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第19巻「天空の国の戦い」

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61.二つの人形

 マロ先生の屋敷の前でにらみ合う二人の先生を、フルートたちは息を詰めて見守りました。弾き飛ばされた戦人形がまた立ち上がってきます。リューラ先生の魔法をくらっても、少しも損なわれていません。

 すると、人形がまたリューラ先生へ襲いかかっていきました。目にも止まらない素早さです。あっとフルートたちが思った瞬間、ガキィン、と硬い音が響いて人形がまた見えるようになりました。人形はいつの間にか両手から鋭い刃を伸ばしていましたが、それをリューラ先生が魔法で受け止めたのです。気合いと共に、人形がまたはね返されます。

「すごい!」

「戦人形に負けてねえぞ!」

 メールやゼンが歓声を上げると、マロ先生が眼鏡の奥で目を細めました。

「この人形は二千年前の魔法戦争の中で実際に使われたものだ。魔法対策もしっかり施されている――」

 マロ先生がまた呪文を唱えると、白かった戦人形の体が、ぼうっと光り出し、全身が赤い色に変わっていきました。流れ出した血を連想させるような色合いです。

 リューラ先生はすぐにまた呪文を唱えて魔法を繰り出しました。戦人形目がけて稲妻を落としますが、それは人形の体の表面を滑り落ちてしまいました。

「魔法を受け流している! あれじゃ魔法は効かない!」

 とレオンが言っている間にも、人形はまたリューラ先生へ襲いかかりました。一瞬で迫ってきて、鋭い刃になった腕を振り上げます。

「セエカ!」

 リューラ先生はまた呪文を唱えましたが、広がった光は人形の体を滑っていって、人形を防ぐことができませんでした。刃がリューラ先生の頭上に振り上げられます。

 

 すると、そのすぐ横にフルートが飛び出してきました。炎の剣で人形の刃を受け止めます。

 人形は新しい敵をにらみつけました。もう一本の刃で、フルートの胴へ切りつけてきます。フルートはとっさに盾で受け止めましたが、たちまち吹き飛ばされてしまいました。近くの木にたたきつけられて、がしゃんと地面に倒れます。

「君、大丈夫か!?」

 とリューラ先生が呼びかけ、フルートがすぐに立ち上がったのを見て言いました。

「下がっていなさい。これの相手は私だ」

 マロ先生のほうでも人形に言っていました。

「まずはリューラからだ。相手を間違えるな」

 木立の間から差した光が眼鏡に反射して、マロ先生の表情は読めませんが、ひどく冷ややかな響きの声です。

 戦人形がまたリューラ先生へ飛びかかっていきました。二本の刃で切りかかってきます。

 副校長がまた呪文を唱えると、今度はその手に大きな剣が現れました。次々に繰り出される人形の攻撃を、確実に受け止めて返していきます。その正確さにポチが驚きました。

「ワン、フルートよりすごい! リューラ先生って剣士だったんですか?」

「違うわ、あれは魔法の剣なのよ。攻撃を全部防げるんだわ」

 とルルが答えます。

 ところが、戦人形の片腕が、いきなりあり得ない方向へぐにゃりと曲がりました。刃が下から切り上げる動きに変わります。もう一方の刃は上から下へ降ってきます。

 リューラ先生の剣はその両方の刃を同時に受け止めました。とたんに剣は先生の手からもぎ取られ、回転しながら弾き飛ばされてしまいました。武器のなくなった先生へ、また人形が切りかかります。

 

 そこへまたフルートが飛び出しました。下がっていろ、と言われても、すぐ近くまで駆けつけていたのです。人形の刃を、リューラ先生の頭上で受け止めます。

 同時に、びぃん、と音がして矢が飛んできました。ゼンが百発百中の矢を放ったのです。戦人形の正面の右目に、みごとに突き刺さります。

 けれども、リューラ先生は言いました。

「無駄だ! 戦人形は時間がたつと自動的に復元するんだ! 図書館で君たちが潰した目が元に戻っているだろう!?」

 リューラ先生の言うとおり、先に特別室で潰したはずの目は元通りになっていました。今また、ゼンがひとつ潰したのですが、これも時間がたてばまた復元してしまうということです。

「ワン、なんて奴だ」

「それだけ戦いに特化した人形なのよ」

 と犬たちは話し合いました。雨がやんだので風の犬になって飛び出したいのですが、何故か変身することができませんでした。森全体が何かの魔法でおおわれているのです。じれったく思いながら戦いを見守るしかありません。

