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第19巻「天空の国の戦い」

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64.同調

 君の力を同調させなさい、とリューラ副校長に言われて、レオンはとまどいました。魔法の中でも非常に高度な術で、うまく方向性をつけなければ、暴走した魔力に吹き飛ばされてしまう危険があったからです。もちろん、学校でもまだやったことはありません。

 けれども、リューラ先生はためらいもなく手を差し出していました。レオンを信頼しているのです。レオンは、おそるおそる自分の手を出しました。副校長の手を、そっと握ります。

 それを見て、マロ先生がどなりました。

「やめろ、馬鹿者ども! そんなことをして、ただですむと思うのか――!?」

 副校長と握手したレオンの手が、急に光り出しました。淡い銀色に輝き、みるみるそれが強まっていきます。

「レオンの力がリューラ先生と同調するわ……!」

 とポポロが言いました。馬鹿な! とマロ先生のどなり声がまた聞こえます。

 リューラ先生は、にっこり笑いました。レオンの手を離して一歩、二歩と離れます。不思議なことに、二人の手は銀色の光の帯でつながれていました。リューラ先生が離れても、とぎれることがありません。

「よくやった、レオン。これでマロ先生を止められるよ」

 とリューラ先生は言うと、両手を頭上にかざしました。唱え始めた呪文は、雷と炎と雹(ひょう)を同時に呼ぶ魔法でした。マロ先生が打ち消そうと思っても、一度にそれだけの魔法を打ち消すことはできません。

 すさまじい音をたてて、天から魔法が降ってきました。リューラ先生が障壁を張りますが、防ぐことができたのは稲妻の魔法だけでした。炎と雹がマロ先生へ降りかかります。

「ワン、マロ先生には防げない!」

「決まるわ!」

 ポチとルルが声を上げます。

 

 ところが、そのとたん、炎が見えない壁にぶつかりました。赤い火がマロ先生の頭上で天井のように広がり、続けて飛んできた雹を呑み込みます。雹は一瞬で蒸発して消えていきました。炎も薄く広がってちぎれていきます。

「誰かが障壁を張って妨害した!」

 とレオンは叫びました。リューラ先生はマロ先生の屋敷をにらみつけます。

「力の出所(でどころ)が見えました! そこです!」

 リューラ先生の手から特大の炎が飛び出していきました。やめろ! とマロ先生が魔法で防ごうとしますが、それを吹き飛ばして屋敷に激突します。たちまち屋敷は炎に包まれました。ごうごうと音をたてて燃え上がります。

 フルートたちは青くなりました。屋敷の中にはポポロの両親が監禁されているかもしれないのです。

「お母さん!! お父さん――!!」

 ポポロとルルが悲鳴を上げると、リューラ先生が言いました。

「心配ない、彼らは中にはいないよ。私にはわかるんだ。それより、この隙にマロ先生を倒そう。レオン、もう一度しっかり私に同調しなさい」

 レオンと副校長をつなぐ光の帯は、輝きが薄れかかっていました。レオンが我に返ると、また光が強まります。

 マロ先生は燃え上がった屋敷を前に、あわてふためいていました。馬鹿どもが!! とののしりながら火事を消そうとしますが、魔法の炎はなかなか消えません。

 その間にリューラ先生はまた巨大な魔法を生み出しました。先にマロ先生と激突させた光の渦ですが、今度のものは、先の渦よりずっと巨大でした。レオンが魔法で協力するより、リューラ先生に同調する形で力を貸すほうが、より強力な魔法が使えたのです。

 リューラ先生が光の渦を投げつけました。屋敷の火を消そうとするマロ先生を後ろから直撃して、猛烈な爆発を引き起こします――。

 

 炸裂した光が消え、爆風が通り過ぎていくと、前にも増して荒れ果てた景色が現れました。文字通り、草木一本生えていない焼け野原です。

 その真ん中で屋敷が燃え続け、その前にマロ先生が倒れていました。まだ息はありますが、立ち上がることができません。

 やった! とメールやゼンは歓声を上げました。

 レオンも、ほっとしますが、同時になんとも言えない気分になりました。マロ先生は全身にひどい火傷を負って動けなくなっていました。ぼろぼろになった服からは、ただれた皮膚が見えています。自分が力を貸したせいでマロ先生がこうなったのだと思うと、なんだかひどく苦いものがこみ上げてきます。

