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第19巻「天空の国の戦い」

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73.突入・1

 ごうごうと風を切りながら、フルートたちは天空城へ飛んでいました。

 先頭を行くのはフルートを乗せたポチ、二番手はゼンとポポロを乗せたルル、そこに、メール、レオン、ビーラー、マロ先生を乗せた花鳥が続きます。メールはまず風の犬のルルと花野へ飛んで、咲いている花を使って鳥を作ったのです。広げた翼の端から端までが十メートルもある鳥なので、大勢を乗せても平気で空を飛んでいます。

「城に全然変わった様子がねえな」

 城壁の中へ目を凝らしていたゼンが、意外そうに言いました。魔王になったリューラがいるのですから、雰囲気が変わったり、怪物がうろついたりしているのではないか、と思ったのですが、天空城はいつもとまったく変わりがありませんでした。石畳の歩道を往来する人、馬車で荷物を城の裏口へ運ぶ人、庭園の中をのんびり散策する人もいます。

「運行局というのはどこだろう?」

 とフルートが言うと、花鳥の上からマロ先生が答えました。

「城の中央の一番高い塔だ。塔の最上部は国全体と空を見張る監視所になっているんだ」

「ワン、じゃ、そこから塔に入り込めそうですね」

 とポチが言うと、レオンがあせりました。

「このまま直行はできないぞ! 天空城は見えない障壁で守られているんだから、激突してしまう!」

「城に入るなら、門をくぐらないと」

 とビーラーも言います。

 けれども、フルートは首を振りました。

「リューラ先生は、ぼくたちがそこから来ることを予想して、なにかしら手を打っているだろう。門から入るのは危険だ」

「じゃあ、どうするつもり? 天空城には裏門なんてないのよ」

 とルルが尋ねると、フルートは何かを考える顔になって言いました。

「思い当たることがあるんだ。ちょっと試してみよう」

 

 フルートが向かったのは、天空城の上空でした。彼らの目には見えませんが、城全体を包む魔法の障壁のすぐ外側です。ポチが思い出して言いました。

「ワン、そういえば、風の犬の戦いでここに来たときには、障壁のことなんか全然知らなくて、まともにぶつかっちゃいましたよね」

「あの頃はね。でも、今は多分――」

 そんな謎めいたことを言いながら、フルートは身を乗り出し、見えない壁に呼びかけました。

「ぼくたちは城の中に入りたいんだ。ここを通してくれ」

「えぇっ、障壁に頼んだってそれは無理だろ!?」

「試したいことって、それかよ!?」

 と仲間たちはあきれてしまいましたが、とたんにポポロやレオンやマロ先生が声を上げました。

「入口が開いたわ!」

「障壁がフルートの言うことを聞いた!」

「何故だ!? 天空城の障壁の守りは完璧のはずなのに!」

 フルートは落ち着いて答えました。

「ぼくたちはこの城のどこにでも出入りしていい、って天空王様から許可をもらっているんだ。城に自由に出入りしていいからには、きっと障壁も通れるだろうと思ったんだよ。ポポロ、ぼくやポチには障壁の入口が見えないから、先に通ってくれ」

 そこで、ポポロはゼンやルルと見えない入口をくぐって天空城へ下りていきました。その後に、フルートを乗せたポチや、メールたちを乗せた花鳥が続きます。

 マロ先生は信じられないように頭を振っていました。

「まったく、とんでもないことだな。さすがは伝説の勇者たちだ」

「天空王様から絶対の信頼を受けているんですね」

 とレオンも感心しています。

 天空城に自由に出入りできるということは、フルートたちが思っている以上にすごいことのようでした――。

 

