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第19巻「天空の国の戦い」

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第8章 苦戦

23.攻撃

 図書館の特別室に展示されていた戦人形が、キシキシと音を立て始めたので、フルートとゼンは青ざめました。身構えながら見守っていると、人形の頭の上の一つ目がまぶたを開け、赤い瞳をぎょろりと動かしてフルートたちを見ます。

「危ない!!」

 少年たちは声を上げて少女たちへ飛びつきました。フルートはポポロを、ゼンはメールを抱いて床に転がります。

「ルル、よけろ!」

 とフルートがまた叫んだ瞬間、戦人形が宙に飛び上がりました。長い腕を振り下ろしながら降ってきて、ルルがいた場所を殴りつけます。とたんに赤い絨毯を敷き詰めた床が大きくへこみ、びりびりと部屋中が震えました。きわどいところで攻撃をかわしたルルが、嘘……と言います。この部屋の床は石でできていたのです。

「また来るぞ! 気をつけろ!」

 とゼンがどなって、メールを抱いたまま横へ転がりました。その上へ戦人形が飛んできて、二人の後を追うように次々と拳を繰り出します。床には拳のくぼみが並びました。ゼンとメールが壁際に追い詰められていきます。

「ゼン!」

 フルートはポポロを残して跳ね起きました。背中の剣を引き抜き、着地した戦人形へ切りかかります。人形は六つある目をすべて開けていました。後頭部の目でフルートを見ながら腕を振り上げます。すると、人形の腕がありえない角度に曲がりました。切りつけてきたフルートの剣を受け止めて、弾き返してしまいます。

 フルートが力負けしてよろめくと、そこへ人形が飛びかかってきました。後ろ向きの恰好のままで拳を振り下ろしてきます。フルートは横へ飛びのいてかわしました。また床に拳がめり込んで穴ができます。

 

 けれども、その隙にゼンが跳ね起きていました。逃げろ! とメールにどなって、背中の弓を構えます。人形は腕が長かったので、接近戦はゼンに不利だったのです。人形の顔の眉間(みけん)を狙って矢を放ちます。

 すると、人形は腕を動かしました。飛んできた矢をあっという間に捕まえて、へし折ってしまいます。

「なんだよこいつ!?」

 とゼンはわめきました。四方八方が見え、前後どちらにも同じように腕が動かせるうえに、反射能力も非常に高いのですから、とんでもない敵です。

 ルルが叫んでいました。

「そいつは光と闇の戦いで使われた戦闘人形よ! 強いに決まってるわ! 逃げるのよ、早く!」

 床から跳ね起きたメールが、部屋を横切って扉に飛びつきました。金のドアノブをつかんで開けようとします。

 ところが、扉はびくともしませんでした。メールは渾身(こんしん)の力で押したり引いたりしましたが、鍵でもかかっているように、これっぽっちも動きません。

「戸が開かないよ!」

 とメールは叫びました。なに!? とゼンが駆けつけようとすると、それより早く戦人形が飛びかかってきました。白い腕に捕まりそうになって、ゼンがあわてて飛びのきます。

「ゼン!」

 フルートはまた人形に切りつけました。全身の力を込めて剣を振り下ろしますが、また白い腕に受け止められてしまいました。フルートは炎の剣を使っているのに、人形には傷ひとつつきません。人形がもう一方の腕で殴りかかってきたので、フルートもいそいで飛びのきます。

「ポポロ、何やってんだ!? 早くこいつを魔法で止めろよ!」

 とゼンがどなると、ポポロが涙声で答えました。

「さっきからやってるのよ! でも、魔法が使えないの……!」

「使えない!? ルルは!? 風の犬になれないのか!?」

 とフルートは叫び、また殴りかかってきた人形の腕を剣で受け止めました。そのまま流して剣を返し、駆け抜けざま敵の横腹に切りつけますが、やはり人形に傷はつきません。

 ルルが答えました。

「私もだめよ! 図書館の中では魔法が使えないようになっているの! 風の首輪も発動しないわ!」

 蔵書を守るために、魔法を無効化する魔法が図書館全体にかけられているのです。

 

