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第19巻「天空の国の戦い」

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11.人形

 ペガサスが話を終えて飛び去っていった後も、フルートたちは花野にいました。丸くなって座って、これからどうしようか、と話し合います。

 なんとなく、もう町を見物する気持ちは失せていました。かといってポポロの家に戻っても、お父さんが戻ってくる夕方までは、何もすることがありません。

 すると、ルルが言いました。

「ねえ、それなら天空城に行きましょうよ。私とポチで飛んでいけば、すぐよ」

「でも、天空王は今、城にいないんだろ?」

 とメールが言うと、雌犬は首を振りました。

「それはそうだけど、ポチをもの言う犬に会わせてあげたいのよ。この国にはもの言う犬がたくさんいるのに、ポチはまだ、私しか知らないんだもの」

「そうね。お城には貴族が大勢集まるし、貴族はみんな風の犬に乗ってくるから、もの言う犬はたくさんいるわね」

 とポポロも言うと、ポチは尻尾を振って喜びました。

「ワン、それならぜひ行きたいです! ぼくのお父さんはもう死んでしまったけど、天空の国の貴族を運ぶ風の犬だったっていうから、きっとご主人を乗せて、天空城にも何度も行っていたと思うんです。お父さんと同じ仕事をしている犬を見てみたいし……もしかしたら、お父さんのことを覚えている犬もいるかもしれないですよね」

 そう話すポチの首には、銀糸を編んで緑の石をはめ込んだ風の首輪が光っていました。亡くなったポチのお父さんの形見です。

 特に行くあてもなかった一行は、すぐに意見がまとまりました。

「よし、それじゃ天空城に行ってみよう!」

 とフルートが言い、おう! と全員が跳ね起きます。

 

 ところが、急にゼンが首の後ろに片手を当てました。ちくりと虫の知らせの痛みが走ったのです。

「おい、気をつけろ! 何かやばい感じが――」

 ゼンが言い終わらないうちに、すぐ近くの花野の中からも何かが立ち上がりました。痩せた人間そっくりの形をしていますが、人ではありません。身長は二メートルあまりもあり、手足は異常なくらい細く、白くつるりとした体をしています。のっぺりとした顔には赤い二つの目があるだけで、鼻も口も耳も髪の毛もない異形(いぎょう)です。

「なんだこいつは!?」

 と一同は驚きました。フルートとゼンが自分の武器へ手を伸ばします。

 とたんに白い怪物が動きました。一瞬で少年たちの前へ飛んでくると、細い両腕を振り上げて殴りかかってきます。

 フルートはゼンのいるほうへ飛びのきました。驚いてとっさに反応できずにいた友人を、自分の背中で突き飛ばします。ゼンは後ろに倒れましたが、怪物の腕がフルートに届きました。鋼鉄の塊のような拳に殴られて、フルートの体が宙を飛び、何メートルも離れた花野の中に倒れます。

「フルート!!!」

 と仲間たちは叫びました。地面にたたきつけられた瞬間、フルートが血反吐(ちへど)を吐いたのが見えたのです。

 けれども、フルートはすぐに立ち上がりました。

「大丈夫だ!」

 と言って口から流れた血をぬぐいます。首に下げた金の石が一瞬で怪我を癒したのです。

 ゼンは転がって怪物から離れ、跳ね起きながらわめきました。

「ちっくしょう、なんなんだよ!? どうして天空の国に怪物がいやがるんだ!?」

「ポポロ、ルル、あれは何!?」

 とメールも尋ねます。

 ポポロは呆然としながら答えました。

「よ、よくわからないわ……。だけど、たぶんあれは……」

「大昔の戦人形(いくさにんぎょう)よ! 間違いないわ! なんでこんなところにあるのよ!?」

 とルルが叫んで風の犬に変身しました。うなりを上げて空に舞い上がります。ポチも急いで変身すると、後を追いかけて聞きました。

「ワン、ルル、戦人形ってなんです!?」

「それこそ、二千年前の光と闇の戦いの時に、天空の民が魔法で作り出した人形よ。人の代わりに戦うの――。こんなもの、もう国中どこにも残っていないと思ったのに!」

 ルルが風のような声でうなります。

 

