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第20巻「真実の窓の戦い」

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第2章 老人

4.森の海

 真実の窓を乗り越えて、その向こう側にやってきた勇者の一行を、雨のような葉ずれの音と湿った空気が包みました。彼らは大きな森の中に出てしまったのです。

「でかい木だな」

 とゼンは首を思いきりねじ曲げて見上げました。木々はどれもとても太く、地上数十メートルの高さまで幹を伸ばして、その上に枝葉を天井のように広げていたのです。木の葉が厚く重なり合っているので、その上にあるはずの空は見ることができません。メールが木々の声を聞き分けようと、耳を澄まします。

 すると、後ろを振り向いたフルートが声を上げました。

「窓がない!」

 彼らがくぐってきた真実の窓が、背後から消えていました。ルルがあせってポポロに尋ねます。

「どういうことなの!? 窓はこっちからは見えなくなっているだけ!? それとも、本当に消えてしまっているの!?」

 ポポロは虚空をじっと見つめてから言いました。

「そこに窓はないわ。消えてしまったみたい……」

「ワン、窓をくぐってこっち側に来たりしたから、窓が消滅したのかなぁ」

 とポチも困惑します。

 けれども、フルートはすぐに気持ちを切り替えました。

「窓が消えても、ここはきっと地上のどこかのはずだ。ここからまた天空の国に戻ったり、他の場所へ移動したりすることはできるよ――。それより、手がかりを見つけよう。闇の戦いの痕跡かデビルドラゴンを示すものが、どこかにあるかもしれない。それを探すんだ」

 普段どんなに穏やかに見えていても、フルートはこの一行のリーダーです。フルートが決めたことは、自然と仲間たち全員の意志になります。

 ポチが言いました。

「ワン、ここは木が多くて見通しが悪いから、ぼくとルルが空に上って、あたりの様子を確かめてきますよ。ここで待っていてください」

 ところがフルートは首を振りました。

「ここがどんな場所かもわからないのに、君たちが風の犬になるのは危険だ。誰かに見られるかもしれないからな」

 すると、メールが身を乗り出しました。

「じゃあさ、あたいが木の上から確かめてあげるよ。ちょっと待ってな!」

 言うが早いか、そばの大木に駆け寄り、まるで猿のように、するするっと上へ登っていってしまいます。

「ったく、跳ねっ返りの鬼姫め。こんな手がかりもねえ木に、よく登れるな」

 とゼンはあきれてそれを見上げました。メールの細い体は、あっという間に枝まで登っていって、梢の中に見えなくなっていきます――。

 

 メールは木のてっぺんに近い場所まで登り切ると、片手で木の幹につかまって、枝の上に立ちました。そこはもう地上数十メートルという場所なのですが、恐れる様子もなく背伸びして周囲を見回します。

 彼女が立つ木の周囲には、同じような木が無数にあって、雲の塊のような緑の梢が延々と続いていました。見渡す限り広がる大きな森です。

 それを見回しながら、メールはひとりごとを言いました。

「木の種類は違うけど、この森の雰囲気は父上の島の森に似てるよね。暖かいところの常緑樹なんだ。ってことは、ここはけっこう南の場所ってことかな? でも、海は見えないから、島ってわけじゃなさそうだよねぇ」

 下を見ても、木の根元にいるゼンやフルートたちの姿は、木の葉に隠されてしまって見えませんでした。報告は後でまとめてすることにして、メールは周囲の観察を続けました。

 森はなだらかな斜面に広がっていました。斜面の先は低い山地につながっていて、山も木々でおおわれています。一面緑色の雲海のような眺めです。

 すると、彼女の頭の中にポポロの声が聞こえてきました。

「どう、メール? 何か見える?」

 ポポロが魔法使いの声で話しかけてきたのです。メールはすぐに答えました。

「特に何も。ここは低い山脈の裾野(すその)みたいだね。どこまでも森が続いてるだけだよ」

 ほんの少しの間があってから、ポポロの声がまた言いました。

「フルートが、町や村らしいものはないか、そうでなければ遺跡みたいなものは見えないか、って」

「うぅん、そういうものも別に――」

 とメールは言って、また周囲へ目を向けました。風が吹くたびに、雲のような木々の梢が揺れているだけで、特に目を惹くようなものは見当たりません。

 ところがそこへ、ひときわ強い風が吹いてきました。緑の雲の海が彼方から大きく揺れ、それが波になってこちらへ押し寄せてきます。メールが立っている木にも風が吹きつけてきて、梢が激しく揺れ出します。

 メールはすぐに木の幹にしがみつきました。高い木に登れば風に吹かれるのは当たり前だし、風が強すぎるようなら下へ降りれば良いだけなので、特にあわててはいませんでした。木につかまったまま、風の変化を見極めようとします。

 すると、いきなりメールの足元の枝が折れました。外から見ただけではわからなかったのですが、枯れ枝だったのです。あっとメールが思った瞬間、猛烈な風が吹きつけてきました。体勢を崩して手だけで木にしがみついていた彼女を、梢からさらって吹き飛ばしてしまいます――。

 

 メールは森へ落ちていきました。波打つ緑の海が迫ってきます。本物の海ならば落ちても潜れば良いだけですが、この海は突き抜けて地上まで墜落してしまいます。メールはすぐに木々の葉を呼ぼうとしました。木の葉は花のように鳥になることはできませんが、それでもメールの体を受けとめることは可能です。

 ところが、その時、メールの目に白いものが飛び込んできました。森が強風で激しく波打ったので、木々の梢の間が離れて、隙間から地上の様子が見えるようになったのです。少し離れた森の中に、建造物のようなものが見えていました。白い石でできているようです――。

 そのとたん、メールの体は別の木の梢に飛び込みました。木の葉や細い枝にぴしぴしと打たれながら落ちていきます。枝が顔にもまともに当たるので、メールは目を開けていられなくなりました。木の葉を呼ぶ声も出せません。

 すると、また風の音がして、メールはふわりと何かの上へ落ちました。墜落が止まって、ただ、ごうごういう風の音だけが聞こえ続けます。

 メールは目を開け、風の犬のルルが自分を乗せているのを見ました。メールが吹き飛ばされたことをポポロが仲間たちに知らせたので、ルルが変身して飛んできたのです。

「もう、花も木の葉も呼ばずに何やってるのよ! このまま墜落したら、地上に激突しちゃうじゃないの!」

 とルルがメールへ小言を言います。

 メールはその首にしがみついて言いました。

「あったよ! 何かの建物だ! あっちの森の中にさ、見えたんだよ!」

「建物ですって?」

 とルルは驚き、すぐに地上へ下りていきました。仲間たちにメールが見たものを知らせます。

 話を聞いて、フルートは言いました。

「まわり中が森なら、風の犬が飛んでも騒ぎにはならないな。よし、みんなでそこに行ってみよう」

 彼らは風の犬になったポチとルルに分乗すると、すぐに白い建物が見えた場所へと飛んでいきました――。

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