 部屋に閉じこめられた一行は、青ざめながら戦人形と向き合っていました。人形の正面にはフルートとゼンが、背後の壁際にはメールとポポロとルルがいます。人形はどちらへ攻撃を仕掛けるか考えるように、いくつもある目で前後を眺めています。

 すると、フルートが自分から敵へ走り出しました。敵を惹きつけるような動きです。振り上げた剣を人形へ振り下ろします。

 人形は即座に反応して腕を上げました。フルートの剣を受け止めようとしますが、フルートは瞬時に剣を引いて身を沈めました。そこはもう人形のすぐ目の前でした。低い位置から、人形の顔を狙って剣を突き出します。

 すると、剣の切っ先が人形の右目に刺さりました。いくら切りつけても効果がなかった人形に、ついに攻撃が届いたのです。次の瞬間、人形の右目から火が噴き出し、人形は大きく飛びのきました。フルートも後ろへ下がります。

「やった!」

 と少女たちは歓声を上げましたが、すぐに、ああっと失望の声に変わりました。人形がまぶたを閉じたとたん、目から噴き出す火が消えてしまったのです。全身が火に包まれることもありません。ただ、燃えた目は光を失って黒くなっていました。もう見ることはできないようです。

「よし、目は攻撃が効くってことだな!」

 とゼンが言ってまた弓に矢をつがえました。残る左目に狙いを定めます。

 そこへフルートがまた出ていきました。部屋の中央の椅子から机へと飛び上がり、机から飛び下りながら剣を振り下ろします。片目をやられた人形は、とっさに両手でそれを受け止めようとしました。ところが、フルートが一瞬剣を止めたので、人形の手が空振りして交差します。そこへフルートは切りつけました。重なり合った人形の手首へ力任せに剣を下ろします。剣が人形の手首で止まります。

 フルートが叫びました。

「行け、ゼン!」

「おう!」

 ゼンは弓を射ました。百発百中の矢が人形へ飛んでいきます。人形はそれをたたき落とそうとしましたが、両手でフルートの剣を受け止めていたので、反応が遅れました。矢が狙いの通りに飛んで、人形の左目に深々と突き刺さります。

 人形はまた大きく飛びのくと、左目の矢をつかんで引き抜きました。血は出ませんが、赤い瞳が光を失って黒くなっています。

「よっしゃ、もう一丁!」

 とゼンが今度は頭の横にある目を狙って矢を放とうとすると、人形は急にくるりと背中を向けました。頭の後ろにも赤い一つ目があり、その下に丸い口が開きます。

 ルルが叫びました。

「気をつけて! 火を吹いてくるわよ!」

 花野で人形と戦ったときには、ルルが風の犬になって火を防いだのですが、今はそれができません。ゼンはあわてて飛びのきました。フルートも金の鎧を着ていないので、動くことができません。人形の口の奥に赤い炎がのぞきます――。

 

 ところが、人形はすぐに口を閉じました。のっぺりした頭の中に口が溶けて、見えなくなってしまいます。

 フルートたちはとまどいました。人形は火を吐かなかったのです。フルートたちには幸運でしたが、理由がわかりません。

 人形は潰された目を壁に向けて立っていました。フルートたちに背中を向けた恰好ですが、そちらにも目があり、腕はどちらにでも動くので、あまり不利にはなっていません。ゼンが頭の後ろの目へ矢を放つと、人形は今度は横に飛びのきました。なんと少女たちのすぐそばです。人形から一番近い場所にはポポロがいます。

「ポポロ!」

 とフルートは叫びました。助けに駆け出しますが間に合いません。人形がポポロへ腕を振り上げます。

「ポポロ!?」

「逃げな!!」

 とルルとメールも叫びましたが、ポポロは逃げられませんでした。立ちすくんでしまったのです。人形が拳を振り下ろしてきたので、反射的に顔をそらして両手を上げます。

 すると、人形がまた急に攻撃をやめました。ポポロは持っていた概論の本をとっさにかざしたのですが、人形の拳はその寸前で止まっていました。ポポロは無事です。

 そこへフルートが駆けつけてきました。

「この!」

 と人形へ切りつけます。メールはポポロに飛びついて抱き寄せました。部屋の反対側へどなります。

「ゼン! このドアを開けとくれよ! 早く!」

 部屋の中ではフルートと人形がまた戦い始めていました――。

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