マロ先生がポポロのお母さんを誘拐したのかもしれない、とフルートがはっきりと言ったので、一同は驚きました。
「ワン、思い当たることって、なんですか!?」
とポチが尋ねます。
フルートは相変わらず考える顔をしていました。
「ポポロの家が壊された様子を聞くと、それもやっぱり戦人形のしわざのような気がするんだ。つまり、ぼくたちを花野や図書館で襲った奴と、ポポロの家を襲撃した奴は、同じ人物ということだ。で、図書館の特別室で人形に襲われたときのことを思い出してほしいんだよ……。あそこも魔法の使えない場所だったから、ぼくたちは非常に苦戦した。こちらがやられそうになった瞬間だって、何度もあった。ところが、例えばポポロが本で攻撃を防ごうとしたら、人形は急に攻撃をやめたし、ぼくが炎の弾で焼き払おうとしたら、人形は停止した。あれは明らかに図書館とその中の本を守っていたんだと思う。マロ先生は図書館の管理者だ。図書館や蔵書を大切にするのは当然だし――特別室の戦人形だって、いつでも使える立場にあったんだよ」
あ、そっか、とメールは言いました。
「図書館にはずっと戦人形があったんだから、それの動かし方とか、マロ先生は知っていたかもしれないってことか。戦人形について書かれた本だって、きっと特別室にはあったんだろうしね」
フルートはうなずき、話し続けました。
「それに、特別室の扉は、マロ先生が来たとたん、なんでもなかったように開くようになった。それまでは、ゼンの怪力でも開けることができなかったのに。そして、もうひとつ――戦人形はぼくたちを攻撃しようとして、特別室の床にいくつも穴を開けた。その上に書棚が倒れて、本が床一面に飛び散ったんだけれど、それが元に戻ったときには、床にはもう穴は残っていなかったんだ。まるで最初から何も起きていなかったみたいに」
おっ、と今度はゼンが声を上げました。確かにそうだった、と思い出したのです。
「あの時、本を戻したのは誰だ? 図書館の精霊か?」
と尋ねると、メールが答えました。
「それもマロ先生だよ。怒りながら魔法で書棚と本を戻したのさ。確かに、本をどけたら床の穴も消えていたよね。だから、副校長のリューラ先生も、最初、何が起きたのかわからなかったんだから」
一同はまたテーブルの上の石板を見ましたが、その時にはもう玄関の扉は閉じて、マロ先生の姿は見えなくなっていました。レオンの父親が、まったくけしからん! と怒りながら、家の中へ戻っていきます。
レオンはあわてて石板の場面を家の外に切り替えました。玄関に至る通路と前庭が映りますが、マロ先生の姿はもうありませんでした。魔法で飛んでいってしまったのです――。
「だ、だけど、マロ先生が、そんな悪いことをするなんて、そんなわけないよ! 厳しいけど、真面目な先生なんだぞ!」
とレオンは必死で反論しました。
「じゃあ、あの指輪はどう説明するんだよ!? あれはポポロの母ちゃんのものなんだぞ!」
とゼンが言い返します。
彼らより少し冷静なビーラーが、首をひねりながら言いました。
「でも、なんだか変じゃないのか? 先生が誘拐なんかしたのなら、どうしてその人の指輪をつけていたりするんだ? 自分は誘拐犯だ、と自分から教えているようなものじゃないか」
フルートがそれに答えました。
「あれは、ぼくたちを誘い出そうとしているんじゃないかと思うんだ――。わざと見えるところにポポロのお母さんの指輪をはめて、ぼくたちが出てくるように仕向けている気がする」
「ワン、つまり、あれを見て確かめに行こうとしたら、それこそマロ先生の思うつぼってことなんですね?」
とポチは言って、急いでルルの顔をなめました。ルルが、お母さん、と言って、また泣き出してしまったからです。
ポポロも顔をおおって泣き出しました。こちらは涙声で父親を呼び始めます。
「お父さん……。お父さん、お父さん……!」
ポポロは、母親の危機を父親に知らせようとしたのですが、いくら呼んでも、どこからも返事はありませんでした。
それを見て、ゼンが言いました。
「ポポロの母ちゃんが襲われたのに、ポポロの父ちゃんが気づいてねえってのは変だぞ。夕方には帰ってくるって言ってたんだし、ひょっとして、父ちゃんも捕まっているんじゃねえのか?」
「馬鹿っ!」
とメールがゼンをつねりました。その可能性には、メールも、そしてフルートやポチもとっくに気づいていたのです。ポポロたちがもっと心配するだろうと思って、わざと黙っていたのでした。
案の定、ポポロとメールは真っ青になると、これまで以上に激しく泣き出しました。フルートやポチが必死で慰めても泣きやみません。ゼン!! とメールに叱られて、ゼンが小さくなります。
「本当にマロ先生のしわざなのか? そんな……でも……」
まだ半信半疑でいるレオンに、フルートは言いました。
「マロ先生はポポロのお母さんの指輪をしている。ということは、お母さんと――たぶん、お父さんの行方も、きっと知っているんだよ。確かめなくちゃいけない」
「ワン、でも、それは先生の思うつぼだって、フルートが言ったじゃないですか!」
とポチが言うと、フルートはまた考える顔になって言いました。
「気づかれないように確かめに行くんだよ……。レオン、マロ先生の自宅の場所はわかるかい?」
「マロ先生の家?」
レオンはびっくりしたように繰り返し、しばらく考え込んでから、首を振りました。
「知らない……。これまで、マロ先生の住んでいるところなんて、考えたことがなかった。他の先生たちの家は知っているんだけれど」
「なんでだよ!? 詳しい場所までは知らなくても、だいたいこの辺に住んでるとか、普通は――」
文句を言うゼンに、フルートが言いました。
「これも例のやつなんだよ。どこに住んでいるのか疑問に思われないような魔法が、周囲の人間にかけられていたんだ。やっぱり、とても怪しいな。なんとかして先生の家を見つけて、確かめなくちゃいけない」
「どうするのさ? あたいたちのほうこそ、マロ先生から捜索されてるんだよ?」
とメールが言います。
「一つ、方法がある」
フルートはそう言うと、まだ泣いているポポロの肩を、ぐっと抱き寄せました――。