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第19巻「天空の国の戦い」

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65.逆転・1

 一度攻撃を取りやめたはずのリューラ先生が、また光の渦を作って投げつけたので、レオンもゼンたちも仰天しました。渦が飛んでいく先には、マロ先生だけでなく、それを守るポチもいるのです。ポチ!! と全員が悲鳴を上げます。

 すると、別の呪文が鋭く響きました。

「セエカ!!」

 ポポロが光の渦へ手を差し伸べていました。その指先から緑の星が飛んで散っていきます。

 とたんに光の渦が見えない壁に激突しました。光が轟音をたてて破裂して、空と地面を激しく揺らします。

 レオンは爆風に吹き飛ばされて、とっさに魔法を使いました。障壁を張って地面に降り立つと、その周囲を猛烈な光と風が吹き抜けていきます。リューラ先生は、レオンと先生自身の二人分の魔力を使って光の渦を作ったのですが、ポポロはそれを一人ではね返していました。激突した二つの魔法が、狂った龍のように絡み合い、暴れながら遠ざかっていきます――。

 

 土煙がちぎれると、その向こうにまたポチとマロ先生が姿を現しました。ポポロの魔法のおかげで無事でしたが、先生は倒れたまま、ポチは茫然と立ちつくしています。

 金の光で守られたフルートたちも、土煙の中から姿を現しました。ゼンとメールがリューラ先生へどなります。

「こんちくしょう、いったいどういうつもりだ!? ポチがいるのに攻撃しやがって!」

「そうだよ! 何考えてんのさ!?」

 ルルは光の中から飛び出していきました。ポチに駆け寄り、夢中でその体をなめます。

「ポチ、ポチ、大丈夫――!?」

 ポポロも、フルートに言われて防御魔法を繰り出したものの、自分の目が信じられなくて立ちすくんでいました。リューラ先生はポチがいたのに攻撃を繰り出してきました。マロ先生と一緒にポチまで殺すつもりだったのです。

 すると、フルートが急に駆け出しました。マロ先生や犬たちの前へ来ると、マントをひるがえして振り向き、盾をかざします。

 とたんに、がきぃん、と堅い音がして、戦人形が現れました。人形の攻撃をフルートが盾で受け止めたのです。その人形が全身青い色をしていたので、一同はまた驚きました。青い人形はリューラ先生が操っているものです。

 そこに今度は赤い人形も現れました。青い人形はすぐに振り向いて赤い人形と切り合い、すぐにまた別の場所へ跳んでいきました。

「リューラ先生……?」

 レオンは呆然としました。何故先生がこんなにも厳しい攻撃をするのか、理由がわかりません。けれども、リューラ先生の人形は確かに、マロ先生だけでなく、ポチやルルまで切り殺そうとしたのです。

 

 すると、リューラ先生が言いました。

「みんな、そこをどきなさい。その男の前にいるから巻き込まれるのだ。その男は罰を受けなくてはならない。罪人をかばおうとする人間は、同じ罪人と見なされますよ」

 副校長の声は穏やかでした。穏やかすぎて、冷たく聞こえるほどです。

 すると、フルートは、きっとにらみ返しました。マロ先生や犬たちの前で盾を構えながら言います。

「いいや、違う! あなたは最初からぼくたちを狙っていたんだ――! 戦人形はずっとぼくたちの周囲で戦い続けているけれど、切り合う瞬間、赤い人形は必ずぼくたちに背中を向けている。あれはぼくたちを攻撃しているんじゃなくて、青い人形の攻撃からぼくたちを守っているんだ。ぼくたちを本当に殺そうとしていたのは、赤い人形じゃなくて、青い人形のほうだ!」

 ええっ!? と一同はまた驚きました。人形を探して周囲を見回します。

 とたんに、がきん、とゼンたちのすぐ後ろでぶつかる音がして、二体の人形が姿を現しました。確かに赤い人形はゼンたちに背中を向けていました。その両手の刃は、振り下ろされた青い人形の刃を防いでいます――。

「本当に青が俺たちを殺そうとしてやがるぞ!」

「え、だって、青いのはリューラ先生の人形じゃないか!?」

 ゼンとメールは混乱しました。ポポロはわけがわからなくて立ちすくんんだままです。その間に二体の人形はまた姿を消しました。次の瞬間にはフルートたちのすぐ横に現れますが、やっぱり赤い人形はフルートたちに背を向けていました。彼らに攻撃をするのではなく、青い人形の攻撃を受け止めて切り合い、また見えなくなっていきます。

「ワン、本当だ! 赤い人形がぼくたちを守っている!」

「で、でも、赤いのはマロ先生の人形なんでしょう? どうして――?」

 犬たちはマロ先生を振り向きましたが、深手を負った先生は地面に倒れたまま、浅い息をしているだけでした。焼け焦げた地面に赤黒い血の染みが広がっています。

 

「リューラ先生、どういうことですか!?」

 とレオンは尋ねました。小柄で穏やかな顔つきの副校長が、いつもとまったく違う人物のように見えてしまいます。

 リューラ先生は少しもあわてていませんでした。

「妙なことを言うものじゃない。私の人形はマロ先生の人形を倒そうと戦っているんだ。君たちを襲っているわけじゃない。そんなこともわからないのかね? ――もう一度力を貸しなさい、レオン。どうやら彼らはマロ先生の術にはまっているらしい。彼らを解放するためにも、マロ先生を倒さなくてはならないんだ」

 リューラ先生とレオンの間の光の帯は、ポポロに魔法を返された瞬間にちぎれて、失われていました。もう一度それをつなぎ直そうと、リューラ先生がレオンへ手を差しだしてきます。

 レオンは思わず後ずさりました。確かめるように周囲を見回します。

 マロ先生は重症を負って倒れていました。その前にポチとルルが立ち、フルートが彼らを守って剣と盾を構えています。

 別の場所ではゼンとメールとポポロが寄り集まり、やはり疑いの目をリューラ先生に向けていました。と、そのすぐ近くに戦人形が姿を現しました。赤い人形がゼンたちに背を向けて青い人形の刃を受け止め、はね返して、また青い人形と消えていきます――。

「どうしたね、レオン。早く私に同調しなさい」

 リューラ先生が近寄ってレオンの手をつかもうとしたので、レオンはますます後ずさりました。リューラ先生はにこやかに笑い続けていますが、その目は少しも笑っていませんでした。危険だ、ここから逃げろ、と直感がレオンに警告してきます。

 すると、リューラ先生が短く言いました。

「エガータシ」

 とたんに、レオンの体は自由に動かなくなってしまいました。近づいてくるリューラ先生を見つめることしかできなくなります。

 リューラ先生はレオンの前に立つと、命じるように言いました。

「手を出しなさい、レオン。そして、私にもう一度、君の力をよこすんだ」

 すると、レオンの腕が上がっていきました。レオン自身はそんなことをするつもりはないのに、体がリューラ先生の命令に従ってしまうのです。レオンの手が先生の手に重なっていきます――。

 

 ところが、その時、小さな生き物がレオンの上着のポケットから飛びだしました。魔法で小さくなっていたビーラーです。うなり声を上げながらリューラ先生の手に飛びついて、激しくかみつきます。

 リューラ先生は悲鳴を上げて飛びのき、その拍子にレオンにかかっていた術が解けました。レオンは自分の手をつかんで、大きく飛びのきました。ビーラー! と叫びます。

「逃げろ、レオン! フルートたちのところへ早く!」

 ビーラーはそう言うと、またリューラ先生の手に、がっぷりとかみつきました――。

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