見せてよ!」

 背が低くて絵がよく見えない犬たちが騒いだので、ロウガはポチをひょいと自分の右肩に載せ、次いでルルを抱き上げました。二匹の犬たちに、空飛ぶ生き物の絵を見せてやります。

「ワン、本当だ! 風の犬がいる!」

「乗せているのは天空の民ね! 本当に、地上の人たちと一緒に闇と戦っていたんだわ!」

 と二匹は嬉しそうに絵を眺めました。今から二千年も前の出来事ですが、それでも、自分のことのように誇らしい気持ちになります。

「ワン、デビルドラゴンも空飛ぶ敵を引きつれているよね。あれは闇の民じゃないかな。黒い翼のある人が空を飛んでる」

「黒雲の中にも怪物がたくさんいるわよ。地上だけじゃなく、空でも激しい戦いになったんでしょうね」

 とポチとルルは話し続けました。絵は人や生き物の数が非常に多く、描き込みも細かいので、眺めても眺めても新しい発見が出てきます。

 

 やがて、ポチは風の犬と一緒に空を飛んでいる人がいることに気がつきました。他の人々は竜や風の犬に乗っているのに、この人物だけは、自分自身で空を飛んでいます。

「ワン、これは誰だろう? 自力で空を飛んでいるよ」

「どれ? あら、ほんと。術師かしら?」

 すると、ロウガが言いました。

「術師じゃあないだろう。髪の色が違うからな。これは西から来た奴だ」

 ロウガの言うとおり、空を飛んでいる人物は、長くて黄色い髪をなびかせていました。ユラサイ国の人々は、誰もが黒い髪をしているのです。

「ワン、天空の民が魔法で空を飛んでいるのかな?」

「え、こんな状況で? 魔法で飛行しているとしたら、他の魔法はほとんど使えなくなっちゃうのよ。戦えなくなるわ」

 じゃあ、誰だろう? と犬たちは考え、思い当たらなかったのでフルートを呼びました。

「ワン、ちょっと来てください。ここに不思議な人が描かれているんです――」

 どれどれ、とフルートだけでなく、他の仲間たち全員が集まってきました。長い黄色い髪をなびかせて飛ぶ人物の絵に注目します。

 すると、リンメイが言いました。

「これは女の人ね。シュンの時代の女性の服を着ているわ」

「この髪は金髪だろう。当時、シュンの国にはこんな女性がいたのか」

 と竜子帝が感心します。

 ところが、フルートは驚いたように絵を見つめていました。確かめるように絵の隅々までを観察してから言います。

「これは金の石の精霊だ……」

 ええっ!? と全員は驚きました。

「そんなわけないだろ! これは女の人だってリンメイが言ってるよ!?」

 とメールが言うと、フルートは首を振りました。

「わかってる。だけど、これは金の石の精霊だ。ぼくにはわかるんだ……」

 フルートはなおも絵を見つめ、やがて胸のペンダントに呼びかけました。

「金の石の精霊、出てきてくれ!」

 一瞬の沈黙の後、彼らのすぐ後ろに淡い金の光がわき起こり、中から小さな少年が姿を現しました――。

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