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第19巻「天空の国の戦い」

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第20章 対立

60.対立

 雨がやみ、霧が薄れ始めた森の中に、大きな屋敷が姿を現しました。古びていますが、三階建ての立派な建物です。

 副校長のリューラ先生は、驚いたようにそれを見上げました。

「マロ先生の家じゃないか。君たちはマロ先生に用事があったのかね? だが、マロ先生は、学校が終わってから生徒と会うのを嫌がるんだよ」

 相変わらず不思議そうな先生に、フルートはとうとう全部を話す決心をしました。

「ぼくたちはマロ先生の後を追ってきたんです。先生が図書館の特別室から戦人形を持ち出したから――」

 副校長は仰天しました。

「マロ先生が戦人形を持ち出した!? そんな馬鹿な! なんのためにそんなことをしたんだね!?」

「目的は正確にはわかりません。でも、きっと、ぼくたちを排除しようとしているんだと思います」

 とフルートは答え、リューラ先生を見つめました。本当に驚くほど小さな人物ですが、この国では天空王の次に大きな魔力の持ち主です。味方についてもらえれば、これほど心強い人物はいません。

 リューラ先生はまだ信じられない顔をしていました。確かめるように言い続けます。

「君たちは以前、花畑で戦人形に襲われたと言っていたね。図書館の特別室でも襲われた、と。それはすべてマロ先生のしわざだったと言うのかね? だが、なんのために君たちを?」

「ぼくたちは、この天空の国にデビルドラゴンの倒し方を探しに来ました。それが邪魔なのかもしれません」

 とフルートは話し続けました。言いながら、以前ポポロのお父さんに、竜の宝のことはもう調べてはいけない、と禁止されたことを急に思い出します。あのことが何か関係しているのでしょうか? けれども、彼らは竜の宝のことを、他の誰にも口外していません――。

 

「デビルドラゴンというのは、闇の竜のことだね? あの竜は、我々天空の民にとっても永遠の宿敵だ。それを倒そうとする君たちを妨害する理由など、どこにもないはずだが」

 とリューラ先生はまだ合点のいかない顔をしていました。

 じれったくなったメールが、話に割り込んできました。

「他のみんなはそうじゃなくたって、マロ先生はあたいたちが邪魔なんだよ! ポポロの家を襲撃してめちゃくちゃにしたうえに、ポポロのお父さんやお母さんまで誘拐したんだからさ!」

 リューラ先生は、さっと顔色を変えました。真剣な表情になって聞き返します。

「ポポロのご両親をマロ先生が連れ去ったというのか? 本当かね?」

 フルートはうなずきました。

「本当です。家の壊され方から考えて、戦人形で襲撃したんだろうと思います」

「マロ先生はお母さんの指輪を持っているんです!」

「これ見よがしに指にはめているのよ!」

 とポポロとルルも必死で訴えます。

 リューラ先生はますます深刻な表情になりました。目の前にそびえる屋敷を見上げて、つぶやくように言います。

「マロ先生……あなたはいったい何者だ?」

 森の霧は薄れ続け、梢の間にたなびいていた靄(もや)も、吹き抜ける風と共に消えていきました。周囲に背の高い木々が姿を現します。

 

 すると、出しぬけに屋敷の入口に痩せた男が現れました。黒い服を来て眼鏡をかけたマロ先生です。門の前に立つフルートたちを見て、大声を出します。

「いつの間にか雨がやんでいると思ったら、おまえたちのしわざか! どうしてここがわかった!?」

 フルートたちは、はっとしました。フルートは剣をゼンは弓を構え、他の者たちも低く身構えます。その拍子に、彼らの間に立つリューラ先生の姿が見えるようになりました。マロ先生が驚いてまた声を上げます。

「副校長! 何故、あなたが一緒にいらっしゃるんです!?」

「彼らの後を追いかけてきたら、ここにたどり着いたんですよ。マロ先生こそ、そこで何をしているんです? ポポロの両親を家に監禁していると聞いたのですが、本当ですか?」

 リューラ先生に言われて、マロ先生は、はっきりと顔色を変えました。寄り集まって立っているリューラ先生とフルートたちを見渡し、いまいましそうに舌打ちします。

「よりにもよって、副校長と一緒だとはな。こうなっては、力ずくしかないか」

 マロ先生が手を上げて呪文を唱え始めたので、全員はまた、はっとしました。全員が攻撃魔法を予想して身構え、レオンやポポロは魔法で攻撃を受け止めようとします。

 ところが、リューラ先生が言いました。

「違う! この呪文は攻撃魔法ではない! これは――!」

 マロ先生の呪文が終わるのと同時に、その目の前に人のようなものが現れました。ひょろりと長い手足と体をした、白い人形です。髪の毛のない頭には、いくつもの赤い目があります。

「戦人形だ!!」

 と全員は叫びました。マロ先生が戦人形を召喚したのです。フルートとゼンとレオンが、仲間たちをかばって前に飛び出そうとします。

 

 ところが、それより早く、ずいとリューラ先生が出てきました。小さな体でフルートたちの前に立ち、背後にいる彼らへ手を振って言います。

「私の後ろにいなさい。あれは君たちの手に余る怪物だ」

 フルートたちの胸のあたりまでしか背丈がない、本当に小柄なリューラ先生です。少しも強そうに見えないのに、フルートたちは思わず立ち止まってしまいました。先生の小さな背中が発している気迫にたじろぎ、思わず顔を見合わせます。

 リューラ先生はマロ先生へ言いました。

「あなたが戦人形を使えるようになっていたとは思いませんでしたよ。人形を動かすには強大な魔力が、操るのには特殊な呪文が必要です。呪文は研究書の中に残されていますが、その魔力はどうやって手に入れました? こう言っては申し訳ないが、マロ先生にそこまでの魔力はなかったはずですよ」

 すると、マロ先生はにらみつけるような顔になりました。敬語をかなぐり捨てて、リューラ先生へ言い返します。

「そんなことをおまえに話す義理はない! その子どもたちをこちらへ渡せ!」

「そうはいきませんね。レオンは我が校の大事な生徒、金の石の勇者の一行も、天空の国で守られるべき存在です。あなたこそ、早くその人形を引っ込めなさい。そして、何がどうなっているのか、きちんと説明して聞かせなさい」

 口調は穏やかでも、リューラ先生の声には決して譲らない強さがありました。戦人形を前にしているのに、まったく恐れていないのです。

 副校長がフルートたちの前に立ちはだかって動かないのを見て、マロ先生はまた舌打ちしました。戦人形へ、さっと手を振ります。

「行け! リューラを倒せ!」

「セエカーオキテ!」

 と副校長も手を振りました。光の壁が広がり、突進してきた戦人形を弾き飛ばします。

 飛び散る白とオレンジの光の中で、二人の先生たちはにらみ合い、見えない火花を散らしました――。

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