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第19巻「天空の国の戦い」

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62.決意

 「ロケダクヨクボイータ!」

 木がフルートたちへ倒れかかってくる瞬間、高く響いたのはレオンの声でした。魔法の呪文を唱えたのです。

 とたんに、彼らの頭上で大木は粉々に砕け、ざぁぁ……と雨のような音をたてて降りかかってきました。幹も枝も木の葉も、すべて小さなかけらになっています。

 フルートはあわてて剣を鞘に収めました。木片が炎の剣をかすめたら、火が燃え広がって、とんでもないことになります。

「うぉ、うわわわわ!」

「ちょっと、やだぁ! うまく歩けないよ!」

 木片の山に生き埋めになったゼンやメールが、必死で這い出してきました。歩こうとしても足が木片に埋まるので、思うように進めなかったのです。フルートとポポロ、ポチとルル、レオンも同じように脱出してきます。

 大木はすっかり粉々になって、大きな山になっていました。ふう、と全員が溜息をつきます。

「ありがとう、レオン。助かった」

 とフルートに感謝されて、レオンはまんざらでもない顔になりました。

「これくらい、どうってことないさ――。それより、あの戦人形をどうする? 本当に、ぼくたちにはとても手に負えないぞ」

 二体の人形はまだ激しく戦い続けていました。移動する様子は速すぎて目に止まりません。刃がぶつかり合う音にそちらを見ると、赤と青の人形が切り合っていて、すぐにまたどこかへ移動してしまうのです。それでもフルートは目で人形を追い続けました。また見失い、音を頼りに探します。

 ポチが言いました。

「ワン、あの人形の相手は同じ人形にしかできませんよ。でも、人形を操っている奴なら、ぼくたちにだって倒せるはずです」

 赤い戦人形を繰り出しているのは、マロ先生です。他の仲間はその姿を探しました。

「あ、いた!」

「あそこだわ!」

 マロ先生は先に人形が木を切り倒した森の中に立っていました。少し距離を置いた場所に、小柄なリューラ先生が向き合って立っています――。

 

 マロ先生が言っていました。

「そうやって勇者たちを守っている真似か、リューラ!」

 リューラ先生は小さな頭をかしげました。相変わらず穏やかな声で答えます。

「あなたは何故、そんなに様子が変わってしまったのです、マロ先生? あなたは真面目で立派な教師だったのに。何か不満でもあったのですか?」

「黙れ、偽善者! 貴様がしていることに、誰も気づいていないとでも思っているのか!?」

 マロ先生はかみつくような口調ですが、副校長のほうは穏やかな顔と声のままです。

「何か誤解をしているようですね。だが、どうやら話し合いをする余裕もないようだ。しかたない。行きますよ、マロ先生――」

 リューラ先生が両手を掲げ、呪文と共に振り下ろすと、とたんに空から光の弾が飛んできました。流星群のように、後から後から落ちてきて、マロ先生に降りそそいでいきます。

 マロ先生は頭上に障壁を張りました。光の弾を残らずはね返して砕きます。

 リューラ先生が言いました。

「やはりあなたの魔力は以前より強くなっている……。その力をどこから手に入れました? あなたの目的はなんです?」

 いくら尋ねてもマロ先生は答えません。逆に障壁の陰から大きな魔法の鷹(たか)を繰り出します。リューラ先生は魔法で大鷲(おおわし)を呼び出しました。二羽の猛禽(もうきん)が空中でもつれ合い、互いに攻撃をして羽毛を散らします。

 すると、大鷲が鷹を捕まえました。鋭いくちばしを振り下ろすと、鷹が悲鳴を上げて消えていきます――。

 マロ先生はすかさずまた呪文を唱えました。今度は巨大な稲妻がリューラ先生へ降りかかります。小柄な副校長は、あわてず障壁を張りました。稲妻が障壁を直撃して飛び散り、轟音(ごうおん)と共に森が激しく揺れます。

 フルートたちはいつの間にか淡い金の光に包まれていました。フルートが引き出した金の石が、彼らを魔法戦のとばっちりから守っていたのです。飛び散る火花や光のかけらを見ながら、ポチやゼンが話していました。

「ワン、すごい……。ぼくたちなんて、とても手が出せないですよ」

「魔法戦ってヤツだな。見ろよ、まわりの森がどんどんなくなっていくぞ」

 ゼンの言うとおり、周囲の木々はぶつかり合う魔法のあおりで根こそぎ吹き飛ばされていました。先に粉々になった木に魔法の火が移り、燃え広がっていきます。焦土に変わっていく森の悲鳴に、メールがつらそうに顔を歪めます。

 

 リューラ先生とマロ先生は同時に魔法を使おうとしていました。互いをにらみながら、呪文を唱えていきます。

 すると、そこへ赤い戦人形が飛び込んできました。マロ先生の操る人形が、リューラ先生の人形を振り切ってきたのです。体から新しい刃を伸ばし、リューラ先生の障壁を切り裂いてしまいます。

 副校長は呪文を途中で止めました。防御魔法に切り替えようとしますが、マロ先生の呪文が完成して、空から巨大な炎が降ってきました。リューラ先生の防御が間に合いません。

 そこへレオンの声が響きました。

「セエカーオキゲウコー!」

 とたんにリューラ先生の目の前の地面が爆発しました。爆風はリューラ先生を吹き倒しましたが、同時に飛び散った土が赤い戦人形を吹き飛ばし、広がって、空から落ちてくる炎も受け止めました。地面に倒れたリューラ先生には届きません。

 炎が散り散りになって消えていくと、レオンは金の光の外に飛び出して、副校長へ駆け寄りました。

「リューラ先生! 大丈夫ですか!?」

 副校長はすぐに立ち上がって手を振りました。

「もちろん大丈夫だ。危険だから下がっていなさい」

「ぼくも戦います! リューラ先生だけには戦わせません!」

 レオンのことばに、副校長はちょっと驚いた顔をしてから、微笑しました。

「なんだか雰囲気が変わったようだね、レオン? そっちにいる勇者たちのおかげかな?」

 レオンは顔を赤らめました。別にそんなことは――と口ごもります。

 

 戦人形はまた姿を消していました。燃えさかる森のどこかから、ぶつかり合う刃の音が聞こえてきます。

 マロ先生が言いました。

「束になれば私に勝てると思っているのか!? 関係のない奴は下がっていろ! これは私とリューラの戦いだ!」

「嫌だ! ぼくは将来、天空の国と世界を守る貴族になる人間だ! どう見ても悪いことをしているあなたを、野放しになんてしておけない!」

 とレオンはまた言い返しました。いかにも少年らしい、潔い声です。

 マロ先生は眼鏡を冷たく光らせました。

「馬鹿者どもが――。痛い目に遭わなければ、わからんか」

 両手を掲げたマロ先生の頭上に、光が霧のように集まり、渦を巻き始めました。先生が長い呪文を唱えています。

 ルルが叫びました。

「ものすごい魔力が集まってるわ――! 信じられない! 貴族たちだって、こんな大きな魔法はまず使わないわよ!」

「その力をどこから手に入れたのです、マロ先生!?」

 とリューラ先生はまた尋ねましたが、マロ先生は答えませんでした。その手の上で、光の渦がさらに大きくなっていきます。

 リューラ先生はレオンに言いました。

「君の力を貸しなさい。攻撃を防ぐぞ」

「はい!」

 レオンは答え、リューラ先生と一緒に両手を天にかざしました――。

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