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第19巻「天空の国の戦い」

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49.整理

 結局フルートたちは半日以上も眠り続けました。

 メールとビーラーも、することがないので一緒に昼寝をしましたが、目を覚ましてもまだ仲間たちが寝ていたので、さすがに起こすことにしました。

「フルート、ゼン、ポポロ――そら、ポチもルルも、もう起きなよ」

「レオン、目を覚ませ。これ以上寝ると、また夜になってしまうぞ」

 仲間たちは次々に目を覚まし、まだ眠そうな顔を見合わせました。

「あたた。テーブルなんかで寝たから首が痛ぇぞ」

 とゼンがぼやきながら立ち上がり、大きく伸びをします。

 レオンは目をこすりながら部屋の隅へ行き、うん、と一人うなずくと、ベトーエクターヨクシー、と呪文を唱えました。とたんにテーブルの上に一本の鉢植えの木が現れます。高さは五十センチほどですが、緑の葉の間に小さな丸い実が鈴なりになっています。

「食事の前に植えておいたんだ。ちょうど食べ頃になってる。これでお茶にしよう」

「お、これって食えるのか?」

「おいしいのかい!?」

 ゼンとメールがさっそく身を乗り出すと、ビーラーが言いました。

「それはおやつの木と呼ばれている植物だよ。その実の一つずつに、いろいろなお菓子が魔法で閉じこめられていて、割れば中から出てくるんだ」

 それは本当に楽しい木でした。全員は好きな実をもいでは殻を割り、中から飛び出してくる菓子をわいわい言いながら食べました。レオンが魔法でお茶も出してくれます。

「気がきくぞ、おまえ!」

 とゼンに背中をたたかれて、レオンは咳き込んでしまいました――。

 

 やがて全員が少し落ち着いてくると、フルートはおもむろに切り出しました。

「さあ、それじゃ話し合いを始めよう。しばらく寝てしまったけれど、おかげでみんな頭がすっきりしたと思う。状況はかなり複雑になっている。みんなで話し合って、何が起きているのか、きちんと整理してみよう」

 仲間たちはうなずきました。レオンやビーラーも同様で、ゼンたちと一緒にフルートを見つめます。

 フルートは話し始めました。

「ぼくたちは、一昨日、この天空の国にやってきた。ポポロの家に一晩泊まってから、町を見て、花野に行って、それから天空城に行った。その間に、ぼくたちは三度も戦人形に襲われた。そこから考えてみるぞ」

「君たちは花野や図書館でも襲われたって言っていたな。そこで何をしていたんだ?」

 とレオンは尋ねました。

「あたいたちはデビルドラゴンを倒す手がかりをつかむために、この天空の国にやってきたんだよ。花野では、天空城に行こう、って話し合っていただけだったんだけど、図書館には、光と闇の戦いについて書かれた本を探しに行ったんだ。ところが、特別室に案内されてみたら、肝心の戦いの本はほとんどなくなってた。きっと、あたいたちに戦いを調べられたくないヤツがいるのさ」

 とメールが答えると、ゼンも言いました。

「それでも、概論とかいう本は残っていたから、そいつを読んでいたら、飾ってあった戦人形が襲ってきやがったんだよな。――フルート、あの図書館の人形と、花畑の人形と、井戸の中の人形は、全部違ったヤツなのか?」

「違う人形のはずだよ。図書館のは最初から展示してあった戦人形。井戸でぼくたちを襲ってきたのは、二千年間の戦いの後で集められて保管されていた人形。そして、花野に現れたのは、そこから盗み出された人形だ」

 すると、ポチが思い出すように言いました。

「ワン、あの戦人形は、天空の民の力を使って動き出すみたいでした。レオンが触れたら、魔力が人形に移動して動き出したんです。そいつが殴ったら、殴られた人形にも力が引き渡されて動き出したし。でも、そいつらはレオンを襲ってきたんです。ただ魔力を与えただけでは、人形に言うことを聞かせることはできないってことだと思います」