 けれども、リューラ先生は容赦がありませんでした。マロ先生に向かって厳しい声で言います。

「もう癒しの魔法も使えないようですね。次で決めましょう。これで最後です」

 掲げた手にまた光の渦ができはじめたので、レオンはぎょっとしました。リューラ先生はマロ先生にとどめを刺そうとしているのです。もう一度、光の爆発をくらえば、マロ先生は絶対に死んでしまいます。そこまでは……と考えて、気持ちがひるんでしまいます。

 とたんにリューラ先生に叱られました。

「しっかりしなさい、レオン! 彼は取り返しのつかない罪を犯した。重罪は身をもってあがなわなければならないんです! 心を強く持って、力を同調させなさい!」

 ポポロやルルは息を呑み、ゼンとメールは思わず顔をしかめました。確かにマロ先生は悪人かもしれません。けれども、殺したりする必要まではないんじゃないか、と考えます。

 レオンとリューラ先生の間の光の帯がまた強くなりました。光の渦はどんどん大きくなっていきます――。

 

 すると、突然守りの光から外へ飛び出したものがありました。白い小犬――ポチです。

「ポチ!?」

「馬鹿野郎、危ねえぞ!」

 驚く仲間たちを残して小犬は走り、二人の先生たちの間に飛び込んでいきました。短い四本足を踏んばってマロ先生の前に立つと、リューラ先生に向かって言います。

「ワン、お願いです! マロ先生を殺さないでください!」

 リューラ先生は驚きました。光の渦の成長が止まります。

「何故邪魔をするんだね? 彼は罪を犯した。天空の国では、罪は必ず罰せられなくてはならないんだよ」

「ワン、それは地上でも同じです! でも……だけど……マロ先生は、ぼくのお父さんの主人だったんです! その人を見殺しにはできません!」

 ポチ! と仲間たちはまた驚きました。倒れていたマロ先生にも、その声は聞こえていたようでした。わずかに顔を上げて、壊れた眼鏡の奥からポチを見ます。

「カロスの……?」

 それがポチの父親の名前のようでした。

 リューラ先生がポチへ言い続けました。

「どくんだ! 彼は君の主人ではないし、このまま放置しておけば、この天空の国に害をなす! 彼は闇に心を奪われたのだ!」

 ポチは小さな頭を振りました。

「ワン、嫌です! マロ先生は殺させません!」

 ポチ……と仲間たちはつぶやきました。小さな体で精一杯踏んばってマロ先生を守ろうとする姿を、見つめてしまいます。

 リューラ先生は困ったような表情になりました。

「どうしても、どかないと言うのかね? 彼は大罪人なのに」

「ワン、どきません! マロ先生はきちんと裁判を受けて、そこで罰を受けるべきです!」

 とポチは言い張ります。

 リューラ先生は大きな溜息をつくと、しかたがないな、とつぶやきました。頭上に掲げた光の渦が、吸い込まれるように小さくなり始めます。攻撃を取りやめたのです。

 レオンと仲間たちは、ほっとしました。

「ワン、ありがとうございます」

 とポチは感謝をして、後ろのマロ先生へ目を向けます。

 

 そのとたん、フルートの声が響き渡りました。

「ポポロ、ポチたちを守れ!!」

 全員が仰天して振り向くと、フルートが血相を変えて前方を指さしていました。そちらを見た一同が目にしたのは、再び大きくなっていく光の渦でした。リューラ先生がまた呪文を唱え始めたのです。たちまち空の半分をおおうほど巨大になってしまいます。

 レオンは真っ青になりました。

「どうしてですか、リューラ先生!?」

 ゼンたちも口々に叫びました。

「やめろ、馬鹿野郎!」

「ポチが巻き込まれるよ!」

「やめて! 攻撃を止めてちょうだい!」

 すると、フルートがまた言いました。

「リューラ先生が攻撃してくる!! ポポロ、魔法だ!!」

 そのとたん、リューラ先生が呪文を完成させました。

「――ケーイーニシロコ!」

 光の渦は、マロ先生とポチに向かって、うなりを上げて飛んでいきました。

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