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第19巻「天空の国の戦い」

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70.闇の石

 考えよう、とフルートに言われて、一同は一生懸命考えました。

 早くリューラ先生を見つけ出さなくてはならないのですが、その居場所をつかむことができないのです。

 レオンはまた闇の首輪をつかんでいました。一生懸命引っぱるのですが、首輪はレオンの首に同化しているので、どうしても外すことができません。その様子を見ていたポチが、少し考えてから口を開きました。

「ワン、その首輪には闇の石がはまっているんですよね? どうして闇の石をつけられても、レオンたちは無事でいるんだろう?」

 それは改めて湧いてきた疑問でした。今までにも彼らは何度も闇の石を目にしてきたし、それを装備した軍隊や、体内に持った怪物にも出会ってきたのですが、彼らは皆、闇の石に支配されて怪物になり、暴れ回っては他者を傷つけていたのです。

「これのどこが無事だ!? ぼくたちは魔法がまったく使えないんだぞ!」

 とレオンは怒って言い返しましたが、マロ先生は疑問に答えてくれました。

「君たちは、地上の人や生き物が闇の石を持ったときの話をしているのだろう? 彼らは内側に光の力をあまり持っていないから、闇の石に対抗できないんだよ。簡単に闇の力に負けて、怪物の姿に変わってしまうんだ」

 すると、ゼンが口をはさんできました。

「逆に、闇のヤツなら闇の石も平気だよな。俺たちは前に闇のドワーフと戦ったことがあるけどよ、あいつらは闇の石を平気で触って細工してやがったぞ」

「闇の石が小さければね。自分の限界を超える量の闇を受けてしまえば、彼らだって無事ではいられないよ。闇に自分の体を破壊されて、人でも生き物でもない、『おどろ』という闇の泥に変わってしまうんだ」

 マロ先生はやはり教師でした。闇の石に関してもよく知っています。

 ルルが言いました。

「おどろなら、私たちも出会ったことがあるわ。願い石もおどろに追いかけられていたわよね?」

「あれは肉体も自我も失った、闇の怨念(おんねん)の塊だ。何百年でも私を追いかけ続けてくるから始末が悪い」

 と精霊の女性が言って、つん、と顔をそむけます。

 

 すると、フルートが急に、あっ、と声を上げました。突然四年前の風の犬の戦いのことを思い出したのです。

「闇の石は光の武器で壊すことができるじゃないか! 首輪を無理に壊そうすれば、体と同化しているから、つけられているほうも無事ではすまないけれど、光の武器を使えば無傷で解放することができる。以前、そうやって闇の首輪に支配された風の犬を解放しただろう!」

「でも、光の武器はここにはないわよ……。光の剣も光の矢も、天空王様しかお入りになれない、城の宝物庫にしまってあるから」

 とポポロが困惑すると、フルートはまた言いました。

「光の武器はここにないけれど、聖なる光を放つ石ならここにある――! 金の石、マロ先生やレオンの首輪の闇の石を破壊してくれ!」

 急に自分にお鉢が回ってきたので、金の石の精霊は目を丸くしました。すぐに渋い顔になって答えます。

「君は相変わらず無茶な注文ばかりしてくるな。闇の石は闇そのものが結晶になった存在だぞ。それを消滅させるのに、どのくらいの力が必要になると思っているんだ」

「でも、君は聖なる石だ! 聖なる光で闇の石を消すことはできるはずじゃないか!?」

 とフルートは食い下がりました。魔王になったリューラ先生に立ち向かうには、ポポロの魔法だけでは戦力不足だったので、なんとかマロ先生やレオンの魔法を回復させたかったのです。

 すると、横から願い石の精霊が言いました。

「確かにそれは無茶な注文だ。守護のは非常に小さい。闇の石を消滅させようとしたら、守護のも跡形もなく消し飛んでしまうだろう」

 それでもフルートは言い続けました。

「確かに金の石には荷が重いかもしれない。ぼくが無理に頼めば、金の石は消滅するんだろう。でも、君は、喧嘩相手が消滅するのは面白くないんじゃなかったか、願い石――?」

 フルートは明らかに誘導をしていました。言って、じっと赤い女性を見つめます。

 願い石の精霊はそれを冷ややかに見返しました。

「ずいぶんと、ずる賢くなったようだな、フルート。私に守護のの支援をさせて、闇の首輪を消滅させようというのか」

 不愉快そうな調子ですが、表情はいつもと少しも変わっていません。

「だって、君は退屈していたんだろう? いい退屈しのぎのはずだ」

 とフルートが重ねて言います。こちらは確信を込めた口調です。

 願い石の精霊が何も言わなくなってしまったので、金の石の精霊は肩をすくめました。フルートは願い石に承知させてしまったのです。

 

