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第19巻「天空の国の戦い」

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83.攻防

 荒れ野が広がる闇の結界の中で、一同は顔色を変えました。リューラ先生の戦人形がフルートからペンダントを奪い去ってしまったのです。

 戦人形のスピードに人間が追いつくことはできません。そこにいたと思えば、次の瞬間にはまったく別の場所に現れるので、姿を追いかけることさえ不可能です。

 一方、フルートとゼンにダメージを食らって倒れたリューラ先生は、地面に激突する前に姿を消し、すぐに別の場所に現れました。また傷ひとつない姿に戻って、憎々しく笑います。

「聖守護石がなければ、伝説の勇者はただの人間だ。私を倒すことも、魔法を防ぐこともできない。死ね、私の邪魔をする者!」

 ことばと同時に、巨大な雷がフルートたちの上へ降ってきました。魔王になったリューラ先生は呪文なしで魔法を使うことができるのです。ポチとルルは全速力で飛んで避けようとしましたが、稲妻は宙を走って追いかけてきます――。

 そこへ呪文が響きました。

「セエカーテツモマオラレカー!」

 風の犬に届きそうになっていた稲妻が、見えない壁に激突して消えました。呪文を唱えたのはレオンです。片手をフルートたちへ向けて、肩で息をしています。

「よっしゃぁ!」

 とゼンは歓声を上げました

「こっちに戻ってきなさい! レオンの防御魔法の中に入るんだ!」

 とマロ先生が呼びます。

 すると、フルートは首を振りました。

「金の石を奪われたんだ! 取り返さなくちゃいけない!」

 その時、彼らの真下に戦人形たちが現れました。青い人形は、片手にペンダントを握ったまま戦っています。金の石が灰色になっているのを見て、フルートは唇をかみました。フルートから離れてしまったために、闇の空間に力を完全に奪われて、輝きを失ってしまったのです。

 けれども、フルートたちが突進していくと、人形は二体ともまた姿を消してしまいました。あちこちでぶつかり合う音を立て、はるか離れた場所に姿を現して切り合います。

 

 そこへまた、魔王の魔法が降ってきました。燃える隕石、魔弾の雨、焼けつく閃光、槍(やり)より鋭く尖った氷の針――。次々とフルートたちを襲う攻撃を、レオンは片端から魔法で防いで砕いていきました。ひとつの魔法が完全に消えないうちに、次の魔法が襲ってくるので、あたりは目のくらむような光に充たされ、熱風と轟音が渦を巻きます。

 それらがすべておさまったとき、フルートたちはまだ無事に荒野に立っていました。ポチとルルは危険を避けて犬の姿に戻り、フルートとゼンに抱かれていました。そこをレオンの防御魔法が包んだので、リューラ先生の攻撃はまったく届いていなかったのです。

 レオンたちも同じように防御魔法で包まれて、魔法の余波から守られていました。ビーラーが驚いて言います。

「二箇所に同時に魔法を使っているのか、レオン? いつの間にそんなことができるようになったんだ?」

 すると、レオン自身が驚いた顔で首を振りました。

「こっちはぼくじゃない……。ぼくには……二つ同時に魔法を操ることはできないよ……」

 レオンは、話しながら肩で息をしていました。リューラ先生の攻撃があまりにも激しいので、消耗してきているのです。

 周囲を見回していたマロ先生が、ポポロを振り向いて言いました。

「その指輪だ!」

 これだけの魔法の激突が目の前で起きていても、ポポロは目を閉じて、結界のつなぎ目を探し続けていました。祈るように組んだ手の指には、彼女の母がマロ先生に託してきた指輪があります。

「そ、それって、魔法を防ぐ力があるんだっけか?」

 とメールが聞き返したところへ、また魔法の大風が吹き荒れ、荒れ地の石がつぶてになって飛んできました。とたんにポポロを中心に紫の光が広がって、風と石をはね返します。ポポロの指輪では、紫の石が光っていました。

「通常は一人しか守らない指輪だ。だが、どうやらフレアは激戦を予想していたらしいな。他の仲間まで守るように指輪に命じていたんだ」

 マロ先生が驚き感心したように言いました。口で言うのは簡単ですが、そのためにはあらかじめ、かなりの魔力を指輪に込めておく必要があったのです。娘たちを守ろうとする母の想いは、本当に強力でした。

 