 戦人形は人によく似た形をしていました。ただ、体も手足も首も普通の人間よりずっと細く、背も高いので、とてもひょろ長い印象を受けます。服や鎧は身につけていませんが、白いつるりとした体は、それ自体が鎧に包まれているように見えます。

 と、戦人形が急に動きました。剣を抜こうとしたフルートへ一瞬で駆け寄り、腕を振り上げます。

 フルートはとっさに剣を引き抜いて構えました。頭上で横一文字になった剣に、人形の拳がぶつかって、フルートの手がじぃんとしびれます。先ほどの一撃もそうでしたが、人形はかなりの剛力(ごうりき)でした。しかも、炎の剣を素手で殴りつけても、傷もつかなければ火も吹かないのです。

 フルートは、人形の拳を受け流しながら、大きく飛びのきました。人形と間合いを取ります。

 その間にゼンが弓を外して構えていました。戦人形の背後から、狙いをつけて百発百中の矢を放ちます。

 すると、突然人形の後頭部に丸い口が開きました。ごうっと音を立てて炎が吹き出し、飛んできた矢を焼き払います。

 ゼンたちは驚きました。空を飛んでいたポチが声を上げます。

「ワン、頭の後ろにも目がある! 後ろも見えているんですよ!」

 人形の丸い後頭部には、赤い一つ目がありました。よく見れば、同じような目は頭の両側にも、頭の真上にもついています。

「やだ、六つも目があるじゃない! まわり中全部見えているのよ!」

 とルルも言います。

 ゼンは次の矢をつがえていました。人形の目を狙おうとしたのですが、それより早く、また人形が火を吹いてきました。先よりずっと長くて激しい炎です。ゼンに届きそうになったので、ポチが飛び下りて炎を体に巻き込み、そのまま向きをねじ曲げます。

 ルルも空から急降下しました。人形に襲いかかり、寸前で身をひるがえします。鋼鉄も切り裂く風の刃(やいば)で切りつけたのですが、人形の体には傷ひとつつきません。

「なんて頑丈なの!」

 とルルが腹をたてます。

 

 メールは、花たち! と叫び続けていました。周囲に花は数え切れないほど咲いていますが、戦人形が現れたとたん、メールがいくら呼びかけても花が動き出さなくなってしまったのです。おびえたように花びらや葉を震わせています。

 ポポロも戦人形におびえて立ちつくしていましたが、フルートが人形に切りつけ、また殴り飛ばされたのを見て、ようやく我に返りました。泣き出しそうな目をぎゅっと細め、震える手を人形に突きつけて呪文を唱えます。

「レマートヨウヨギンニノエーシニ……」

 とたんに戦人形が動きを止めました。ギギッと何かがきしむような音を立てたと思うと、いきなり形が失われて、その場に崩れます。

 フルートとゼン、ポチとルルは驚いて駆けつけました。戦人形は跡形もなく消えていました。犬たちが元の姿に戻って、くんくんと嗅ぎ回りますが、人形の匂いも残っていません。ただ花が踏みにじられた痕が広がっているだけです。

「ありがとう、ポポロ」

 とフルートが礼を言うと、ポポロは信じられない顔で首を振りました。

「あ、あたしじゃないわ……。あたしの呪文はまだ完成していなかったの。どこからか急に魔法が飛んできて、人形を消してしまったのよ……」

 どこからか? と全員が驚いて周囲を見回すと、空の彼方から車輪の音が聞こえてきました。たちまち近づいてきて空飛ぶ馬車に変わります。馬車を引いているのは金色のグリフィンです。

 すると、馬車が彼らの目の前に降りてきました。馬車の窓が開いて、乗っていた人物が顔をのぞかせます。

「なんだ。こんなところに誰がいるのかと思ったら、ポポロじゃないか」

 そう言ったのは、少しとり澄ました顔つきの、短い銀髪の少年でした――。

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