 城の上空の障壁をくぐった後、ポポロは入口の門のほうを眺めました。はるかなまなざしをしてから言います。

「やっぱりいたわ! 青い戦人形よ!」

 全員は、ぎょっとして門を振り向きました。レオンが同じように魔法使いの目を使って確かめます。

「――本当だ! 入口の門の近くに魔法で隠されている! あのままあそこから入っていたら、間違いなく襲われたぞ!」

「だが、これでリューラがこの城内にいることは、はっきりした。やはり運行局に潜んでいるのだな」

 とマロ先生が城の中央の塔を見下ろし、フルートに尋ねました。

「これからどうする? 一度どこかに身を隠して、塔の様子を探ってから侵入するか?」

「いいえ、このまままっすぐ突入します」

 とフルートは答え、意外な顔をするマロ先生へ続けました。

「リューラ先生はぼくたちが侵入したことに気づいています。ただ、城内に騒ぎを起こしたくないから、表だって攻撃してこないだけです。この状況では、時間がたつほど、向こうに守りを固める余裕を与えてしまって、攻め込むのが難しくなります。突入するなら今です。このまま、塔の上の監視所から飛び込んで、運行局を目ざします」

 大胆にそう言うフルートに、マロ先生はいっそう驚き、レオンはあきれたようにメールにささやきました。

「フルートは、あんなにおとなしそうに見えるのに、意外と過激な性格だったんだな」

「ポポロのお母さんや天空の国の人たちを助けようとしているからだよ。誰かを守ろうとするときのフルートは、誰より勇敢で強いんだ。こんなの、まだまだ序の口さ」

 とメールが笑います。

 すると、ポポロがまた言いました。

「戦人形が動き出したわ! ものすごい速さでこっちに向かってくるわよ!」

「ワン、リューラ先生に見つかったんだ!」

 とポチが言います。

 フルートは眼下にひときわ高く大きくそびえている塔を指さしました。

「あそこから飛び込むぞ! 急げ!」

 二匹の風の犬と大きな花鳥は、ごごぅっと風の音をさせながら、急降下を始めました――。

 

 地上の城ならば天守閣に当たる一番高い塔には、金色の三角の屋根がありました。屋根を太い金の柱が支え、その下は石の屋上になっています。フルートたちが目ざしたのはその屋上でした。黒い星空の衣を着た男女が大勢います。

「監視所の担当者と衛兵たちだ。全員が貴族と同等の力を持っているから、気をつけなさい」

 とマロ先生が言ったそばから、魔法攻撃がやってきました。天に暗雲が渦巻いて巨大な稲妻が降ってきたのです。

「金の石!」

 とフルートが叫ぶと、金の光が一同の上へ広がりました。稲妻を弾き返してしまいます。

「警告もなしに攻撃するなんて! 監視所もリューラ先生の支配下に置かれているのか!?」

 とレオンが驚くと、フルートが答えました。

「当然だ。天空の国が予定と違う動きをすれば、一番最初にそれに気がつくのは監視所の人間だからな。運行局の様子を見に行って、魔王の手先にされてしまったんだ」

 怖いほど冷静なフルートの読みに、レオンが鼻白みます。

 すると、また攻撃がやってきました。今度は塔の上から無数の光の弾が襲いかかってきます。

「頼む、金の石!」

 とフルートはまた叫び、彼らの前に守りの光が広がりました。行く手が炸裂する光でいっぱいになりますが、彼らに攻撃は届きません。

 すると、金の石の精霊が前方の空中に姿を現しました。飛びながら一同へ話しかけてきます。

「気をつけろ。連中は君たちを本気で殺そうとしている。絶対にぼくたちの先には出るな」

「いくら我々でも、守りの光の外に出られては、守りきれぬからな」

 と願い石の精霊も言いました。こちらはいつの間にかポチの横に姿を現していて、片手でフルートの肩をつかんでいました。願い石は先ほどから金の石と協力して、光の障壁で彼らを守っていたのです。

 光の炸裂がおさまると、監視所のある塔がまた見えてきました。

「前進! 突入だ!」

 とフルートは叫ぶと、先頭になって急降下していきました――。

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