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第19巻「天空の国の戦い」

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22.闇大陸

 闇大陸の戦い、とポポロが概論の中の見出しを読み上げたので、仲間たちは驚きました。

「闇大陸の戦いだと!? 闇の国の戦いの間違いじゃねえのか!?」

「ホントに大陸って書いてあるのかい!? ってことは、昔、そう呼ばれてる大陸があったってわけ!?」

「それってどこのことよ!? 今、南大陸は暗黒大陸って呼ばれているけど、昔は闇大陸って言われていたの!?」

 闇の国、暗黒大陸、闇大陸――名称が似ていて、まぎらわしいこと、この上ありません。

「それはどこの場所にあるって?」

 とフルートに聞かれて、ポポロは一生懸命、本のページに目を通しました。

「ええと……あ、あったわ! 天空歴千百二十四年に西の海の闇大陸で戦闘が起きた。ここが最後の決戦地となった、って……」

「えぇ、西の海!? それって、あたいたちの西の大海のこと!? まさか! そんな名前の大陸は聞いたこともないよ!?」

 とまたメールが声を上げます。

 ポポロは懸命に文字を追い続けました。

「闇大陸の戦いは、別名パルバンの戦いとも言う。大陸に広がる荒れ地がパルバンと呼ばれていたからである。この地で光の軍勢は闇の竜を捕らえて世界の果てに幽閉することに成功した。その後、闇の軍勢は散り散りになり、ある者たちは地下に潜って闇の国を創り、ある者たちは地上に留まって闇の怪物となった――」

「それだけ!!?」

 とフルートはメールより大きな声を上げてしまいました。彼らが知りたかったのは、闇の竜を捕らえた方法なのに、概論では、闇の竜を捕らえて世界の果てに幽閉することに成功した、の一行だけで終わっています。何一つ新しい手がかりはありません。

「それ以外には、ポポロ!? 闇大陸の戦いについて、他にも書いてある箇所はないのか!?」

 フルートはどなるような声になっていました。その剣幕にポポロは涙ぐみ、必死でページをめくりました。どこかに補足や解説の項目はないかと探します。

 フルートは腕を組み、片手を口元に当てて考え続けました。思い出していたのは、ユウライ戦記の序文です。「金の石の勇者が世界から失われた後、我らは光の名の下に再び集結し、闇の竜と対決した。かの竜が己の宝に力を分け与えたので、我らはそれを奪い、竜の王が暗き大地の奥へと封印した。宝を取り戻さんとしたかの竜は捕らえられ、世界の最果てに幽閉された――」序文はそう語っていました。

 竜の宝が封印されたのは暗き大地の奥。光と闇の戦いの最終決戦地は闇大陸。名称から見て、同じ場所のことに違いありません。問題は、それがどこなのか、そこでどうやって竜を封印したのか、ということです。

 

 フルートの横では、メールとルルとゼンが話し続けていました。

「変だよ、ホントに。西の大海に闇大陸なんて場所はないんだよ。っていうか、そもそも西の大海には大陸なんかないんだからさ」

「そうよね。私は風の犬だから、仕事柄世界中の地図をよく見ているけど、そんな名前の場所は全然知らないわ」

「じゃあ、今はもうねえ大陸ってことか? 大陸が消えるなんてこと、あるのかよ?」

 とたんに、メールは首をかしげました。

「消えた大陸……? あれ、なんか聞いたことがある気がするなぁ……?」

「お、なんだ、何か思い当たるのか!? 本当に消えた大陸があるのか!? いったいどこだよ!?」

 ゼンがせっついたので、メールはかんしゃくを起こしました。

「ああもう、うるさい! 脇でゴチャゴチャ言ったら思い出せないじゃないのさ!」

「ゼン、あなたはちょっと黙ってなさいよ!」

 とルルにも叱られて、ゼンはふくれっ面で黙ります。

 

 と、ゼンが急に首の後ろに片手を当てました。首筋に、ちくり、と虫が刺したような痛みが走ったのです。

 ゼンはたちまち真顔になると、あたりを見回しました。いつもの虫の知らせですが、どこから危険が迫ってくるのかわかりません。本で埋め尽くされた赤い絨毯の部屋には、彼ら以外、人の姿は見当たりません。

「おい」

 とゼンは友人を肘でつつきました。フルートは我に返り、ゼンが首筋に手を当てているのを見て、すぐに顔つきを変えました。やはり身構えて周囲を見回します。

 すると、部屋の片隅から、キシッと何かがきしむような音がしました。仲間たちが立てている音ではありません。いやに堅い響きがフルートたちの耳を打ちます。

 そちらを振り向いた少年たちは、思わず目を見張りました。部屋の片隅にあったのは、手足が細く全身が白い戦人形でした。前屈みの姿勢で置かれていますが、その首の付け根のあたりから、キシキシキシ……と堅い音が鳴り続けています。

 少年たちは、ぞくりとしました。まさか、と心の中で考えます。

 少女たちのほうは何も気づいていませんでした。ポポロは本を調べ、メールは思い出そうとして記憶をたぐり、ルルはそんな二人を見守っています。

 すると、髪の毛のない白い頭の頂上で、目がまぶたを開けていきました。赤い瞳が、ぎょろりとこちらを見ます。

「危ない!!」

 フルートとゼンは声を上げると、それぞれポポロとメールに飛びつきました――。

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