 それを聞いて、メールは身を乗り出しました。

「ってことは、犯人は天空の民で、しかも戦人形の操り方を知っている、ってことだよね? そうでなければ、井戸の底から人形を盗み出せなかったわけだもん」

「誰だよ、そいつは? どうして俺たちの邪魔をしやがるんだ!?」

 とゼンがわめきます。

 

 フルートは腕を組み、片手を口元に当てながら考え続けました。

「天空の国には二種類の住人がいるけれど、ここが空を飛ぶ国だと知らずにいる人たちは、対象から外れる。だって、彼らはデビルドラゴンも光と闇の戦いのことも、まったく知らずに暮らしているんだからな。もちろん、金の石の勇者のことだって、まったく知らない。だから、ぼくたちを狙う犯人は貴族の中にいる、ってことになる」

 とたんにレオンが反論してきました。

「そんな馬鹿な! 貴族は光と正義のために、天空王様と一緒に戦っているんだぞ! もちろん、闇の竜の恐ろしさだって、奴の復活を阻止しなくちゃいけないことだって、充分によく知っている! 金の石の勇者の一行が闇の竜と戦っていることだって、ちゃんと知っているんだぞ! それを支援することはあったって、妨害するなんてことは――」

「でも、おまえは俺たちの妨害をしてきたじゃねえか」

 とゼンが言ったので、レオンはたちまち真っ赤になりました。

「ぼ――ぼくはまだ貴族じゃないよ――。そ、それに、今はもう、君たちの邪魔をする気なんて、まったくないんだ!」

「それはちゃんとわかっているよ、レオン」

 とフルートは穏やかに言い、また考える顔に戻って続けました。

「確かに天空の国の貴族は、志の高い立派な人たちが揃っているんだと思う。実際にぼくたちを助けてもらったことも、何度もあるからね……。ただ、いくら正義の貴族だって、絶対に間違いや悪いことをしでかさない、ということはないはずだ。人知れず良くないことを考えている人だって、中にはいるだろう。ぼくたちの存在を目障りに感じている人だって、きっといるんだよ」

 すると、ゼンが急に声を上げました。

「おい! まさか、またデビルドラゴンがこの天空の国に来てるんじゃねえだろうな!? あいつに魔王にされたヤツが、その辺に潜んでるんじゃねえのか!?」

 一同は、どきりとしました。それまで考えたことはありませんでしたが、言われてみれば、可能性はありました。

「ワン、貴族の誰かが魔王にされているってことですか?」

「そいつが、あたいたちの命を狙っているってわけ!?」

 とポチやメールが口々に言います。

 レオンだけはむきになって反論を続けました。

「ありえない! ここは天空の国だぞ! よりによって、闇の竜や魔王がこの国にいるだなんて、そんなことは――!」

「なに言ってやがる! 四年前にここはゴブリン魔王に襲われたじゃねえか! それに、二千年前の光と闇の戦いだって、デビルドラゴンがこの国にいたから始まっちまったんだぞ!」

 レオンは言い返せなくなりました。ゼンに指摘されたとおりだったからです。

 

 けれども、フルートは首を振りました。

「それは違うだろう。少なくとも、魔王が現れたわけじゃない。それなら金の石がぼくたちに知らせるはずだ」

 と鎧の胸当ての下からペンダントを引き出します。守りの魔石はその中央で静かに光っているだけでした。ガラスの鈴のような音で鳴ったり、明滅して闇の敵の接近を知らせたりはしていません。

 うぅん、と一同は頭を抱えてしまいました。状況をきちんと整理しようと思うのに、やっぱり混乱して、わけがわからなくなってしまいました。誰が彼らを狙っているのか。なんのために天空の国から追い出そうとしているのか――。いくら考えても謎は解けません。

「ちょっと休憩しよう」

 まだ何かを考える顔で、フルートはそう言いました。

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