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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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69.村人

 「天空の国に行くの!? 本当に!?」

 とポポロとルルが言いました。どちらも興奮した声です。当然でした。天空の国は彼女たちの故郷なのです。

 フルートはうなずき、まだ驚いている仲間たちへ言いました。

「確かにこの南大陸に竜の宝は見つからなかった。だけど、占いに集まってきた自然の力が、ぼくたちに、天空の国へ行け、って言ってくれた――あ、いや、言ってくれた気がしたんだ。きっとそこに何かがある」

「シャ、ウ、ダ。ラノ、ニ、ケ」

 と赤の魔法使いが言いました。

「フルートの言うとおりだ、ってさ。占いに出たとおり、天空の国に行け、って――。ねえ、天空の国ってなんなの、モージャ?」

 とアマニが通訳してから、不思議そうに聞き返します。魔法使いが妹に説明する間、フルートたちは集まって話し続けました。

「本当に天空の国に行くつもりか! で、そこで何をするんだよ!?」

「あそこは光の魔法の国だよ。いくらなんでも、闇の竜の宝がそんな場所にあるわけないんじゃないの?」

 とゼンとメールが言いました。ポチも頭をかしげます。

「ワン、確かに二千年前の光と闇の戦いは天空の国の中で始まったし、天空王も世界のことをよく知っているけれど、もし天空王が竜の宝の秘密を知っていたら、それを使ってとっくにデビルドラゴンを退治していると思いますよ」

「それでも、この大地はぼくたちに天空の国へ行け、と言った。それなら、ぼくたちの次の行き先はあそこなんだ」

 とフルートは言い張って頭上を指さしました。ムパスコの細い谷間から、青い空がのぞいています。

 

 すると、ポポロが身を乗り出してきました。

「本当に、フルート……? 本当に天空の国に行ってくれるの……!?」

 その頬は興奮で真っ赤に染まっていました。宝石のような瞳は涙でうるんでいます。ルルもその足元で尻尾を大きく振っていました。

「天空の国を離れてもう一年以上よ。途中でメールの腕輪を創るのにポポロと戻ったけれど、ずっと天空城にこもっていたから、私たち、お父さんやお母さんには会わなかったの。天空の国に行くなら、お父さんたちにも会えるわよね!?」

 ポポロとルルがあまり嬉しそうなので、仲間たちも決心しました。どのみち、南大陸に竜の宝がないとしたら、次に行く場所の当てなどなかったのです。

「よぉし、天空の国に行くか! 久しぶりだな!」

「あたいは行くのは初めてだよ。なんかわくわくするなぁ」

 とゼンとメールが話し合い、ポチはルルの顔をぺろりとなめました。

「ワン、家に帰れることになって良かったね」

「あら、ちゃんと竜の宝のことも調べるわよ。でも本当に嬉しいわ」

 ポポロも笑顔でフルートに言いました。

「天空の国を出てくるときに、お母さんが言っていたの。機会があったらフルートたちを家に連れてきなさい、って。お父さんも、フルートとゆっくり話がしたい、って言っていたのよ」

「え、そ、そうだったの?」

 ポポロの家に招待されていたと知って、フルートは思わず顔を赤らめました。仲間たちも一緒に行くのに、なんとなく、自分だけでポポロの両親に会いに行くような気分になります。

「モージャは? モージャも、その天空の国ってところに行くの?」

 とアマニが兄を見上げました。不安そうな顔をしています。

 猫の目の魔法使いは苦笑いをして答えました。そのことばはもう、アマニとポチにしか理解できません。

「モージャは行けないんだ……。ロムドに帰っちゃうの? いつ?」

 ますますしょげた様子でアマニが尋ねました。兄がそれに答えると、涙ぐんでうつむいてしまいます。用はすんだから今すぐロムドへ帰る、と言われたのです。唇をかんで、地面に涙をこぼし始めます。

 

