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第19巻「天空の国の戦い」

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第21章 逆転

63.激突

 森は炎に包まれていました。魔法の火がまたたく間に燃え広がり、森を焦土に変えていきます。

 けれども、マロ先生の屋敷は建ち続けていました。屋敷の前では戦いが続いています。自分も戦う、と言い切ったレオンが、副校長のリューラ先生と一緒に呪文を唱えていました。天にかざした二人の手の上に輝く光が集まり、渦を巻いていきます。マロ先生も同じような光の渦を作っていますが、二人の渦はそれよりはるかに巨大です。

 それを見て、ポポロとルルが言いました。

「気をつけて! どちらもものすごく強力な魔法よ!」

「ぶつかったら爆発するわよ!」

 すると、マロ先生が渦を円盤のように投げつけました。リューラ先生とレオンも自分たちの渦を投げます。

 とたんにすさまじい轟音が響き渡り、大地が地震のように揺れました。土煙が塊(かたまり)になって立ち上り、周囲はまばゆい光でいっぱいになります。

 けれども、じきに光は弱まって消えていきました。フルートたちは金の石に守られているので無事です。目を開けて周囲を見回し、土煙が吹き過ぎた後に現れた景色に、あっと声を上げてしまいます。

 森は跡形もなく吹き飛んでいました。燃えていた木も、黒焦げになって立っていた木も、すべて吹き飛ばされ、炎さえも消えて、一面の荒れ地になっています。

「ワン、すさまじい力だ」

 とポチが言うと、ルルが答えました。

「強烈な魔法同士がぶつかっているんだもの、当然よ。魔法ってのは、逆の力で魔法を相殺(そうさい)するか、相手より強力な魔法をぶつけることで、かき消すのよ」

「今のは? どっちの魔法が強かったのさ!?」

 とメールが言い、全員は、中央のひときわ土煙の濃い場所へ目を凝らしました。そこに人の姿が見えてきます――。

 

 リューラ先生とレオンが並んで立っていました。怪我はありません。

 一方、マロ先生は少し離れた地面の上に倒れていました。ぶつかり合った魔法に吹き飛ばされてしまったのです。すぐに手をついて起き上がってきますが、全身には火傷を負ったような痕がありました。黒い服もあちこちほころびています。

 リューラ先生はレオンを見上げて、にっこりしました。

「やるね、レオン。大した力だ。志(こころざし)にも目覚めたようだし、いよいよ君も貴族の仲間入りだな」

「志?」

 とレオンは目を丸くしました。それってなんのことだろう? と考えます。彼はただ、悪いことをするマロ先生は見過ごせない、と言っただけなのですが――。

 すると、マロ先生が顔を上げました。額から血が流れ、眼鏡は片方のレンズがひび割れていますが、まだ負けを認めてはいない顔でした。先生の屋敷も、まだ後ろに無傷で建っています。

 マロ先生は歯ぎしりをして言いました。

「愚か者どもが……! リューラにたぶらかされおって! 引っ込んでいろ!」

「嫌です! マロ先生こそ降参してください! そして、ポポロの両親を返してください!」

 とレオンが言い返しました。強い声です。

 マロ先生は立ち上がると、また呪文を唱え始めました。

 リューラ先生がそれを聞き分けて言います。

「また火の玉の呪文だ! 同じ魔法で打ち消しますよ!」

「はいっ!」

 レオンもリューラ先生と呪文を唱え始めます。

 

 一方、金の石が放つ光の中で、フルートは戦人形の戦いを追い続けていました。

 魔法が激突した衝撃も、戦人形たちには影響なかったようでした。相変わらず目に止まらない素早さで飛び回っては、音をたてて切り合い、また場所を移動してはぶつかり合います。