 フルートとゼンは戦人形からペンダントを取り返そうとして、非常に苦労していました。とにかく人形が速すぎて、目に止まらないのです。

 そこへまたリューラ先生の魔法が降ってきました。炎、隕石、稲妻、魔弾、無数の刃――。レオンの防御魔法が再びそれを防ぎ、魔法と魔法がぶつかって巻き起こった余波を、ポポロの指輪が防ぎます。

 すると、魔法が消えていった後に、黒い渦が湧き起こりました。ゆっくり回転しながら、空中に浮いています。

「なんだ……?」

 とフルートやゼンが見つめると、ルルが言いました。

「近づいちゃだめよ! 闇の渦だわ!」

 フルートは、はっとして、荒野の中に立つリューラ先生を振り向きました。先生の体はまた一回り大きくなり、指には黒い鋭い爪が、口の端からは白い牙が伸びて、闇の民そのもののような姿になっていました。

 フルートは思わず叫びました。

「闇の力を使うな! 闇に取り込まれるぞ――!」

「小僧が偉そうに何を言う! 私はこの国の真の王だぞ! 光も闇も、私にはひれ伏して従うのだ!」

 リューラ先生が笑うと、闇の渦から黒い光がほとばしりました。レオンが作った障壁にまともに激突します。

 とたんに障壁は砕け、離れた場所に立っていたレオンが吹き飛ばされました。障壁をいきなり砕かれたので、反動を食らったのです。

 フルートたちも吹き飛ばされて地面に転がりました。そこへ牙をむいた黒い顔が無数に飛んできます。リューラ先生の闇の渦から現れた、闇の怨霊(おんりょう)でした。フルートたちに襲いかかってきます。

 すると、また呪文が響きました。

「セエカオミーヤ!」

 レオンが倒れた場所から手を伸ばしていました。銀の星と共に魔法が飛んで、フルートたちの前から悪霊を吹き飛ばします。

 

 ところが、次の瞬間、レオンは地面に突っ伏してしまいました。汗を流しながら、はぁはぁと荒い息をします。ビーラーが駆け寄って言いました。

「大丈夫か、レオン!? 魔力を使いすぎたんだな!」

 レオンは立ち上がることができませんでした。体が鉛のように重くなっていて、どんなに腕に力を込めても、身を起こすことができなかったのです。そこに、マロ先生やメールの声が聞こえます。

「また来るぞ!」

「早く逃げな、ゼン、フルート!!」

 渦から象に似た黒い怪物が現れて、フルートたちへ襲いかかったのです。レオンはまた魔法で撃退しようとしましたが、息が切れて呪文が唱えられませんでした。それでも片手を怪物へ向けようとすると、もう一方の腕から力が抜けて、地面に倒れてしまいます。

「レオン!」

 とビーラーが飛びつきましたが、魔法使いの少年は起き上がれません。

 横目でそれを見ていたポチが、風の犬に変身しました。

「ワン、フルートたちには触らせないぞ!」

 と怪物に向かって飛び出していきます。ルルも変身してその後を追いました。長い体をひるがえし、激しい風の力で象のような怪物を押し返そうとします。

 すると、怪物がブォォと大きくほえました。もっと強い風が巻き起こって、ポチとルルを吹き飛ばしてしまいます。そこへ黒い稲妻が降ってきました。二匹を打ちのめします。

 ギャン!

 ポチとルルは悲鳴を上げると、地面に落ちました。そのまま変身が解けて、元の姿に戻ってしまいます。リューラ先生が繰り出した魔法の稲妻を、まともに食らってしまったのです。

「ポチ! ルル!」

 仲間たちは叫びました。

 フルートとゼンが駆け出します。

「ポチたちをみんなのところへ連れていけ!」

「よし!」

 それだけのことばを交わすと、フルートはまっすぐ怪物へ、ゼンは倒れているポチとルルの元へ走っていきます。

「せいっ!」

 フルートは怪物の前で剣を振ると、すぐに飛びのきました。たった今フルートがいた場所に、魔弾が炸裂します。

 魔剣が撃ち出した炎の弾は、怪物の顔に正面から当たりました。炎の直撃を食らって、ブォォォ、と怪物がまた鳴きます。

 ひるがえるマント、横一文字に構えた剣。フルートは鎧を着た体で低く身構え、怪物とその後ろのリューラ先生を見据えました。

「手出しはさせない。絶対に、あなたの中の闇を倒す!」

 剣がうなりを上げて空を切ると、炎の弾がまた飛び出していきました――。

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