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第19巻「天空の国の戦い」

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第24章 突入

72.団結

 「運行局は、城の塔のひとつにあるんだ」

 マロ先生は眼鏡の奥から山頂の天空城を見上げて話し出しました。

「そこには常に数十人の担当者が詰めていて、この天空の国の運行状況を見張り、空の風向きを確認しながら、進路を決定して調整している。いわばこの国の操縦室のような場所だ。もちろん強力な魔法で厳重に守られているが、リューラが魔王になってしまえば、そんなものは役に立たないだろう。リューラは運用局に入り込んで、ポポロの魔法を復活させないために、この国の進行方向を変えさせたんだ」

 そこまで話して、マロ先生はフルートたちを見つめ直しました。

「君たちは、本当に闇の竜と互角に戦ってきたんだな。あの竜にここまで君たちを警戒させるなんてね――。もちろん、魔王になったリューラが警戒しているのはポポロだけれど、彼女がなかなかうまく魔法を使いこなせないことも、我々はよく知っている。それができていたということは、一緒に戦っている君たちが上手に導いていたのに違いないね」

 マロ先生から温かいものが伝わってきて、勇者の一行は思わずにっこりしました。

「ポポロに魔法を指示するのは、いつもフルートだよな」

「そうそう。それも、誰も思いつかないような大胆な作戦を考えつくから、ポポロの魔法も、ものすごい威力を発揮するんだよね」

「ワン、大軍を防いだり、大きな川を百キロ以上も逆流させて船団を運んだり――大津波を沖へ押し返してしまったこともありましたよね」

 とゼンやメールやポチが言ったので、ポポロは恥ずかしそうにうつむいて、そっとフルートを見上げました。フルートのほうは大真面目な顔で首を振ります。

「ポポロに、なんとかみんなを助けたい、自分の力を役立てたい、って気持ちがあるからだよ。ぼくが指示しなくても、ポポロが自分からぼくたちを助けてくれることも、しょっちゅうじゃないか」

 マロ先生は微笑しました。

「君たちは本当に仲がいいんだな。だから、闇の竜にも対抗できるのか――。あいつは非常に強力だが、他人と協力することはできないからな。できるのは、力と恐怖で相手を支配することだけだ。本当に心と力を合わせた正義には、決して勝てないんだよ」

 フルートたちはまた、にっこりしました。マロ先生の話を聞いていると、なんだか新しい勇気が湧いていてくるような気がします。

 

 ところが、レオンがうらやましそうにそれを聞いていたので、ゼンが勢いよく背中をたたきました。

「おい、なんで他人事みたいな顔してやがる!? おまえも一緒に心と力を合わせねえと、魔王を倒せねえんだぞ!」

 え? とレオンは思わず聞き返しました。

「それって、ぼくも君たちの仲間だっていうことか……?」

「あたりまえだろ! ずっとそう言ってきたじゃないのさ!」

 とメールも笑ってレオンの背中をたたきます。

 ポチはビーラーに話しかけました。

「ワン、あなたも仲間ですよ。リューラ先生はレオンが魔力を取り戻したことを知らないはずだけど、それに気がついたら、絶対にポポロだけでなくレオンも攻撃してきます。みんなで一致団結しないとレオンたちを守れません」

「もちろんわかってるよ。ぼくはレオンの犬だ」

 とビーラーが答えました。誇らしそうに頭を上げた姿には、レオンに文句ばかり言っていた頃の様子はもうありません。ポチが犬の顔でほほえみます。

 そして、そんな二匹を、少し離れたところからルルが眺めていました。ビーラーとポチの横顔がなんだかとてもよく似て見えて、ルルはとまどっていました。まるで兄弟のようです。

 けれども、考えてみれば、それは当然のことかもしれませんでした。ビーラーとポチは父親が兄弟同士の従兄弟(いとこ)なので、二匹の父親譲りの部分が共通しているのでしょう。しかも、どちらも毛並みは真っ白です。

 ルルは思わず首をかしげました。自分よりはるかに大きな従兄弟へ堂々と話すポチを、改めて見つめてしまいます。

「……もしかして……」

 とルルはつぶやきましたが、その声は小さすぎて、ポチたちの耳には届きませんでした。

 