 その横でメールも歯ぎしりをして悔しがっていました。周囲の木や花に応援を求めているのですが、どこからも助けが飛んでこなかったのです。やはり参戦することができません。

 戦人形が両手の刃を突き出しました。フルートはとっさに受け止めようとしましたが、剣も盾も間に合いませんでした。また大きく弾き飛ばされ、地面にたたきつけられます。

「フルート!!」

 と仲間たちは叫びました。あのフルートがまるで歯が立ちません。

「戦人形は消魔水の外に出るとこんなに速いのか……」

 とレオンが呆然とつぶやきます。

 

 リューラ先生へ人形がまた切りかかってきました。先生が魔法で飛びのくと、即座に追いかけてきます。リューラ先生は再び飛びました。すぐに人形が襲いかかってくるので、逃げ回ることしかできません。

 フルートがまた立ち上がりました。緩んでいた兜をかぶり直し、剣を握って人形に切りかかろうとします。

 すると、ポポロが突然叫びました。

「また戦人形よ!」

 リューラ先生を追い回す戦人形のすぐそばに、もう一体、人形が姿を現したのです。白い体がみるみる赤く変わっていきます。

「ワン、花園に出てきた人形だ!」

 とポチが言いました。

「戦人形が二体だなんて、どうやって相手をするのよ!?」

 とルルも叫びます。

 フルートたちは青ざめました。レマート! とレオンが停止の魔法を唱えますが、二体の動きを止めることはできません。

 すると、リューラ先生が急に新しい人形へ手を向けました。何やら複雑な呪文を唱えてから、何かをつかむように、ぐっと手を握りしめます。

 とたんに、人形が止まりました。キシキシと堅い音をさせながら立ちつくします。その体の色がまた変わっていきました。血のような赤から、空を思わせる青になります。

「貴様、何をした!?」

 とマロ先生が眼鏡を光らせてどなりました。

 リューラ先生が落ち着き払って答えます。

「こちらの人形は私の命令を効くようになりましたよ。我々は負けるわけにはいきませんからね。さあ、仕切り直しです――」

 リューラ先生のことばと同時に、青い戦人形が飛び上がりました。リューラ先生の頭上を飛び越し、両手から鋭い刃を伸ばします。赤い戦人形がそれを受け止めました。刃と刃が激しくぶつかり合って、ぎぃん、と耳障りな音が響き渡ります。

 と、人形の姿が二体とも見えなくなりました。一瞬で別の場所に移動したのです。誰もがその姿を見失います。

 ぎん、ぎん、ぎぃん、とまた刃がぶつかり合う音が始まったのは、フルートたちの背後でした。彼らが振り向くと、森の中で二体の人形が戦っていました。双方が腕の刃で切り合い、飛びかかっては離れます。

 

 すると、その周囲で木が次々と倒れ始めました。人形が振り回す刃に切り倒されているのです。

「危ない!」

 フルートたちが倒れてくる木から逃げようとすると、今度はその目の前の森で戦いが始まりました。人形たちが一瞬で移動してきたのです。周囲の木々がまた切り倒されます。

 ひときわ大きな木が、音を立てながら倒れ始めたので、フルートたちは立ちすくみました。巨大な枝が視界いっぱいに広がりながら迫ってきます。木が大きすぎて、かわすことができません。

 ポポロは両手を木に突きつけました。はね返しの呪文を唱えようとします。

「セエ――」

 ところが、その目の前にいきなり赤い戦人形が現れました。ポポロへ襲いかかってきます。

 フルートがとっさに彼女に飛びついてかばうと、人形はその横を通り過ぎていきました。彼らのすぐ後ろにいた青い人形に襲いかかり、また切り合います。

 メールが叫びました。

「木が倒れてくるよ!」

「ちくしょう、止められねえ!」

 とゼンもわめきます。倒れてくる木を受け止めようとしたのですが、枝葉が先にやってくるので、幹のある場所が見極められなかったのです。

 フルートはペンダントの鎖をつかみました。金の石を引き出して皆を守ろうとしたのですが、そこへまた赤い人形が現れました。フルートを跳ね飛ばし、ぎぃん、と音をたてて青い人形と激突して、また見えなくなります。

 そこへ巨大な樹が落ちかかってきました。

 フルートたちは、逃げることもかわすこともできませんでした――。

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