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第20巻「真実の窓の戦い」

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18.再会

 ロウガはフルートたちが壁のこちら側でひとかたまりになっているのを見て、竜の背中から、にやりと笑いました。

「よう、無事だったな。久しぶりだが元気そうじゃないか」

 笑うと、頬に大きな傷のある強面(こわもて)が、意外なくらい人なつこい表情になります。

 フルートたちは呆気にとられました。ロウガは、竜の棲む国の戦いの際に一緒に戦った、食魔払いの青年です。

「ロウガ、なんでこんなところにいるんだよ? 太陽の石がなくなったから、石を捜す旅に出たはずじゃなかったのか?」

 とゼンが尋ねると、青年はまた笑いました。

「石が手に入ったから戻ってきたんだよ。あの時おまえらに教えられたとおり、ゼンの故郷に行ったんだ。おまえらの名前を出したら、すぐにこれを調達してもらえたぞ」

 と手にしていたランプを掲げて見せます。その中では小さな石が明るく燃えていました。

 へぇ、とゼンは言いました。

「太陽のランプを融通してもらえたのか。ドワーフの洞窟でもかなり価値のある道具だぞ。いいもんをもらえて良かったな」

「ああ、かなり使い勝手がいい。切り替えひとつで石を光らせたり、やめさせたりできるし、明るさも何段階にも変えられるんだ。前の石のように、すぐに燃え尽きることもないしな」

 それを聞いて、フルートが言いました。

「じゃあ、さっき門の向こうで光ったのは、その太陽の石だったんですね? 食魔を退治してくれたんだ」

「ああ、壁のそっち側にいた食魔は全部やっつけた。残りは、ここにいる連中だけだ」

 とロウガはフルートたちの周囲を見回しました。金の光の外側の闇に、まだ二十あまりの赤い目が光っています。

 そこへ、壁の向こうから風の犬が現れました。吹雪の風にあおられて、あわてて門の上に飛び下り、犬に戻って青年へ文句を言います。

「ちょっと、まだなの、ロウガ!? いつまで待たせるのよ!」

 ルル! とフルートたちはまた声を上げました。やはり彼女も一緒にいたのです。何がどうなっているのか、いきさつを尋ねようとすると、ロウガが手を振りました。

「まあ、待て待て。今、食魔どもを消滅させてやるから。話はそれからだ」

 言いながら掲げたランプが、急に明るさを増しました。ランプの中の石が強く光り出したのです。それは太陽と同じ光を出す太陽の石でした。たちまち地上の影を照らし、その中に潜んでいた食魔を消滅させます。

「行け、タキラ!」

 とロウガに言われて、飛竜はフルートたちの頭上を飛び回りました。ランプの光が一緒に移動するので、影が次々と照らされて消え、中から食魔が飛び出します。その上にも太陽の石の光が降りそそぎ、食魔がまた消えていきます……。

 

 やがて、あたりには食魔が一匹もいなくなりました。本当に、完全に消滅してしまったのです。

 ロウガはランプの光度を下げると、門のほうを振り向いて言いました。

「よし、来ていいぞ! もう大丈夫だ!」

 それはルルに言ったことばではありませんでした。門の向こう側でまた竜の羽ばたきが湧き起こり、新たに三頭の飛竜が門を飛び越えてきます。

 吹雪はほとんどやんでいたので、ルルは風の犬に変身して竜を追いかけました。ロウガも自分の竜を降下させ、四頭の飛竜と風の犬が同時にフルートたちの前に着地します。

 フルートたちは、竜の背の人々をぽかんと眺めてしまいました。青地に白い竜の刺繍(ししゅう)を施した立派な服の若者、赤い上着と白いズボンを身につけて髪を頭の両側に丸く束ねた娘、黄色い服を着て黄色い帽子と布で頭部をおおっている男、という顔ぶれです。どの人物のことも、フルートたちはよく知っています。

「竜子帝! リンメイ! ラク――!」

 このユラサイ国の皇帝と未来の皇后、そして、王宮随一の術師の名前を、フルートたちは呼びました。何故彼らがここに勢揃いしているのか、まったくわけがわかりません。彼らは遠く離れたホウの王宮にいるはずでした。確かにルルはそこへ助けを求めに行きましたが、王宮にたどり着いて戻ってくるまでには、たっぷり二日以上かかるはずだったのです。

 すると、また雌犬の姿に戻ったルルが、得意そうに尻尾を振りながら言いました。

「王宮へ助けを呼びに飛んでいたら、途中で、飛竜に乗ってこっちに飛んでくる彼らに出会ったのよ。食魔払いのロウガも一緒だったから、そこからすぐに引き返してきたってわけ」