 一方、マロ先生は自分の指から指輪を外して、ポポロに渡していました。

「フレアの指輪だよ。君に渡すように言われて預かっていたんだ」

「あたしに?」

 とポポロは驚きました。紫の石がはまった指輪を、とまどいながら受けとります。

「これはカイがフレアに贈った婚約指輪なんだが、はめている人を強力に魔法から守ることができるんだよ。もちろん、普段はフレアを守っている。でも、彼女はリューラとの戦いになると予想して、指輪に君を守るように命じて、ぼくに託してきたんだ」

 そういうことだったんだ……とフルートたちは納得しました。マロ先生がこの指輪をつけていたために、彼らはマロ先生がお母さんを誘拐したと思い込んだのです。正直にそれを話すと、マロ先生は苦笑しました。

「君たちにこの指輪を見せて、フレアの無事を知らせようと思ったんだが、裏目に出てしまったらしいな。まあ、ぼくもよくなかった。君たちがリューラの策に乗せられたのを見て、つい逆上してしまったからな。いくつになっても、持って生まれた性格というのは、なかなか直せないものだ」

 見るからに落ち着いて生真面目そうなマロ先生が、こんなことを言ったので、一同は目を丸くしてしまいました――。

 

 やがて、フルートは仲間たちを見回しました。ゼン、メール、ポポロ、ポチ、ルル、それに、レオンとビーラーとマロ先生。金の石と願い石の二人の精霊は、いつの間にか姿を消していましたが、呼べばまた姿を現すことはわかっていました。そんな全員を見渡してから、おもむろに口を開きます。

「それじゃ、天空城の運行局に行くぞ! ポポロのお母さんを助け出して、魔王を倒すんだ!」

 おう! とゼンたちがいっせいに声を上げたので、レオンやビーラーもあわてて、お、おう、と返事をしました。

 すると、マロ先生がまた言いました。

「リューラはぼくたちがやって来ることを予想して、待ちかまえているだろう。奴が操る戦人形も健在だ。だから、こっちも相応の準備をしていかなくちゃいけない。レオン、ちょっと来なさい」

 呼ばれてレオンが飛んでいくと、マロ先生は何かを耳打ちしました。レオンがたちまち驚いた顔になります。

「先生、これは……」

「そう。あの戦人形を操るための呪文だ」

 と先生は重々しく言って、離れた場所に倒れている白い人形を指さしました。

「いいか、必ずこの呪文を唱えてから人形を起こすんだ。順番を間違えると、人形は制御が効かなくなって暴走する。敵味方の区別なく周囲へ攻撃を始めるからな」

「それは井戸の中で嫌ってほど経験しました……」

 とレオンはつぶやくような声になって言いました。フルートたちも、消魔水の井戸での戦いを思い出して、苦笑いをしてしまいます。

 マロ先生は話し続けました。

「この呪文は、決して他の者に聞かれてはいけない。必ず沈黙の中で唱えなさい。あの人形はあまりにも戦闘力が高すぎるから、うかつに呪文を洩らすと、とんでもない事態になりかねないんだ」

 先生……とレオンはまたつぶやきました。その危険な人形を、先生はレオンに託そうとしているのです。

 

 マロ先生に促されて、レオンは戦人形へ歩み寄りました。フルートたちが見守る中、呪文を唱えますが、それは他の者には聞こえませんでした。あらかじめ音を消す魔法を使っていたのです。

 次いでレオンが人形にかがみ込むと、レオンの手が触れたところから銀の光がわき起こりました。みるみる人形全体に広がって、吸い込まれるように消えていきます――。

「ワン、人形が目覚めた!」

 とポチが言ったとたん、本当に人形がまぶたを開けました。髪の毛のない白い頭のまわりや頂上に、六つの赤い目が開き、細長い体がゆっくりと立ち上がってきます。

「人形に魔法防御を装備させなさい」

 とマロ先生がまた言いました。レオンはとまどいましたが、実際には簡単なことでした。彼が念じるだけで、人形はその指示に従ってくれるのです。白かった人形の体がまた赤く染まって、攻撃魔法を受け流せるようになります。

 フルートはうなずき、クレラ山の頂上の天空城を見上げました。金と銀でできた城は、沈まない太陽の光を浴びて、まぶしく輝いています。

「魔王はあそこだ。必ず勝って、デビルドラゴンをこの国から追い出すぞ。出発!」

 フルートの号令で、全員はいっせいに動き出しました――。

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