 すると、家の表のほうから、急に男の声がしました。

「モージャ、戻っているな!? 家に入ってもいいか!?」

 全員はいっせいに、はっとしました。赤の魔法使いが猫の目を光らせて声のほうを振り向き、すぐに返事をしました。

「テ! ラ、ク!」

「な、なんですって?」

 とルルがポチに聞きました。

「ワン、こちらから行くから、そこで待っていろ、って――」

 皆が緊張する中、魔法使いは先頭に立って裏庭から家に入っていきました。厳しい表情で玄関の扉を開けます。

 そこには七、八人の男たちが立っていました。全員が黒い肌に小柄な体の村人たちです。赤の魔法使いににらみつけられて後ずさりそうになりますが、すぐに踏みとどまりました。

「おまえが帰ってきたという知らせを受けて、やってきたのだ」

 と一番年かさに見える男が話し出しました。縮れた短い髪も顔をおおうひげも、もうすっかり白くなっています。ダ? と赤の魔法使いが言いました。なんの用だ、と聞き返したのです。その厳しい声に村人がまたたじろぎますが、白髪の男だけは落ち着きはらっていました。

「シャーカが、中の村の村長たちや採石場の連中をそそのかして、おまえの谷と家に火を放った、と白状した。採石場から風の壺を持ち出して、おまえをアマニや白い人間と一緒に焼き殺そうとしたんだ」

 赤の魔法使いもフルートたちも意外な話に驚きました。てっきり自分たちを襲撃に来たのだと思ったのですが、どうも違っているようです。よく見れば、家の前にいる男たちは、誰も武器や防具を持っていませんでした。布の服を着ただけの無防備な恰好で、不安そうに立っています。

 白髪の男は話し続けました。

「我々はおまえに、ムパスコに四日間滞在して良い、と約束した。ところが、シャーカはその約束を破り、おまえがムパスコに害をなすと思い込んで、おまえたちを殺そうと企てた。そのあげくに自分たちでは火を消せなくなって、逃げ出してしまったのだ。起こされた火事は村に燃え移り、下手をすればムパスコ全体に燃え広がるところだった。そうなれば、本当に大勢の人間が命を落としただろう。雨を降らせてそれを停めてくれたのはおまえだ、モージャ。真実を知る魔法の鏡が見ていたのだ」

 ああ、とアマニが嬉しそうな声を上げました。ムパスコには昔作られた魔法の道具が残されていて、それが真相を知らせたのです。赤の魔法使いのほうは何も言いませんでした。ただ黙って村人たちを眺め続けます。

 

 すると、老人は自分の右手を拳に握り、それで自分自身の左胸をどんとたたきました。

「すまなかった、モージャ。我々はおまえをムパスコから追い出したのに、それでもおまえはムパスコを救ってくれたのだ。過去の怒りと恨みを捨てて――。我々はシャーカとそれに荷担した連中をムパスコから追放した。中の村の村長たちも、おまえを誤解してひどいことをした、と反省している。もうおまえを敵視する者はいない。村の誰もが、おまえのしてくれたことを知っているからだ。我々は間違っていた。許してくれ、モージャ」

 とたんに他の男たちも、いっせいに自分の拳で左胸をたたきました。それがムヴア族の謝罪の表現だったのです。全員が大真面目な表情で赤の魔法使いを見つめています。

 すると、アマニが出てきました。大きな瞳を輝かせながら言います。

「長老、それって、モージャがムパスコに戻ってきていい、ってこと?」

 老人は大きくうなずきました。赤の魔法使いに向かって言い続けます。

「帰ってこい、モージャ。ムパスコはまたおまえの故郷だ。もう一度、一緒に仲よく暮らしていこう」

 アマニは歓声を上げました。

「戻れるんだよ、モージャ! またムパスコで暮らせるんだよ! もう別れなくてもいいんだ!」

 喜びのあまり、兄の首に抱きついてしまいます。魔法使いのほうは、とまどった表情で立ちつくしていました。まったく思いがけない展開でした。

「赤さんが故郷に帰る……?」

 フルートたちは驚き、不安になって顔を見合わせてしまいました。

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