「願いのが力を貸せば、闇の石は破壊できる。ただし、ひとつだけだ。これだけの大きさの石を二つも壊そうとしたら、願いのとぼくの間に入るフルートの体が持たないからな」

 と精霊の少年に言われて、マロ先生とレオンは顔を見合わせました。首輪から解放されて魔力を取り戻せるのは一人だけ、ということです。

 やがて、レオンは目を伏せました。うつむいたまま言います。

「もちろん、マロ先生がいいのに決まってます……。先生、リューラ先生を止めてください」

 ビーラーは心配そうに主人を見上げていました。下に向けられたレオンの顔は、口惜しさで今にも泣き出しそうになっていたのです。

 ところが、マロ先生は言いました。

「いいや、レオンの首輪を外してやってくれ。そのほうが戦力になる」

 レオンは驚いて顔を上げました。フルートたちも意外に思います。

「言っちゃなんだけどよ、レオンよりマロ先生が魔法を使えるようになるほうが、いいんじゃねえのか? マロ先生はリューラの野郎をずっと見張ってたんだしよ」

 とゼンが言うと、マロ先生は首を振りました。

「ぼくよりもレオンのほうが役に立つ。なにしろ、レオンは次の天空王候補だ。潜在している魔力は、ぼくを上回っているからな」

 一同はびっくりしました。一番驚いたのはレオン自身です。先ほどリューラ先生からも次期天空王の候補者だと言われましたが、彼を味方につけるためのでまかせとばかり思っていたのです。

 すると、マロ先生は微笑しました。

「リューラが言っていたことは、内容としては少しも間違っていなかったんだよ。現在はリグト一世が天空王だが、次の天空王の候補には、レオンとポポロの名前が挙がっている。この先の二人の活躍を見極めながら、次の天空王を決めていくことになっているんだ」

「そ、そんな――! あたしに天空王なんて、ぜ、絶対に無理です――!」

 ポポロは激しく頭を振って、わっと泣き出しました。レオンのほうは呆然として、ことばが出ません。

 マロ先生は静かに話し続けました。

「そう、魔力としてはポポロのほうが上だが、ポポロは気持ちが弱すぎる。一方のレオンも、自分の魔力を鼻にかけて、自分より劣る人々をあざけっていた。貴族たちを率いて正義を守る天空王としては、致命的な欠点だ。だから、いくら候補に挙がっていても、二人とも天空王には不適当と判断される可能性はある。――だがね、それでもレオンの魔力は本物なんだよ。ひょっとすると、魔王になったリューラをしのぐかもしれない」

 レオンはいっそう驚きました。何か言おうと思うのですが、やっぱりことばが出てきません。

 

 すると、ゼンが腕組みしてレオンをじろじろと見ました。

「ったく。レオンが次の天空王か? とんでもねえ話だな」

 レオンは思わず、かっと赤くなりました。

「と、とても無理だと言いたいんだろう!? 天空の国がめちゃくちゃになるに決まってる、って! そうさ! どうせぼくは自信過剰のうぬぼれ屋で、致命的な欠点が――」

「いや、案外悪くねえと思うぜ」

 とゼンがあっさり答えたので、レオンはまた絶句しました。

 すると、フルートも言いました。

「ぼくもそう思うな……。レオンはさっき戦っている最中に、悪いことをしている者は野放しにしておけない、とマロ先生に言った。もちろん、それは誤解だったわけだけれど、そういう強い気持ちは正義の王として絶対必要なものだろう。レオンはきっと天空王に適任だよ」

 ますますうろたえるレオンの背中を、メールがたたきました。

「いいじゃないか、次の天空王だろうが、なんだろうが。力のあるヤツが戦線に加わるのが、戦いの基本なんだからさ。レオンのほうが戦えるって言うんなら、そうするべきだよ」

「そういうことだ。だから、レオンの首輪をはずしてやってくれ」

 とマロ先生が繰り返します。

 フルートはうなずくと、精霊たちへ言いました。

「それじゃレオンの闇の石を砕くぞ。力を貸してくれ」

「しかたないな」

「私はフルートに力を貸すわけではない。私が手伝うのは、喧嘩相手が消滅してしまってはつまらぬからだ」

 渋々と、あるいは屁理屈を言いながら、二人の精霊は動き出しました。金の石の精霊はレオンへ片手を向け、願い石の精霊がフルートの肩をつかみます。

 とたんに精霊の少年の手から金の光がほとばしって、レオンの全身をまばゆく照らしました――。

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