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第20巻「真実の窓の戦い」

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第4章 紅門(あかもん)

10.北側

 フルートたちが守る紅門から北へ五百メートルほど行った壁の上に、ポポロとポチがいました。

 白い石を積んで造った長壁ですが、西に面した側は一面金の板でおおわれ、地上で燃える焚き火の光を反射させています。壁の前はまるで真昼のような明るさです。

 それを壁の上の哨戒路(しょうかいろ)から見下ろして、ポチが言いました。

「ワン、これだけ明るければ、食魔も壁には近づきませんね。あいつらは光が大嫌いなんだから。燃え尽きて火が消えるのだけが心配だけど、薪(たきぎ)もこれだけあるから大丈夫でしょうね」

 哨戒路には森の木を適当な大きさに切った薪が、生け垣のように積まれていました。さらに壁の内側にも、薪が山と積み上げられています。老人が配置してくれたのです。

 ポポロは焚き火の向こうに広がる森を遠い目で眺めていました。闇の中から近づく怪物たちを見つけて言います。

「食魔が現れたわ……。こっちがとても明るいから、木陰に潜んで、様子をうかがっているわよ。ものすごい数だわ……」

 ポチは哨戒路の胸壁にしがみついた恰好で森を眺めました。ポチの目にはまだ怪物は見えません。

「ワン、術師のおじいさんが森と壁の間に空き地を作ってくれましたからね。木陰伝いに来ようと思っても木はないし、光に照らされたくはないだろうから、森から出てこないと思うんだけど」

 と期待を込めて言います。

 

 けれども、やがてポポロは顔色を変えました。

「食魔がまた動き出したわ。こっちに向かってくるわよ……!」

「ワン、こっちでは焚き火が燃えてるのに!?」

 とポチは驚きました。こんな明るさの中を近づいてくるつもりだろうか? と考えます。森と壁の間の地面は、老人が術で平らにならしたので、食魔が飛び込めるような影はほとんどないのです。

 すると、ポポロが言いました。

「薪だわ――! 焚き火の下で、薪が影を作ってるのよ!」

 森の木を積み上げた焚き火は、人の背丈の何倍もある炎を噴き上げていましたが、その下のほうで、まだ火に包まれていない薪が地面に影を落としていたのです。

「ワン、食魔は焚き火の影を狙っているんですか!?」

「そうみたい……! みんな焚き火のほうに集まってきてるわ……!」

 ポチの目にも、森の奥で赤い目が踊り狂うように飛び跳ねる様子が見えてきました。食魔が、木の影から影に飛び移りながら、こちらへ迫ってきているのです。光を嫌う食魔がわざわざ明るい炎のほうへ集まってくるのですから、ポポロの言うとおりなのでしょう。

 ポチは素早く森と焚き火の間の距離を目測しました。森から壁の間は約百メートル、焚き火はちょうどその中間にあるので、森からは五十メートルというところです。ぎりぎりのところで、食魔が飛び移れる距離でした。

「ワン、焚き火の下に食魔が来たら、焚き火を食われてしまいますよ!」

 とポチは言うと、風の犬に変身して飛びました。ちょうど森の中から飛び出してきた食魔を、風の体で跳ね飛ばします。

 地面に転がった食魔は、焚き火の光に照らされて、あわてて森に飛び戻りました。金属がきしむような声を上げてわめきます。その周囲に同じような赤い目がどんどん増えていました。どの目も、隙を見て飛び移ろうと、薪の影を狙っています。

 ポチはワンワンワン、とほえながら、自分から森に飛び込んでいきました。暗がりに潜む食魔たちを、次々吹き倒していきます。

 すると、食魔がポチに襲いかかってきました。顔よりも巨大な口を開けて、ポチにばくりと食いつきます。

「ポチ!!」

 魔法使いの目でそれを見ていたポポロは、悲鳴を上げました。ポチの風の尾が食魔に食われて半分になっています。

 けれども、次の瞬間、ポチの体はまた元に戻りました。ごうごうと風の音を立てながら飛び続け、食魔を吹き飛ばしながら言います。

「ワン、ぼくを食おうとしても無駄だ! ぼくは風なんだもの! どんなに食ったって、風を食い尽くすことはできないぞ!」

 吹き飛ばされて光の中へ転がり出た食魔が、金切り声を上げて森の木陰に飛び込みます――。

 

 すると、ポポロがポチに言いました。

「他の焚き火も狙われているわ! 食魔が森のすぐ端まで来ているのよ!」

 ポポロは魔法使いの声で話しかけていました。風の音がうなっていても、ポチにははっきりと聞き取れます。

「ワン、わかりました!」

 とポチは答えると、壁沿いに燃えている他の焚き火を眺めました。数十メートル間隔で焚かれているので、ひとつを守りに行けば、その間に別の焚き火を狙われてしまいそうです。

 ポチはちょっと考え、すぐに目の前の焚き火へ飛びました。燃えさかる大きな炎に飛び込むと、風の体に炎の一部を巻き取ってまた飛び出します。

 ポチはそのまま森へ飛びました。森の端すれすれを飛んでいくと、体に絡め取った炎が森の中を照らします。食魔は金属をひっかくような声を上げて、大あわてで森の奥や影に逃げ込みました。ポチが森の端を飛んでいくだけで、赤く光る目が退きます。

 やがて体の炎が弱まってくると、ポチは次の焚き火へ飛び込みました。そこでまた炎を補充して飛び、食魔を森の奥へ追い返します。その火も弱ってくれば、また次の焚き火へ――。そんなふうに炎の光で食魔を追い払っていきます。

 ポチは飛びながら森に火を移さないように気をつけていました。森に火をつければ食魔は逃げていくかもしれませんが、代わりに森が火事になってしいます。ユラサイに森林火災を起こすわけにはいきませんでした。

 すると、ポチの行く手の焚き火が、急に、ごぉっと大きくなりました。炎の光が強まり、森から出ようとしていた食魔が引き返していきます。

「ワン、フルートたちだ」

 とポチは飛ぶ速度を緩めました。紅門を守る老人が術で炎を大きくして食魔を追い払ったのでしょう。ポチの前にはまだいくつも焚き火が並んでいましたが、そちらはもうフルートや老人の管轄でした。

 ポチはまた手近な焚き火に飛び込んで炎を巻き取ると、食魔を追い払いながら引き返していきました。

「ワン、こんなふうにして一晩中食魔を追い返して、壁を守ろう。そうすれば、きっと大丈夫だ」

 とつぶやきます。

 守りの要(かなめ)の焚き火は、闇の中で明々と燃え続けていました――。

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