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第19巻「天空の国の戦い」

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46.決着

 レオンの魔法で停止した戦人形は、それきりもう動かなくなりました。一つだけになった後頭部の目も、閉じてしまっています。

 腹からちぎれて上半身だけになっている人形を見て、少年たちは話し合いました。

「ワン、こんなになっても動いて戦えるなんて、どんな構造になっているんでしょうね?」

「胸の中にいろいろな仕組みが入っているんだろうな。丈夫な外殻に守られた場所だからね。そこをやられない限り、動き続けるんだろう」

 と話し合うポチとフルートの横で、ゼンは腕組みしていました。

「火と水を一緒に使って攻撃するなんて欲張りすぎだぞ。しかも剣まで使いやがるなんてよ」

「戦人形は天空の国のあらゆる場所で戦ったと言われているんだ。どこでも戦えるようにできていたんだよ」

 とレオンが言い、足元にビーラーがすり寄ってきたので、かがみ込みました。レオンにしょっちゅう文句を言っていたビーラーなのに、今はもう何も言わずにレオンに体をすりつけてきます。

 

 すると、井戸の中からまた音が聞こえてきました。がりっと石に何かがこすれるような音です。

 一同は飛び上がり、いっせいに井戸を振り向きました。

「またか!?」

 とフルートとゼンは武器に手をかけ、レオンは両手をかかげ、ポチは風の犬に変身します。

 ビーラーも井戸に向かって身構えました。彼は普通の犬の姿なので、変身したポチよりはるかに小さく見えますが、それでも頭を低く下げて脚を踏んばり、主人を守るようにウゥゥーッとうなり声を上げます。

「ビーラー」

 とレオンがまた驚きます。

 フルートとゼンとポチは緊張しながら話し続けました。

「戦人形は他にも四体動いていた。後を追ってきたんだ」

「くそっ。途中で通路が崩れたのに、防げなかったのかよ」

「ワン、そこの石をどかしたのはゼンですよ」

「な――しょ、しょうがねえだろうが!」

 話し合っている間にも、石をこするような音は近づいてきます。フルートが剣を引き抜き、ゼンは弓に矢をつがえます――。

 ところが、井戸の中から飛び出してきたのは、戦人形ではありませんでした。全身赤い毛でおおわれ、恐ろしげな顔の回りに赤いたてがみを生やした、巨大な獣です。

「シーサー!!」

 とフルートたちは叫びました。戦人形の洞窟にいた獣が追いかけてきたのです。

「一難去ってまた一難かよ!」

 とゼンが矢を放つと、シーサーは前脚でそれをたたき落としました。ガオォ、とライオンそっくりの声でほえます。

 フルートは炎の弾を撃ち出そうとして、はっとまた井戸を振り向きました。そこから二匹目のシーサーが現れたからです。井戸よりはるかに大きな体に見えるのに、くぐり抜けて飛び出してきます。

「ローデリナミカ――」

 呪文を唱え始めたレオンに、ビーラーがいきなり飛びつきました。レオンを引き倒し、守るように上にのしかかります。その毛並みをかすめて、シーサーが飛び過ぎていきました。レオンに襲いかかってきたのです。空振りして地面に下り、振り向いて大きくほえます。

 そんな彼らを守るように、風の犬のポチが飛び出しました。シーサーに向かって、もっと大きな声でほえます。フルートは剣を構えて飛び出そうとしました。ゼンは次の矢をつがえます。

 

