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第19巻「天空の国の戦い」

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第19章 霧の森

57.頑固

 マロ先生が戦人形を連れて特別室から出てきた、と聞かされて、フルートたちは仰天しました。次の瞬間、背筋をぞぉっと冷たいものが駆け下りていきます。

「馬鹿野郎! 俺たちを捕まえるためにまた人形を出したのかよ!」

「なんであんな危険なものを引っ張り出すのさ!?」

 ゼンとメールがわめきました。フルートも真っ青になっています。

 ポポロとレオンは勉強室から透視を続けていました。

「マロ先生が戦人形に何か言っているわ……命令しているみたい」

「人形が先生に従っている! やっぱり先生のしわざだったのか!」

 ポポロは涙声、レオンは悔しさで歯ぎしりをしています。

 すると、いきなりフルートが立ち上がりました。姿が見えるようになるのもかまわず、一人で部屋の出口へ歩き出します。

「ワン、フルート!?」

「フルート、どうするつもりよ!?」

 犬たちが驚いて引き止めると、フルートは答えました。

「あの人形が図書館で暴れたら、とんでもないことになる。マロ先生を止めるんだよ」

「おい、自分からマロ先生の前に出るってぇのか!?」

「そんなことしたら、それこそ向こうの思うツボだよ! 待ちなって!」

 ゼンとメールも引き止めますが、フルートは止まりません。扉を開けて部屋を出て行こうとします。

 その前にポポロが飛び出しました。彼女は姿隠しの肩掛けを払いのけていました。出口の前に立ちふさがり、両腕と背中で扉を押さえてフルートを見上げます。

「だめよ、フルート! これは罠よ! あたしたちが自分から出てくるように仕向けているんだわ……!」

「どくんだ、ポポロ。あの人形が暴れたら、どれほどの人が死傷するかわからない。放っておくわけにはいかない」

 フルートは、言い出したら絶対に自分の考えを曲げない、あの頑固な口調になっていました。ポポロがどんなに必死で訴えても聞き入れようとしません。ポポロの目から涙がこぼれ出します。

「この馬鹿!」

 とゼンは舌打ちしました。フルートに飛びついて、力ずくで止めようとします。

 

 ところが、レオンが急にまた言いました。

「ちょっと待て! 様子が変だ――! マロ先生が飛ぶぞ!」

「飛ぶって場所移動か? どこへ?」

 とビーラーは聞き返しました。

「ワン、人形も一緒ですか!?」

 とポチも尋ねます。

「一緒だ! 飛んだ――図書館の外へ出て行く!」

 それを聞いたとたん、フルートは動き出しました。

「ごめん、ポポロ」

 と言うなり、扉の前のポポロをすくい上げるように抱いて、後ろへ放り投げます。そこには、フルートを止めるためにゼンが突進してきていました。わったっとっ、と驚きながらポポロを受け止めます。

 その間にフルートは扉を押し開けました。鍵がかかっていても、内側からは自由に開けられたのです。仲間たちが止める声を背後に聞きながら、図書館の中を駆け出します。

 すると、ポチが追いついてきました。

「ワン、フルート! どこへ行くつもりです!?」

「後を追う! 先生は人形を暴れさせて、ぼくたちを誘い出すつもりだ! 止めるんだ!」

「ワン、どうやって!? 先生は魔法で飛んでいってしまったんですよ!」

 そこへ妖精のような精霊が飛んできました。図書館の中を走るフルートたちへ、金切り声を上げます。

「あなたたち! 図書館で走っちゃだめよ! 大声もだめ! 静かにできないなら、図書館から追い出すわよ!」

 けれども、フルートは止まりませんでした。図書館の出口に向かって走り続けます。そこへ仲間たちが追いついてきました。ゼンがわめきます。

「ったく! おまえはどうしてこうなんだよ!? いつだって、他人が危ないってえと我を忘れて熱くなりやがって! 敵の罠にはまってるって自覚はねえのかよ!?」

「罠でもなんでも、放ってはおけない! 行って止めなくちゃならないんだ!」

 フルートの頑固な口調は変わりません。 

「待って、フルート! 真っ正面から向かっていったって、きっと勝てないわ! お願い、落ち着いて――!」

 ポポロは泣きながら訴え続けますが、やっぱり聞き入れてもらえません。

「なぁに、なぁに!? あなたたち、いったい何を話しているの!?」

「なんの騒ぎ!? 何が起きているのよ!?」

 図書館の精霊たちが集まってきました。怒りながら飛び回りますが、その中の一人が、遅れて追いかけてくるレオンを見つけました。

「いた! レオンだわ!」

「やだ、あなたたち、今度は鬼ごっこをしているの!? 図書館で!? とんでもなぁい!」

 精霊たちが自分に向かって飛んできたので、レオンは立ち止まりました。ぎゅっと口をへの字に曲げると、すぐに呪文を唱えます。

「ローデエトソー!」

 

 とたんに、フルートたちは図書館の外にいました。精霊を図書館の中に置き去りにして、彼らだけが外に出たのです。

 レオンは大きな溜息をつきました。

「まったく、なんて有り様だ。図書館中大騒ぎだぞ――」

「緊急事態だ。しょうがないだろう」

 とポケットからビーラーが言います。

 メールとゼンはフルートを引き止め続けていました。

「待ちなったら、フルート!」

「行き先もわかんねえのに、むやみと飛び出すな!」

 ポポロや犬たちが、そのそばでおろおろしています。

 レオンは渋い顔でそれを眺めました。

「本当に、金の石の勇者ってのは、とんでもない奴だな。戦人形をつれたマロ先生を、しゃにむに追いかけようとするんだから……。先生の行き先はぼくが透視したよ。山の麓に下りていったが、人がいる町なんかじゃない」

 町じゃない? と一同は驚きました。マロ先生が人形を暴れさせるつもりであれば、人が大勢いる場所へ行くはずです。

「先生はどこに行った?」

 とフルートは尋ねました。まだ非常に厳しい声です。

「霧の森、と呼ばれている場所だ。年中深い霧が出ていて、特別な動物や植物の住処(すみか)になっているから、人はほとんど住んでいないんだ」

 レオンの返事に、ポチとゼンとメールは顔を見合わせました。

「ワン、そこって、もしかしたら――」

「ああ、隠れるのには絶好の場所だぞ」

「きっと、マロ先生の家があるんだよ! ポポロのお母さんたちは、そこにつかまってるのさ!」

 ルルは目を見張りました。ポポロが、お母さん……とまた涙をこぼし始めます。

 フルートが言いました。

「マロ先生は、ぼくたちがおじさんやおばさんを助け出しに来ると思って、戦人形を家に運び込んだんだ。レオン、その森へ案内してくれ!」

「だが、これで人形は二体いるはずだぞ。図書館の人形と、井戸の底から盗まれた人形と。一体だけでもすさまじいのに、二体一緒に相手にするっていうのか? いくらなんでも、それは無謀だ!」

「そうだよ! 警備隊に知らせよう!」

 レオンとビーラーが反対しますが、フルートは承知しません。

「それでは大ごとになって、逆におばさんたちが危なくなるんだ――! ポポロ、霧の森ってところの場所はわかるな? ぼくたちだけで助けにいくぞ!」

 ポチとルルがすぐに風の犬になり、フルートたちがその背中に飛び乗ったので、レオンはあわてて言いました。

「待てよ! 行かないなんて言ってないじゃないか! 案内するから乗せてくれよ!」

 そこでポチがレオンたちを背中に乗せました。フルートやポポロと一緒です。

「あっちだ」

 レオンが指さした方角へ、犬たちはうなりを上げて飛び始めました――。

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