「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第19巻「天空の国の戦い」

前のページ

第23章 闇の石

69.真相・3

 人質に取られたポポロのお母さんを助け出して、リューラ先生からデビルドラゴンを追い出さなくちゃいけない、力を貸してくれ、とフルートから言われて、金の石の精霊は片手を腰に当てました。首をちょっとねじって、隣の女性を見上げます。

「ぼくに助けを求めるというのはわかる。ぼくは聖なる魔石だからな。だが、願いのに助けを求めたら君は破滅するぞ、フルート。助けはぼくだけで充分だ。願いのは戻せ」

 すると、精霊の女性が言いました。

「私は戻るつもりはない。ずっと、することもなくて退屈だったから、見物に出てきただけなのだからな。そなたたちがどうやって魔王を倒すのか、お手並みを拝見させてもらおう」

 フルートはうなずきました。

「それでいいよ。で、気が向いたときには、金の石を手伝ってやってくれ。今回の魔王は魔法を極めていて、さすがの金の石も苦労するかもしれないからな」

「なるほど。そういうことは、ありえるかもしれぬ」

 と願い石の精霊は答え、自分をにらみつけてきた精霊の少年を、涼しい顔で無視しました。フルートが、あっさり精霊たちの協力を取りつけてしまったので、マロ先生とレオンが目を丸くします。

 

 フルートは仲間たちへ話し続けました。

「マロ先生の話によれば、以前からリューラ先生は天空王の座を狙い続けていたらしい。そこをデビルドラゴンにつけ込まれたんだが、考えてみれば不思議だ。ここは聖なる光であふれた天空の国なのに、あの竜はどこからここに入り込んだんだろう?」

「それに、リューラ先生があいつに取り憑かれてるなんて、まったく感じられなかったもんなぁ。おい、金の石、聖なる石のくせに全然気がつかなかったのかよ?」

 とゼンに言われて、精霊の少年は、むっとした顔になりました。

「いつも言っているだろう。人は必ず心の中に光と闇を持っている。あの竜は人の心の闇に潜むから、魔王の形で表に現れてくるまでは、どこに潜んでいるのか、ぼくにはわからないんだ」

「じゃあ、どうやってあいつはリューラ先生の心に入り込んだんだと思う?」

 とフルートはまた尋ねました。

 それに答えたのはマロ先生でした。

「地上に闇の竜が作った誘(いざな)いの罠がばらまかれたとわかってから、天空の国では、その罠を見つけ出す研究が続いていた。リューラはそこに関わっていたんだ――。誘いの罠は、宝の暗号に見せかけて地上のあちこちに隠されているが、光の側の者には、それが感知できないようになっている。それを見つけ出す方法を開発したのが、リューラだ。複数の場所から光の魔法を発して、反対側でその魔法を受けとめる。闇の罠がある場所では光の魔法が相殺されるから、途中で魔法が消えた場所に罠が隠されていることになる。――リューラも、その時点では真剣に闇の竜に立ち向かっていたんだ。自分が開発した方法が実際に使えるかどうか確かめるために、自ら地上へ降りて実験もした。実験はうまくいって、罠はいくつも見つかったのだが、おそらく、その時にリューラ自身が誘いの罠にはまってしまったんだろう。闇の竜は、完全に自分を受け入れた人間でなければ、その者を魔王にすることはできない。リューラは心のどこかに闇の竜を棲まわせたまま天空の国へ戻って、竜を隠し続けていたんだ。ついさっきまでな――」

 ふぅっとフルートたちは思わず溜息をつきました。

 それだけ優れた頭があるなら、闇の竜の危険に気がついても良さそうなものなのですが、実際には、そういう人物ほど誘惑に負けやすいのです。デビルドラゴンの誘いは巧みで、人が心の奥底に隠していた欲望を引きずり出しては、それを実現する力を与えてやろう、と誘ってきます。欲望を暴かれた人間は、いとも簡単に、デビルドラゴンの誘いを受け入れてしまうのです。

