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第20巻「真実の窓の戦い」

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2.天空王

 次の日、フルートたちはまだ夜が明けないうちに天空城へ出発しました。いよいよ手がかりが見つかるのが嬉しくて、とても寝てなどいられなかったのです。

 武器や防具を身につけ、必要になるかもしれないものをリュックサックや荷袋に詰めて、彼らは白んできた空へ飛びたちました。風の犬になったポチがフルートとポポロを、同じく風の犬になったルルがゼンとメールを乗せています。

 ごうごうと風を切って飛びながら、彼らはまた話し出していました。

「ねえさぁ、真実の窓から、どんな真実がわかるんだろうね? デビルドラゴンを倒す手がかりが見つかるって言われたけどさ」

「もちろん竜の宝のことに決まってるだろうが。それがヤツを倒す唯一の手がかりなんだからよ!」

「ワン、もしかしたら闇大陸が見られるのかも。竜の宝はそこに隠されているみたいですからね」

「竜の宝ってどんなものなのかしらね? 見ただけでそうだってわかるといいんだけれど」

 一同の関心は竜の宝に集まっていました。竜の宝を巡っては、さんざん期待はずれを経験してきたので、もういいかげんその正体を知って、すっぱり納得、デビルドラゴンを退治――といきたかったのです。

 けれども、フルートは慎重でした。

「ひょっとしたら、竜の宝は闇大陸と一緒に失われていて、ぼくたちにはずっと見つけられないのかもしれないぞ。白い石の丘のエルフは、竜の宝を探し求めていけば必ず奴を倒す方法が見つかる、と言ってくれたけれど、それは、真実を知るための道が拓けてくるっていう意味だったのかもしれないんだ。竜の宝そのものが見つかるわけじゃなくてさ」

「えぇ!? じゃあ、やっぱりこの後も竜の宝の正体はわからないってわけ!?」

「馬鹿野郎! これだけずっと探させておいて、竜の宝はやっぱり謎のままでしたなんて、んな阿呆な話があるかよ!?」

 とメールやゼンが怒り出したので、フルートはあわててなだめました。

「そういう可能性もある、って話だよ。本当はぼくだって竜の宝の正体を知りたくてしかたないんだ。とにかく天空城に行こう。真実の窓を見せてもらえば、すぐにわかることなんだから」

「当たり前だ! おい、ポチ、ルル、急げよ!」

 とゼンが急かしたので、犬たちは速度を上げました。目ざす天空城は、明るくなってきた空の中で、金と銀にまぶしく輝いています――。

 

 彼らが天空城に到着すると、入口の門の前に天空王が供(とも)も連れずに立っていました。光のような銀の髪とひげの立派な人物で、黒い星空の衣を着て、頭には金の冠をかぶっています。

 直々(じきじき)の出迎えにフルートたちが驚いていると、天空王は言いました。

「すっかり待たせたな、勇者たち。ようやく準備が整った。私と一緒に来なさい」

 天空王が先になって門を入っていったので、フルートたちはその後に続きました。ポチとルルも犬の姿に戻ってついていきます。

 すると、次の瞬間、彼らは門の内側の前庭ではなく、白い壁と天井に囲まれた通路を歩いていました。驚いて振り向くと、入口の門は消えていて、青い絨毯(じゅうたん)を敷き詰めた長い廊下が続いています。彼らは一瞬で天空城の中に移動したのでした。

「この通路は普段は誰も通ることができない」

 と天空王は先頭を歩きながら言いました。

「この城の中には魔法の宝がいくつもあるが、そこに至る道には強力な魔法がかけられているので、選ばれた者しかそこを通ることができないのだ。ここも、そんな通路のひとつだ。この先には真実の窓がある」

 フルートは、天空王に必死で追いつこうとしながら尋ねました。

「何故……真実の窓と言うんですか? 真実を窓に映してくれるんですか……?」

 天空王は足がとても速かったので、ついていくだけで息が弾みます。

「そうだ。真実の窓は我々に探し求めている真実を見せてくれる――。だが、窓も真実をありのままの姿で見せることはできない。理(ことわり)がそれを許さないからだ」

 と天空王が言ったので、げっ、とゼンは声を上げました。時々聞かされる理ということばは、意味がとても抽象的でわかりにくいので、ゼンは大の苦手だったのです。

 けれども、フルートは質問を続けました。

「どうして真実をそのまま見せることが理に反するんでしょうか? 本当のことというのは、いつか必ず明らかになっていくと思うんですが」

「真実には、人がそれを知るべき時期というものが備わっているのだ。その時がやって来るまでは、真実は人の目から隠されて眠りについている。だが、そなたたちはその理に反して真実を知ろうとしている。そして、理はそれを許した。だから、窓はそのままの姿ではなく、もっと別の形で真実を見せてくるのだ。きっと、一見して真実とはわからない形でな」