 すると。

 急に二匹のシーサーがうなるのをやめました。風の犬のポチをじっと見てから、一匹がウオンオン、と犬のようにほえます。

「えっ?」

 とポチは風の目を丸くしました。すぐに犬の声で、ワンワン、と答えます。それにシーサーがまたほえます。

「な、何を話してやがるんだよ?」

 とゼンが言いましたが、仲間たちには答えられませんでした。ビーラーも、天空の国のもの言う犬なので、ポチとシーサーの話は理解できません。

 ポチはとまどった表情になると、フルートたちを振り向いて言いました。

「シーサーはぼくたちが首輪を取り戻しに行っただけなのをわかってくれました。それはおまえのものだから、取り返す権利があった、って……」

 シーサーはたちまちおとなしくなっていきました。逆立てていた毛やたてがみを収めて、彼らの前に並んで立ちます。頭の先から尾の先まで五メートル以上もある赤い獣です。

 すると、ウォン、とまたシーサーがほえました。その大きな目玉は、彼らの後ろに転がる戦人形を見ていました。

「ワン、その人形を持って帰る、って……。それは消魔水の中に保管されるべきものだから、って」

「君たちは本当に戦人形の番人だったのか! 人形が暴れ出さないように見張っていたんだな!?」

 とフルートが言い、ポチが通訳すると、シーサーがそれに答えました。

「ワン、その通りだ、って言っています。再び世に出たら危険な人形だから、もう二千年間も守っているんだそうです」

 それを聞いて、レオンが言いました。

「シーサーは昔、宝を守る聖なる獣だった。それはずっと変わらなかったのか――」

 なるほど、と一同は納得します。

 

 シーサーは半分にちぎれて動かなくなった人形を口にくわえました。もう一匹がまたフルートたちに話しかけ、ポチが通訳します。

「ワン、よくこの人形を倒したな、ってシーサーが感心してますよ。この人形は生身の人間にはとても戦えないのに、って」

「そういえば、ぼくたちは君たちを傷つけたし、水路も破壊してしまったよ。大丈夫かい?」

 とフルートが心配すると、シーサーが答えました。

「ワン、心配いらないって。傷はすぐ治るし、水路にも元に戻る魔法がかけられているから、って」

 とポチが言うのを聞いて、フルートたちは、ほっとしました。シーサーたちが戦人形をくわえて井戸へ戻っていきます。

 ところが、井戸に飛び込む直前、シーサーがふり返ってまた何かを言いました。

 え、とポチが驚きます。

「ワン、そ、それはどういうことですか――!?」

 けれども、その時にはもう、二匹のシーサーは井戸に姿を消していました。半分になった戦人形も一緒です。

「シーサーはなんだって?」

 とフルートはポチに尋ねました。

「ワン、少し前にも戦人形が一つ、誰かに盗まれているんだそうです。気をつけろ、って言ってきたんですよ」

 一同は顔を見合わせてしまいました。

「あの人形がもう一体、そのあたりにいるって言うのか? とんでもなく危険じゃないか!」

 とレオンが言うと、フルートが真剣な表情で答えました。

「いや……ぼくたちはもう、その人形にも遭っている」

「でもよ、俺たちは花畑と図書館で襲われたんだから、一体じゃなくて二体だろうが」

 とゼンが言ったので、フルートは首を振りました。

「図書館の特別室にいたのは、昔からあった戦人形だ。花畑でぼくたちを襲ったほうが、きっとあの洞窟から盗まれた人形なんだ」

「じゃあ、君たちはずっと、あの恐ろしい人形に狙われているのか?」

 とビーラーが驚きます。

 

 その時、空の向こうから羽ばたきが聞こえてきました。夜明けが近づいてきた空を、大きな鳥が飛んできます。

「ワン、メールの花鳥だ!」

 とポチは言って空に舞い上がりました。ゼンも目を凝らして歓声を上げます。

「ポポロもルルも一緒にいるぞ! 無事だ!」

 フルートは、ほっとしました。シーサーから人形が盗まれた話を聞いて、少女たちのことが心配になっていたのです。

 すると、ルルが風の犬に変身して花鳥の背中から飛び出しました。近づいてくるポチへうなりを上げて飛びつきます。ポチは危なく吹き飛ばされそうになって、風の体をルルに絡めました。驚いて彼女の顔をのぞき込みます。

「ワン、どうしたんです、ルル!?」

 ルルは目から青い霧を散らしていました。霧は風の犬の涙です。

「ポチ、家が! 家と、お母さんが――!!」

 ルルはそう叫ぶと、わっと声を上げて泣き出してしまいました。

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