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第19巻「天空の国の戦い」

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36.シーサー

 首輪はとんでもない場所にあった、とポチが言うので、三人の少年たちはポチについて、水路をまた奥へと進んでいきました。小さなポチが飛び跳ねるように水の中を進むので、フルートたちも水路の壁につかまりながら、歩いて進んでいきます。

 すると、水路の曲がり角を越えたとたん、視界が開けました。水路の先に広い地下洞窟があったのです。洞窟は綺麗な半球形をしていて、一番高いところは十メートル以上もの高さがありました。壁や天井は光る水草でおおわれていますが、床には平らな石のブロックが隙間なく並べられています。水路と同じように、人工的に作られた洞窟なのです。

「ワン、中央の一段低くなっているところを見てください……」

 とポチがささやくように言ったので、フルートたちは伸び上がって洞窟の中央を見ました。床の中央に丸いくぼみがあって、階段のように段々になりながら、次第に低くなっています。その底に大きな獣がうずくまっていました。それも、一匹ではなく、二匹います――。

 

「なんだ、あいつらは?」

 とゼンが言いました。獣はゾウのように大きくて、地上では見たことのない恰好をしていたのです。しいて言うならばライオンに似ていますが、顔つきはもっとグロテスクで、全身真っ赤な毛でおおわれています。

 二匹はくぼみの底で眠っていました。獣のいびきが、ごぅごぅと水の流れる音のように伝わってきます。

「怪物かな」

 とフルートは身構えながら観察を続けました。二匹の獣の間には、また一段低くなっている場所があって、そこに何かがあるようなのですが、獣の体に邪魔されて確かめることができません。

「シーサーだ」

 と言ったのはレオンでした。信じられないような顔をしています。

「シーサー? やっぱり怪物か?」

 とゼンが尋ねると、レオンは首を振りました。

「聖なる獣だよ。でも、第二次戦争の間に全滅したって言われていたんだ。こんなところで生き延びていたのか」

「何かを守っている感じだな……。あそこはシーサーの巣なのかな?」

 とフルートが伸び上がったとたん、手前の獣が身動きをしました。

「伏せろ」

 とゼンはささやいて、フルートとレオンの頭を床に押しつけました。自分も石の床に腹ばいになって頭を下げます。

 シーサーは頭を持ち上げました。ぎょろりとした目を開けて洞窟を見回しますが、周囲より低い場所にいたので、フルートたちを見つけることはできませんでした。警戒するようにあたりを見回し続け、やがて、怪しいものはいないと判断したのか、前脚の上に頭を載せてまた目を閉じます。

 フルートたちは、そっと頭を上げました。やがて、シーサーたちのいびきがまた聞こえてきたので、ようやく安心して立ち上がります。

 

 すると、ポチが言いました。

「ワン、ぼくの首輪はあのシーサーが持っているんですよ。あの穴の中に見えたんです。ただ――」

「穴の中に?」

 とフルートはさらに伸び上がりましたが、やっぱりシーサーの体にさえぎられてよく見えないので、用心しながら洞窟に踏み込みました。壁添いに進んで、二匹のシーサーの間から一段低くなった場所が見える地点まで移動します。

 浅い穴のようになった場所に、白いものが無数に積み上げられ、その頂上に小さな銀色が光っていました。ポチの風の首輪です。ちょうど、シーサーがくわえてきて一番上に載せた、というような恰好でした。

 けれども、その下へ目を向けたとたん、フルートは一気に血の気が引きました。後を追いかけてきたゼンも、同じものを見て真っ青になります。

「なんだ、ありゃ――」

 叫びかけたゼンの口を、フルートはとっさに押さえました。シーサーのいびきがまた止まったので、ゼンと一緒にその場に伏せます。

 シーサーは耳をばたばたと動かしましたが、目は開けませんでした。フルートたちに気づかずに眠り続けます。またいびきが聞こえてきたので、フルートとゼンは立ち上がりました。青ざめた顔のまま、シーサーが守る穴に積み上げられたものを眺めます。

 それは人のような形をしていました。のっぺりした白い体に長い手足があり、頭には髪の毛が一本もない代わりに、目が六つもあります。

「戦人形だ……」

 とフルートはあえぐようにつぶやきました。白い人形は、シーサーの穴にうずたかく積み重ねられていました。その数は、ざっと見ただけでも、数百体はあります。ひょっとしたら千体を越えているかもしれません――。

 

 フルートとゼンは音を立てないように用心しながら、ポチとレオンの元へ戻り、さらに後ずさって洞窟の外に出ました。シーサーのいびきが聞こえない場所まで下がってから話し始めます。

「な、なんであんなに戦人形があるんだよ!?」

「あの戦人形は全部動くのか!?」

 ゼンとフルートが言うのを聞いて、レオンは不思議そうな顔になりました。

「戦人形って、第二次戦争で使われた戦闘用人形のことか? 教科書には載っていたけれど、今はもうどこにも残っていないぞ」

「ワン、それがあったんですよ。動いたりはしないようだけど、数え切れないくらい、たくさんあります。ぼくの首輪は戦人形の上に置かれているから、どうやって取り戻したらいいのかわからなくて、困っていたんです」

 とポチが話します。

「確かにすごい数だ。ぼくたちは図書館の特別室でも戦人形に襲われたんだよ。一体でもとんでもなく強かったのに、あんなにたくさんいたら、ぼくたちにはとても戦いきれないぞ――」

 とフルートは言って黙りました。どうやって首輪を取り戻せばいいだろう、と考え始めたのです。

「おい、レオン。あのシーサーってのはどういう生き物なんだ? 聖なる獣っていうが、どんなヤツなんだ?」

 とゼンが尋ねました。猟師らしく、まず相手にする獣の特徴を知ろうとしたのです。

 レオンはとまどった顔になりました。

「それほど詳しくはわからないよ。なにしろ二千年も前に絶滅した、幻の生き物だからな……。ただ、シーサーは大切な物を守る番人の獣と言われていたらしい。魔法の宝や宝庫を守っていたから、第二次戦争の時には真っ先に闇の軍勢に狙われて、全滅させられてしまったんだ」

「ワン、それじゃ、あそこのシーサーはその生き残りなんですね。あそこには戦人形だけでなく、他にも魔法の道具とか武器みたいなものも集まってました。あのシーサーたちは、きっと、それを守る番人なんだ」

 とポチが言いました。

「だからポチの首輪もあそこに一緒にあるわけか――。だが、番人となるとやっかいだな。首輪を取り戻すのに手を出せば、絶対に襲ってきやがるぞ」

 とゼンは難しい顔で腕組みしました。レオンとポチも困惑してしまいました。どうやったら首輪を取り戻せるのか、見当がつきません。

 

 すると、黙って考え込んでいたフルートが、口を開きました。

「屯所の衛兵に知らせて取り戻す、っていう方法もあるが、そうするとシーサーを怒らせて、逆に危険になるかもしれない。戦人形があんなにたくさんあることも、うかつに公(おおやけ)にしちゃいけないような気がするし……。ぼくたちはポチの首輪だけを取り戻せばいいんだ。こっそり取り返すことにしよう」

「そんなことできるのか? あそこには二匹もシーサーがいるんだぞ」

 とゼンが聞き返すと、フルートは、きっぱりと答えました。

「できるさ。こっちには三人と一匹もいるんだから」

「三人と、って……」

 とレオンは思わずまた青ざめました。自分も数の中に入れられていることに気づいたのです。

「そう、三人と一匹さ。いいか、こうするんだ――」

 とフルートはゼンとレオンとポチに向かって作戦を話し始めました。

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