「とにかく、リューラをぶっとばして、あいつからデビルドラゴンを追い出そうぜ」

 とゼンが言いました。フルートもうなずきます。

「ポポロのお母さんは、ぼくたちを誘い出すための人質だから、ぼくたちが行くまでは絶対無事でいる。まず、お母さんを救出してから、デビルドラゴンを撃退するんだ」

「でも、どうやるのさ? 一筋縄じゃ行かないよ。作戦を練らなくちゃ」

 とメールが言います。

 

 そこで、彼らは改めて自分たちの戦力を確認してみました。

 フルートは金の鎧兜を身につけて緑のマントをはおり、盾を左腕につけ、二本の剣を背負って、完全装備でいました。金の石のペンダントも胸の上で輝いています。

 ゼンは青い胸当てをつけて、青い小さな盾とショートソードを腰に下げ、百発百中のエルフの弓矢を背負って、やはり装備は完璧でした。

 メールはいつも通り、花のような袖なしシャツにうろこ模様の半ズボン、サンダル履きという軽装です。武器は何も持っていませんが、天空の国はいたるところに花が咲いているので、花使いに困ることはありません。

 ポポロは黒い長衣になった星空の衣を着て、肩から小さな革の鞄を下げていました。星空の衣には魔法から彼女を守る力があるし、鞄には姿隠しの肩掛けが入っています。ポポロは今日はまだ魔法を一度しか使っていませんでした。強力な魔法がもう一回使えます。

 ポチとルルは風の犬に変身する能力を取り戻していました。マロ先生は、屋敷を守るために、森全体に風の犬が入り込めない魔法をかけていたのですが、その森が焼失したので、魔法も消えてしまったのです。

 マロ先生とレオンはそれぞれに星空の衣を着ていましたが、闇の首輪をはめられて、魔力を封じられてしまっていました。魔法が使えなければ、彼らは普通の人間とまったく同じです。戦闘力はほとんどありません。

 ビーラーも、怪我こそ治りましたが、まだ風の首輪は持っていないので、普通の犬と同じ程度の力しかありませんでした。ただ、それでも彼は主人を守るようにレオンの足元に立って、周囲を警戒していました。戦闘になれば勇敢に戦いそうな雰囲気です。

 そして、彼らの横には、金の石の精霊と願い石の精霊も立っていました。なんだかんだと屁理屈の多い二人ですが、魔王に立ち向かうときには不可欠な存在です。

 

「リューラは強力な魔法使いだが、魔王になった今は、いっそう魔力が強くなっているはずだ。あの魔法に対抗できるのは、ポポロの魔法しかないだろうな」

 とマロ先生が言ったので、ポポロとレオンは顔色を変えました。ポポロは自分の魔法がひとつしか残っていないことに不安になり、レオンは自分が魔法を使えなくなっていることをひどく悔しく思ったのです。

「またこの輪の虜(とりこ)にされるだなんて! 消魔水の中は魔法が発動しないだけだったけど、こっちは自分の内側から力が完全に失われているのがわかるんだ! こんな恥をさらすくらいなら、いっそ殺されたほうがましだった!」

 とレオンはつい口走って、たちまちフルートとゼンから叱られました。

「馬鹿を言うな! その程度のことで死んでどうする!?」

「まったくだ! 地上の俺たちは、魔法なんか全然使えなくても、こうして生きてるんだぜ。いつも魔法ばかりに頼りすぎてるから、魔法が使えなくなったとたんに、人生の終わりのような気分になるんだ。根性出しやがれ!」

 レオンは二人の気迫に負けて、ことばが出なくなりました。しょんぼりうなだれた彼に、ビーラーが一生懸命体をすりつけます。

 メールは肩をすくめると、ポポロに言いました。

「とにかく、リューラ先生の居場所を見つけなくちゃいけないわけだろ? 魔法使いの目で見つけらんないのかい?」

「だめよ……。先生が飛んでいった方向を探したんだけど、どこにも見当たらないの」

 とポポロが答えると、金の石の精霊も言いました。

「ぼくにも魔王の存在は感じられない。どうやら、奴は魔法で闇の気配を打ち消しているようだな」

「あきらめないで考えよう。考え続ければ、きっと手がかりが見つかるはずだ」

 強い声で仲間たちへ言って、フルートは、じっと虚空を見つめました――。

素材提供素材サイト「スターダスト」へのリンク