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第19巻「天空の国の戦い」

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第28章 最終決戦・2

84.激戦

 結界になった荒野の中で、フルートは戦い続けていました。背後に傷ついたポチとルルをかばいながら、怪物へ炎の剣をふるいます。

 魔剣が撃ち出した炎の塊がまた怪物に激突しました。象に似た体が火に包まれ、咆吼(ほうこう)があたりを震わせます。

 すると、リューラ先生が怪物に向かって言いました。

「消えろ」

 とたんに火は消え、ただれた怪物の体が元に戻りました。長い鼻を振り回し、怒り狂ってフルートへ突進してきます。怪物は巨大なので、とてもかわすことはできません。

 フルートは逃げずに仁王立ちになると、剣を構え直しました。迫ってくる怪物に鋭く切りつけます。

 すると、大蛇のような鼻が宙を舞い、火を吹いて燃え上がりました。フルートが一撃で切り払ったのです。立ち止まった怪物の頭も火に包まれます。

 リューラ先生は険しい顔になりました。もう一度、魔法で怪物の火を消そうとします。

 ところが、そこへまた炎の弾が飛んできました。フルートがリューラ先生に向けて撃ち出したのです。先生が魔法で防いだ隙に、フルートは怪物へ走り、今度は前脚へ切りつけます。

 怪物は体の前半分を炎に包まれて、また大きくほえました。何度も後脚立ちになって暴れます。その危険な場所へフルートはさらに駆け込んでいきました。前脚に続いて、後ろ脚にも剣をふるいます。

 ついに怪物は全身から火を吹いて燃え上がりました。闇の怪物の体は、傷を負ってもすぐに再生するのですが、炎の勢いが激しすぎて再生が間に合いません。猛火の中で巨体がみるみる燃えていきます。

 リューラ先生が魔法で火を消そうとすると、また炎が飛んできました。フルートがリューラ先生を狙い続けているのです。先生が魔法を使えずにいる間に、怪物は燃え尽きて崩れていきました。フルートがマントをひるがえして飛び下がります――。

 

 その間に、ゼンはポチとルルを抱きかかえて走りました。リューラ先生の稲妻の直撃を食らって、息も絶えだえになった二匹を、仲間たちの元へ運び込みます。

「レオン、早くこいつらに手当を――」

 とゼンは言いかけ、そのレオンが地面に突っ伏して動けなくなっているのを見て、目を丸くしました。レオンはリューラ先生の猛攻を防ぐのに力を使い果たしていたのです。

「やだ! どうすりゃいいのさ!?」

 とメールが思わず泣き声になると、レオンが顔を上げました。あえぎながら言います。

「大丈夫……応急処置なら、やってあげられる……。彼らをこっちに……」

 ゼンが急いでポチとルルを運ぶと、レオンは二匹に両手を当てて呪文を唱えました。

「レドモ……ニートモー……」

 息が切れて呪文がとぎれそうでしたが、それでも何とか言いきることができました。犬たちの体が淡い光に包まれて、出血が停まります。

 傷の様子を見て、マロ先生が言いました。

「完全には治っていない。今のレオンに怪我を完治させるだけの力が残っていないんだ。本当の応急処置だから、無理はできないぞ」

「ワン……でも、フルートが……」

 とポチがうめくように言いました。彼らはポポロの指輪が生み出す防御魔法の中にいますが、フルートだけは一人仲間から離れて、戦い続けているのです。リューラ先生が新たに繰り出した魔物を切って燃やし、飛んできた魔弾を銀の盾で防いでいます。

 すると、まったく別の方向から無数の半月が飛んできました。刀のように研ぎ澄まされた、魔法の光です。フルートはとっさに盾を向け直しましたが、数が多すぎました。鋭い半月が群れをなして迫ってきます。

「レモマオトールフ――!」

 レオンの呪文がまた響きました。フルートの前に守りの壁が生まれて、飛んできた半月をすべて打ち砕きます。

 とたんにレオンはまた地面に突っ伏しました。額を地面に押し当てて、ぜえぜえと荒い息をします。

「レオン、レオン……!」

 ビーラーはおろおろして体をすりつけました。他の者たちも、どうしていいのかわからなくて、立ちすくんでしまいます。

 