 天空王の話に、ゼンだけでなくメールも困惑した表情になりました。やっぱり抽象的すぎて、何を言われているのかよくわからなかったのです。

 けれども、フルートはやはり理解していました。考えながら言います。

「つまり、窓が見せてくるのは、真実そのものではなく、あくまでもその手がかりだっていうことなんですね――。でも、その手がかりを見逃さずに捕まえて考えていけば、必ず真実にたどりつく。そういうことですね?」

「そうだ。私にも、窓がそなたたちに何を見せようとしているのかはわからない。だが、それは必ず、デビルドラゴンと戦う大きな手助けになるだろう」

 と天空王は言いました。落ち着いて堂々としたその声は、彼らが進んでいく道を示しているようです。

 

 すると、天空王は急に足を止めて一行を振り向きました。一人ずつへ目を向けてから、ルルにかがみ込みます。見透かすような目で、じっと見つめられて雌犬がとまどうと、天空王は微笑しました。

「ルルは以前、闇の側に連れ去られそうになったことがある。その時にルルの内側に残された闇の痕跡が悪さをするかもしれないので、確かめたのだ。だが、今はもうその痕は残っていないな。物見の塔の賢者が、しっかり癒してくれたようだ」

 ルルはうろたえました。自分が以前、魔王になったときのことを言われているのだ、と気づいたのです。あの時の恐怖と罪悪感が一度に襲ってきて、泣き出しそうになります。

 すると、ポチがその顔をぺろりとなめました。ルルに代わって、天空王へ言います。

「ワン、そうです。闇の国の戦いの最中に、ルルは闇の影響を受けてすごく具合が悪くなったけれど、その後、白い石の丘のエルフがルルをしっかり治療してくれたんです。ルルはもう闇には絶対に負けませんよ」

 自分のことのように胸を張って話す小犬に、ポチ……とルルはまた涙ぐみました。今度は嬉し涙です。

 天空王はうなずいて立ち上がり、また一同を見回しました。今度はポポロに目をとめて言います。

「そなたの魔法は本当に強力になったな。トムラムストで海を割って呪われていた魂を浄化させた、と海の王たちから聞いた。あの魂は恨みと怒りで強く戦場跡に縫い止められていた古(いにしえ)の戦士たちだ。今頃は、黄泉(よみ)の国で感謝していることだろう」

 ポポロは真っ赤になりました。あわてて首を振って言います。

「あたしだけの力ではありません、天空王様……! フルートがあたしに指示をしてくれるし、みんながあたしを信じてくれるから、あたしも自信を持って魔法が使えるんです……!」

 天空王はまたうなずきました。

「その通りだ、ポポロ。そなたの力は天空の国の魔法使いの中でもずば抜けて強力だが、同時に、そなたには自分への自信というものがなかった。それがそなたの魔法を制御不能にしていたのだ。今は仲間たちがそなたを信じてくれている。だからこそ、そなたも自分を信じて、大きな力を発揮することができるのだ」

 ポポロは目を涙でうるませて、はい、と言いました。そのまわりでは、フルートや犬たちが笑顔でいます。

 

「気をつけて行きなさい」

 と天空王は言いました。

「我々はもう、真実の窓の入口まで来ているのだ。入口は夜明けと共に現れる。自分自身を信じて、真実をつかみ取ってきなさい」

 厳か(おごそか)に響く天空王のことばに、一同はいっせいにうなずきました。緊張した面持ちで周囲を見回し、魔法の入口が現れるのを待ちます。

 すると、ポポロが言いました。

「夜明けよ。花野の向こうに朝日が昇ってくるわ……!」

 同時に彼らのすぐ目の前に大きな扉が現れました。分厚い木の扉で、青い絨毯を敷き詰めた通路の上に、ぽつんとそれだけで立っています。

 勇者の一行は顔を見合わせて、すぐにうなずきました。

「行くぞ」

 とフルートが言って、銀色の取っ手を回します。

 入口は音もなく開きました。扉がゆっくりと向こう側へ動き、中から白い光があふれてきます。

 フルートたちは、恐れることもなく、その中へと踏み込んでいきました――。

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