翌朝、フルートとゼンとポチが目を覚ますと、太陽はもう空の真上まで昇っていました。寝過ごした! と一同が跳ね起きると、そこへポポロとルルが入ってきました。
「おはよう、みんな」
「今朝はずいぶん早く夜が明けちゃったわね。よく眠れた?」
例によって、天空の国では太陽の動きがめちゃくちゃなのです。実際には朝六時ぐらいなのだと教えられて、フルートたちは拍子抜けしました。
「なんかやりにくいな。体ン中で何かが狂ってくみたいな感じがするぞ」
とゼンがぼやくと、ルルが言いました。
「時差ぼけね。天空の国と地上では時間の進み方がかなり違うから、私たちも地上に降りてしばらくは、そんなふうになることがあるわ。そのうち慣れるわよ」
「朝ごはんができたの。一緒に食べましょう」
とポポロに言われて、フルートは昨夜のやりとりを思い出しました。ポポロのお父さんに、竜の宝について、もう一度よく聞いてみなくてはならないのです。今度は納得するまで絶対に引かないぞ、と心に強く思いながら、仲間たちと朝食の席へ向かいます。
ところが、居間へ行ってみると、そこにはポポロのお母さんとメールがいるだけで、お父さんの姿は見当たりませんでした。
「カイは用事で今朝早く出かけたのよ。帰りは夜になると思うわ」
とお母さんに言われて、フルートたちは驚きました。なんだか肩すかしを食らったような気がします。
「ワン、おじさんはまた竜の宝のことを聞かれると思って、ぼくたちと顔を合わせないようにしたんでしょうか?」
とポチが小声で言いました。フルートやゼンは答えることができません。
ポポロのお母さんは、少年たちが困惑していることには気がつきませんでした。
「今朝の食事はポポロが作ったのよ。みんなに食べさせてあげたいから、って言ってね」
と、ポポロと一緒に全員へスクランブルエッグやベーコンの朝食を配ってくれます。焼き菓子のようなパンや、ハチミツとクリームをかけた果物も出てきて、一同はそちらへ夢中になってしまいました。
「おいしい!」
「ほんとだ、うまいぞ、ポポロ!」
「ポポロは料理も上手だよねぇ」
と仲間たちから誉められて、ポポロが嬉しそうに頬を染めます。
昨夜は青ざめて、疲れた、と言っていたお母さんですが、今朝はもうすっかり元気になって、にこにこと一同が食べる様子を見ていました。フルートは一瞬、お母さんに竜の宝のことを聞いてみようか、と考え、すぐに思いとどまりました。せっかく元気になったお母さんをまた心配させるのは気の毒だ、と思ったのです。相変わらず優しいフルートです。
食事がすむと、お母さんはポポロとルルに言いました。
「せっかくみんなが来てくれたんだから、天空の国を案内してあげなさい。天気予告は明後日まで晴れだから、雨に遭う心配はないわよ」
「ワン、天気予告ってなんですか? 天気占いのことですか?」
耳慣れないことばにポチが聞き返すと、ルルが答えました。
「天空の国のお天気は、天気担当局の魔法使いが決めているのよ。だから、担当局が出す天気予告は、絶対に外れないの。雨が降らないなら、風の犬になって遠出することができるわね。天空城まで飛んでいくこともできるわよ」
「あっ、じゃあ、天空王に会いに行こうよ! 天空の国まで来てるんだからさ、挨拶もなしじゃ失礼だろ?」
とメールが言い出すと、お母さんが、あら、と言いました。
「天空王様は今、お城にいらっしゃらないわよ。半月ほど前から、主立った(おもだった)貴族を率いてお出かけになっているの。――さあ、どこへ行かれたか、そこまではわからないけれど」
フルートたちは、またがっかりしました。ポポロのお父さんが不在ならば、天空王に竜の宝について聞いてみよう、と考え始めていたからです。またしても肩すかしを食らって、しょんぼりしてしまいます。
「天空王様がお戻りになれば、すぐにお会いできるわよ。それまで天空の国を見物して過ごしなさい。地上とは違うから、きっと面白いと思うわよ」
とお母さんが慰めてくれました。そうよ、行きましょう、とポポロとルルも言います。この二人はフルートたちを案内できるのが嬉しいので、張り切っています。
「あせってもしょうがねえ。ポポロたちの言うとおりにしようぜ。待てばカエルの日和(ひより)あり、だ」
とゼンが言ったので、ポチが首をひねりました。
「ワン、それ、待てば海路(かいろ)の日和あり、の間違いじゃないんですか?」
「う――そ、そんなのはわかってらぁ! わざと言ったのに決まってんだろうが!」
「えぇ、ホントにわざとかい? 怪しいなぁ」
「ワン、ゼンったら、今、大真面目でカエルって言ってたじゃないですか。ちゃんと匂いがしてましたよ」
メールやポチに言い間違いを追及されて、うるせぇ、馬鹿野郎! とゼンがまたどなります。
ポポロはフルートに話しかけていました。
「町の外には花野があるのよ。前に話したでしょう? 一年中ずっと咲いていて、とても綺麗なの。フルートにもぜひ見てほしいわ」
ありがとう、とフルートは言いました。嬉しそうにしているポポロにつられて笑顔になっています。
すると、ルルがポチを引き寄せて言いました。
「あなたには町に住んでいるもの言う犬に会わせてあげるわね。地上ではもの言う獣は珍しいけど、天空の国では当たり前の存在なのよ」
「ワン、本当に? ぼくのお父さんは天空の国のもの言う犬だったらしいんだ。お父さんの暮らしていたところが見られるのは、なんだか嬉しいな」
とポチは尻尾を振って喜び、ルルも、ふふふ、と笑います。
そんな娘たちの様子を見て、ポポロのお母さんは満足そうにうなずいていました。