 フルートはリューラ先生を見据えながら、そんな仲間たちの声を背中で聞いていました。レオンはもうあまり持たない、と判断します。頭上から照らしているレオンの光も、光度が落ちて、あたりが薄暗くなり始めていました。この光が消えたとき、レオンの魔力も尽きてしまうのです。

 フルートはちょっとの間、考え込みました。そこへまた魔弾が飛んできたので盾ではね返し、作戦を思いついて声を上げます。

「レオン、人形に命じろ! リューラ先生の人形を捕まえて、動きを停めるんだ!」

 速すぎて人間では追いきれない戦人形ですが、同じ戦人形ならそのスピードについていくことができます。人形に人形を抑えさせて、ペンダントを取り戻そうと考えたのです。

 地面に突っ伏してあえいでいるレオンに、ビーラーが鼻面を押しつけました。

「レオン、レオン、聞こえたか!? フルートが人形を捕まえてくれ、って言っているぞ――!」

 レオンは小さくうなずきました。戦人形に命じるだけならば魔力は消耗しません。あえぎ続ける肺に空気を吸い込み、声を絞り出します。

「人形を……リューラ先生の人形を捕まえろ……!」

 けれども、人形がどこにいるのか、彼らにはわかりませんでした。レオンの命令が本当に人形に届いたのかどうかも、わかりません。

 彼らは緊張しながら周囲を見回しました。フルートがリューラ先生の繰り出した大蛇の首をはねて燃やします。全力で戦っていますが、こちらにもそろそろ疲れが見え始めていました。大剣を構えながら息を弾ませています。

 すると、メールが急に声を上げました。

「いた! あそこだよ!」

 指さす彼方に二体の戦人形がいました。赤い人形が青い人形を後ろからはがいじめにしています。青い人形が振り切ろうと暴れますが、赤い人形は絶対に放しません。それどころか、首を蛇のように伸ばすと、敵の首に絡みつかせました。青い人形は後頭部から炎を吐くこともできなくなってしまいます。

 その青い人形の手にペンダントがまだ握られているのを見て、フルートは駆け出しました。ペンダントを取り返せば、金の石と願い石の力で聖なる光を発することができます。リューラ先生の中からデビルドラゴンを追い出すことができるのです。

 

 人形に向かって走るフルートを見て、リューラ先生はその意図を知りました。

「そんなことはさせん! 死ね、伝説の勇者!」

 とフルートへ魔法で隕石を落とします。

 すると、フルートの上で隕石が弾け飛びました。銀の星と石のかけらが入り混じって散っていきます。倒れていたレオンが、顔を歪めながら手を伸ばしていました。尽きかけた魔力を必死にかき集めて、フルートを守ったのです。

 フルートはついに人形のところへ駆けつけました。レオンの赤い人形がリューラ先生の青い人形をがっちり抑え込んでいます。青い人形が握るペンダントを、フルートは取り返そうとしました。鎖に手をかけます。

 そこへまた頭上から魔法がやってきました。轟音と共に空が割れ、黒い光が降ってきます。魔王の闇の稲妻です。

「セエカ――!」

 レオンが倒れたまま、また言いました。呪文と共に防御魔法がフルートの上へ飛び、銀の光が黒い稲妻にぶつかります。

 ところが。

 稲妻をはね返すはずのレオンの魔法に、ひび割れが生じました。氷が砕けていくように、みるみるひびが広がります。

 マロ先生が叫びました。

「力負けした! リューラの魔法のほうが強力だ!」

 割れた銀の魔法の間から、黒い魔法が地上へ降りそそぎました。どん、どんと音と土煙を立てて破裂します。

 同時に、あたりがいきなり暗くなりました。空を照らす光が急に明るさを失ったのです。レオンの魔力が尽きてきた証拠でした。防御魔法はさらに砕け、闇の稲妻が降りそそぎます。

 ついに稲妻はフルートの上にも落ちてきました。激しい爆発が起き、フルートも二体の人形も吹き飛ばされてしまいます。

「フルート!!」

 仲間たちが悲鳴を上げる中、フルートの体は大きく宙を飛んで、地面に激しくたたきつけられました――。

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