「例によって、占神のお告げだったんだよ」

 とロウガが後を続けました。

「こういうことが起きると、占神にはわかっていたんだろうな。俺が北の峰で太陽のランプを手に入れて竜仙郷に戻ったら、今すぐ王宮へ飛んで竜子帝やリンメイと長壁の紅門へ向かえ、と言われたのさ。正直、帝たちが本当に俺と一緒に出かけてくれるのか不安だったんだが、竜子帝の決断は早かったな」

「占神が行けと言っているからには、帝であっても、それには従わなくてはならないのだ」

 と竜子帝が言いました。半年ぶりで会った彼は、背がまた伸びて、ぐっと青年らしくなっていました。もう少年皇帝とは呼べそうにない雰囲気です。

「久しぶりね、みんな。このあたりで雪なんて降るはずがないのに、吹雪が起きているし、門の前に食魔も集まっていたから、本当に心配したのよ。間に合ってよかった」

 とリンメイも言いました。こちらは以前とあまり変わっていませんが、それでも、笑うとふっくらと女性らしい表情になります。

 

 黄色い衣と帽子のラクは、フルートたちに丁寧に頭を下げてから、話し出しました。

「帝とリンメイ様だけをお行かせするわけにはいきませんでしたので、私も同行させていただきました。勇者の皆様方がご無事で、本当になによりでございました。ただ、先刻こちらで非常に強力な術が発動したように感じました。ポポロ様がお使いになる光の魔法とは異なる力と見えたのですが、あれはなんだったのでしょう?」

 ラクは、術師の老人が紅門の屯所を輝かせて食魔を追い払ったときのことを言っていました。フルートが答えます。

「この紅門の門番のおじいさんが術を使ったんです。門や壁を食魔に食い破られそうだったから。でも、その後、おじいさんはどこかに行ってしまって、戻ってこないんです……」

 言いながら、フルートはまた心配になってきました。ロウガが太陽の石のランプを地面に置いたので、門や屯所は前より明るくはっきり見えていましたが、やっぱり老人はどこからも姿を現しません。食魔に食われても無事でいられるほどの術師ですが、突然姿を消してしまったので、やはり気がかりでした。

 すると、竜子帝とリンメイが顔を見合わせて、小声で何かを話し合いました。次に竜子帝はラクにも話しかけ、ラクがそれに首を振り返します。ロウガは怪訝そうな表情で腕組みしています。

 ゼンは目を丸くしました。

「なんだよ、おまえら。揃いも揃って、なんでそんな変な顔しやがる?」

「感じ悪いよね。言いたいことがあるなら、はっきり言いなよ」

 とメールも口を尖らせます。

 すると、リンメイが答えました。

「あのね……この紅門に門番なんていないのよ。ここが門の役目を果たしていたのは、遠い昔のことだもの。今は誰も住んでいないわ。あなたたちは誰のことを言ってるの?」

「西の長壁には黒、青、黄、白、紅の五つの門がありますが、そこが門として機能していたのは遠い昔のことです。今は壁のあちこちに新しい道や門が作られたので、古い門が使われることはありません。むろん、門番などもいるはずがございません」

 とラクも不思議そうに話します。

 竜子帝は憤慨した顔になりました。

「朕(ちん)の許可も得ずに長壁に住みついた不届き者がいるということか!? けしからん! 即刻見つけ出して牢屋に――」

「違う、そうじゃない!」

 とフルートは強くそれをさえぎりました。

「あの人はずっとこの門と壁を守り続けてきたんだ! 誰からも忘れられてしまっても、二千年前の光と闇の戦いのときから、ずっと!」

 二千年前からずっと? と竜子帝やリンメイはまた驚きました。

「おいおい、そんなに長生きできる人間がいるわけないだろう。ハクザンの仙人たちだって、そこまでは生きないぞ」

 とロウガがあきれます。

 

 すると、ラクが考えるような声になって言いました。

「その老人はこの紅門の番人だと言ったのですね? 二千年間、ここを守り続けていると……。では、ひょっとすると、皆様方は紅門高師にお会いになったのかもしれません」

「あかもんこうし?」

 フルートたちだけでなく、竜子帝やリンメイやロウガまでが聞き返しました。これまで耳にしたことがない名前だったのです。

「この長壁を守っていると言われる五人の術師の一人です。彼は――」

 とラクが言いかけたとき、急にがらがらっと大きな音がして、彼らの前に立つ建物の壁が崩れました。食魔に食われて薄くなっていた石壁が、何かの拍子にいきなり崩れ落ちたのです。砕けた石が山積みになり、後には人ひとりがくぐれるほどの穴が、ぽっかりと口を開けます。

「屯所に穴が開いた!?」

 とフルートたちは驚き、顔を見合わせてしまいました――。

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