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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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63.鳥

 炎の剣を包んだ火が鳥になって飛びたっていったので、フルートは立ちつくしました。他の仲間たちも呆気にとられてしまいます。

 すると、フルートの隣に金の石の精霊が姿を現しました。いつものように片手を腰に当て、願い石の精霊を見上げて言います。

「ずいぶん出番が遅かったな、願いの。今回は出てくるつもりがないのかと思った」

「私のせいではない。私を強く恨む者がいたからだ。私は望む者のそばに現れ、拒絶する者からは遠ざかる。それが定めだ」

 と精霊の女性は答えました。口調は冷静ですが、ほんの少し恨みがましい響きが含まれています。美しいその顔は、気を失って倒れているロズキを見つめていました。精霊の少年が黙って肩をすくめます。

 

 フルートは願い石の精霊に飛びつきました。

「願い石、炎の剣をどこにやった!?」

「どこへもやってなどいない。あれがそなたの剣だ」

 と精霊の女性は火の鳥を示しました。鳥はもう障壁を抜け、ナンデモナイに向かって飛んでいました。翼を打ち合わせるたびに、ばさり、と音がして、炎の羽根が揺らめきます。

 呆然とするフルートに、金の石の精霊も言いました。

「あれは世界中のどの剣よりも昔に作られた魔剣だ。ぼくたちと同じように、真理の力と自分の意志を持っている。願いのは魔剣に力を与えた。だから、剣は自ら飛びたったんだ」

「じゃ、炎の剣が自分から攻撃に行ってるって言うのかよ!?」

「ワン、鳥になって!?」

 とゼンやポチが驚きました。フルートの炎の剣とはもう四年以上も一緒に戦ってきましたが、こんな力を持っているとは、今の今まで想像もしていなかったのです。

 火の鳥はナンデモナイに真っ正面から向かっていました。炎に包まれていますが、形も大きさも白鳥によく似ています。巨人になったナンデモナイの前では、小鳥よりも小さく見えます。

 ナンデモナイは鼻で笑いました。

「ぶぅん、ぶんぶん、飛ぶのはなんだ? たぶんハチドリ、でなきゃハエ。俺のハンマーでぺっちゃんこ」

 ぶんっと空を切る音がして、巨大なハンマーが火の鳥を殴りました。そのまま中州に激突して岩の中にめり込みます。鳥の姿がハンマーの下に見えなくなります。

「炎の剣!」

 と一同が叫ぶと、精霊の少年が小さく笑いました。

「心配ない。真理の剣はあんなことでは壊れない」

 すると、ハンマーの下から、ちろっと生き物の舌のように炎が現れました。たちまち大きくなって、ハンマーを這い上って行きます。

 ナンデモナイは驚いてハンマーを引き戻そうとしましたが、ハンマーは地面にめり込んだまま、びくともしませんでした。炎が柄の先まで上ってきたので、ナンデモナイがあわてて手放します。

「ハンマー! ハンマー! 俺のハンマー……!」

 ナンデモナイが怒ってもわめいても、火は消えませんでした。ごうごうと激しく燃えさかり、その中でハンマーを溶かしていってしまいます。

 

 と、それがまた鳥の形に変わりました。先より二回りも大きな姿になって、ばさり、と舞い上がると、今度はナンデモナイの顔目がけて飛びかかっていきます。ナンデモナイはそれを追い払おうとして、手に火傷を負いました。あちぃ、あちぃ、と悲鳴を上げます。炎の剣と同様、火の鳥の攻撃もナンデモナイには効果があったのです。

 すると、ナンデモナイの後ろでデビルドラゴンが言いました。

「古イ剣ガ何ヲアガク! 巨人ハスデニ我ノ下僕ダ! オマエタチニハ手出シハデキヌ!」

 ナンデモナイの背後から影の竜が舞い上がりました。赤い目で火の鳥をにらみつけ、闇の攻撃を繰り出そうとします。

 とたんに、金の石の精霊が言いました。

「今だ、フルート! あいつを追い払うぞ!」

 いつの間にか願い石の精霊もフルートの左肩をつかんでいました。すでにポポロの魔法は時間切れになっていたのですが、フルートを通じて金の石に力を送り込んでいたのです。流れ込む力がぐんぐん増えていったので、フルートは思わず顔を歪めました。まるで大量の熱湯を体内に流し込まれているようです。全身を襲う痛みに耐えながら、ペンダントを掲げ直して叫びます。

「去れ、デビルドラゴン! ここはおまえのいる場所じゃない! 消えろ――!!」

 ペンダントの真ん中で金の石が爆発的に輝きました。強い光を四方八方へ放ち、マグマの大河を対岸まで照らします。溶岩でできた洞窟が白々と光り、岩の間に濃い影を落とします。

 すると、光に照らされた闇の竜が、鋭い鳴き声を上げました。キェェェェ、と声が響き渡ったとたん、岩壁や天井が地震のように揺れて崩れ出します。岩のかけらが降りそそぐと、マグマの水面が激しく波立ち、落ちた岩は大量の火山灰に変わりました。灰色の煙がもうもうと湧き上がって、デビルドラゴンを隠してしまいます。

「ワン、生き埋めにされる!?」

「光があいつに届かなくなるわ!」

 とポチとルルが叫びました。メールが悲鳴を上げてゼンにしがみつきます。

 フルートは顔を歪めてペンダントをかざし続けました。噴煙が完全に光をさえぎる前に、デビルドラゴンを追い払おうとします。

 たちこめる煙が、ますます濃くなっていきます――。

 

 すると、少女の声が響きました。

「オリムケセガナーシオケフヨーゼカ!」

 とたんに彼らの背後から、とどろくような音が聞こえてきました。たちまち近づいてきて、どぉっという音と共に、猛烈な風に変わります。

 風は障壁の内側には吹きませんでした。全員は驚いて振り向き、星空の衣を着たポポロが、片手を差し上げて立っているのを見ました。魔法の最後の光が指先から淡く消えていきます。彼女は二つめの魔法を使って風を呼んだのです。たちこめていた噴煙がみるみる押し流されていきます。

 デビルドラゴンが再び姿を現したのを見て、フルートはまた叫びました。

「光れ、金の石! あいつを追い払うんだ!!」

 願い石は相変わらずフルートの肩をつかんで力を送り続けていました。ペンダントがいっそうまばゆく輝き、影の竜を照らします。

 ついに竜の体はいくつにもちぎれ、薄れながら消えていきました。

 オォォオーーーオーォオオォォー……

 咆吼(ほうこう)が響き渡り、遠ざかって聞こえなくなります。闇の竜はもうどこにも見当たりません――。

 

 金の石が光を収めると、フルートはペンダントを下ろしました。願い石の精霊がフルートから手を離したので、仲間たちもほっとします。

 すると、赤の魔法使いが言いました。

「あれを見ろ!」

 魔法使いが見ているほうへ目を向けて、フルートたちも、あっと驚きました。ついさっきまでナンデモナイが立っていた場所に、大きな炎が燃え上がっていたのです。巨人の姿はどこにも見当たりません。火の鳥も見えなくなっていて、炎だけが、ごうごうと鳥の翼と同じ色で燃え上がっています。

「炎の剣……」

 フルートは呆然とつぶやきました。

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