 すると、人形たちがレオンとリューラ先生のほうへ飛んでいきました。人形の腕の刃が、ぎらりと光り、レオンたちのすぐ後ろでぶつかり合います。

 レオンが思わずそちらを見ると、リューラ先生が言いました。

「大丈夫だ、我々の人形が守ってくれる! 魔法に集中しなさい!」

 はい、とレオンは再び魔法の呪文を唱えました。ほとんど完成しているリューラ先生の魔法へ、自分の魔法を重ねていきます。

 フルートは目を細めて、その光景を見つめました。ひどく鋭いまなざしです。人形がまた場所を変えると、それを追ってふり返ります。

「どうした?」

 他の仲間がレオンたちの魔法戦を見つめる中、フルートだけがまったく別の場所を見ているので、ゼンが尋ねました。

 フルートはまた目を細めました。人形の素早い動きを捉えようとしながら言います。

「赤い人形は、いつも背中なんだ……」

「あん?」

 意味がわからなくて、ゼンは聞き返しました。

「人形が目に止まるとき、赤い人形はいつも背中を見せているんだよ」

 とフルートがまた言いました。やっぱりゼンには意味がわかりません――。

 

 マロ先生の呪文が完成して、手の中に大きな火の玉が生まれました。勢いよく上空へ駆け上って行きます。

 リューラ先生とレオンの魔法も同じ時に完成していました。やはり巨大な火の玉を上空へ飛ばします。

 二つの火の玉は一同の頭上で激突しました。轟音と共に閃光が広がり、無数の炎が周囲に飛び散ります。

 それを金の光の内側から見て、メールが言いました。

「ホント、すさまじいね。金の石が守ってくれなかったら、あたいたちまで丸焼けになってるよ」

「ワン、またリューラ先生たちの魔法のほうが強かった。ほら!」

 とポチが示した空に、再び火の玉が現れました。リューラ先生とレオンが撃ち出した火の玉が、完全には打ち消されずに残っていたのです。空中でいくつもの小さな火の玉に分裂すると、マロ先生目がけて降っていきます。

 マロ先生はとっさにそれを防ごうとしました。

「セエカ――!」

「ナスエカ!」

 レオンがすかさず別の呪文を唱えました。とたんにマロ先生の前から魔法の光が消えました。魔法防御を打ち消されたのです。火の玉がまともに降りそそぎ、マロ先生を打ちのめします。

「また効いたわ!」

 とルルが歓声を上げました。

「レオンが反対の魔法で反撃を封じたのよ……!」

 とポポロも言います。

 リューラ先生が感心したようにレオンを見上げました。

「本当に大したものだ。さすがは未来の天空王候補だな」

 えっ!? とレオンはまたびっくりしました。未来の天空王候補――思いもよらないことを言われて、リューラ先生を見つめてしまいます。

 魔法学校の副校長は穏やかに笑っていました。

「天空王の座は世襲制じゃない。その国で最も魔力が強い人物が引き継いでいくものだ。次の天空王になるのは君かポポロだろう、と言われているんだよ」

 レオンは絶句しました。自分が将来天空王になるかもしれない? あまりにも思いがけない話に、呆然としてしまいます。

 一方、ポポロは目を見張って真っ青になっていました。彼女がレオンと一緒に天空王候補になっている、という話が、こちらにも聞こえていたのです。おびえたように激しく頭を振ります。天空王だなんて、彼女にはとても無理です――。

 

 彼らの目の前で炎に包まれていたマロ先生が、気合いと共に炎を吹き飛ばしました。いっそうぼろぼろになった姿を一瞬で元に戻して、あざわらいます。

「何故、今その話をする!? 天空王候補だとわかったところで、魔力が急に強くなるわけもないだろう!」

 リューラ先生は落ち着きはらって答えました。

「レオンはもう充分強いんだよ。ただ、天空王になる人物は、他の者よりずっと厳しい評価を受ける。レオンはずっと試されていたんだ。――さあ、君の力を私に同調させなさい、レオン。君の力の助けを借りて、マロ先生を倒そう」

 副校長はそう言ってレオンへ手を差し出しました――。

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