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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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59.猛攻

 戦況は変わり始めていました。

 ナンデモナイは巨大な戦士になって立っていますが、もう闇の気は吸っていませんでした。岩の中から立ち上ったつむじ風が、弱って消えていってしまったからです。胸当ても失った姿で、長いハンマーを構えています。

 その前にはフルートがいました。ナンデモナイとはかなりの身長差がありますが、ポチに乗って空中にいるので、あまり不利にはなっていません。握っているのは、ナンデモナイに効果のある炎の剣です。

「行け、フルート! あいつをぶっ飛ばせ!」

 とゼンがどなりました。彼自身は、メールやポポロ、ルルやロズキと一緒に、赤の魔法使いが作る障壁の内側にいました。光の壁は魔法使いの衣と同じ色に輝きながら、一同を守っています。

 フルートがポチの上から剣を振りました。切っ先から炎の弾が生まれ、うなりを立てて敵へ飛んでいきます。

 ナンデモナイはハンマーを振りました。一撃で炎を打ち砕きます。

「そら、ひとたたき。こんなもので俺を――」

 とたんに、ナンデモナイは、ぎょっとしました。飛び散った炎の後ろにフルートがいたのです。炎の後を追って、ナンデモナイのすぐ目の前まで飛んできたのでした。防御の態勢がとれない巨人へ切りつけます。

 うおぉ、とナンデモナイは片腕を上げました。腕をおおう籠手(こて)でフルートの剣を受け止めます。籠手は金属製なので、火を吹きませんでした。フルートとポチが勢いよく押し返されてしまいます。

 そこへロズキが駆けてきました。赤い障壁の内側から飛び出してきたのです。両手をかざして魔法の光を集めると、自分に似た姿の巨人へ投げつけます。

「地上も地下も、おまえの思い通りにはさせんぞ、怪物め!」

「なんの、ふたたたき」

 と巨人はまたハンマーを振りました。光の弾を打ち砕いてしまいます。

 ところが、同時に強い光が輝き渡りました。まぶしさに、ナンデモナイが思わず目を閉じます。

 その隙を逃さず、フルートとポチはまた突進しました。ロズキもナンデモナイへ走ります。フルートの剣とロズキの光の弾が、巨人の体に同時に命中します――。

 けれども、光の弾はナンデモナイに触れたとたん、消えてしまいました。中州の場の魔法は大部分が正常に戻りましたが、ナンデモナイの立っている場所は、まだねじ曲げられたままだったのです。フルートの剣だけが、その胴を切り裂いていました。傷口が火を吹き、ナンデモナイが大きな悲鳴を上げます。

「やった!」

 と仲間たちは喜びましたが、次の瞬間、それは失望の声に変わりました。ナンデモナイが巨大になっていたので、全身を炎で包む前に、火が消えてしまったのです。

 フルートはもう一度攻撃しようとしましたが、ハンマーが飛んできたので、急いで距離を取りました。

「来い、コイ、鯉よ! 当たりに来い! 俺のハンマーがたたけば、金の石の勇者もたちまち怪物!」

 とナンデモナイが言うので、なおさら近づけなくなります。

 

 赤い障壁の内側では、ポチの後を追って飛び出そうとするルルを、ゼンが引き止めていました。

「待て、俺を乗せてから行けったら!」

「ポポロ! 日は昇ったんだろ!? あたいたちにまた、地下が平気になる魔法をかけとくれよ!」

 とメールも言います。

 ところが、ポポロは呆然と自分の両手を見つめていました。早く! とメールやゼンに急かされると、泣きそうな顔になって答えます。

「だめなの、魔力が復活してこないのよ……! 昨日の魔法はもう消えてしまったのに、地上は夜が明けているのに……魔法の力が戻ってこないの……!」

 仲間たちは驚きました。どうしてだよ!? とゼンがわめくと、ルルが言いました。

「ここが地下深い場所だからだわ、きっと。ポポロの魔力は、その日、一番最初に太陽の光を浴びたときに復活するんですもの。ここは地下何万メートルって場所だから、日の光が全然届かなくて、ポポロの魔力が戻らなくなっているのよ」

「んな馬鹿な――! 今までだって、日の差さない場所にいたことは、いくらでもあっただろうが! それでも朝には魔法が復活したはずだぞ!?」

 とゼンが言うと、ポポロは首を振りました。

「いくら室内でも、地上ならほんの少しは日の光が差してくるのよ……。海の底でも、かすかに光は届くんだけど、ここには本当に全然日光が来ていないの……」

「そういや、闇の国に行ったときにも、ポポロは魔法が復活しなくなったよね。あれと同じわけか――」

 とメールも呆然としてしまいます。

 一同は障壁の外を見ました。空中にはフルートとポチが、中州にはロズキが立っていますが、どちらもナンデモナイが振り回すハンマーのせいで、近づけなくなっていました。駆けつけて一緒に戦いたくても、ゼンたちは障壁の外に出られません。

「そうだわ! 赤さんにはできない!?」

 とルルは魔法使いを振り向きました。地上に差している日の光を、魔法でこの場所へ呼び込んでもらおうと考えたのですが、魔法使いは首を振りました。

「無理だ。俺は場の魔法を正すのと障壁を張るのとで、手一杯になっている」

 とうとうポポロがまた泣き出しました。ごめんなさい、と言って顔をおおってしまいます。

 

 フルートはナンデモナイを攻めあぐねていました。隙を狙って切り込もうとするのですが、たちまちハンマーが飛んでくるので、危険で近づけません。

 すると、ポチが言いました。

「ワン、思い切って至近距離に飛び込みましょう。ぼくは風だから、ハンマーに殴られても平気ですよ」

 フルートは猛反対しました。

「だめだ! あれは魔法のハンマーなんだぞ!」

 そこへルルが飛んできました。ごうごうと風の体を鳴らしながら言います。

「私が注意を引くわ! その隙にあいつを倒して!」

「待て、ルル!」

 とフルートは彼女も引き止めました。うかつに近づけば、みんな魔法のハンマーの餌食になってしまいます。

 彼らの下では、ロズキが立ちつくしていました。ナンデモナイの足元や手元へ何度も魔法を繰り出すのですが、やっぱり体に触れる前に消えてしまうのです。どうしても攻めることができない悔しさに、歯ぎしりしています。

 それを見てフルートは一瞬考え、すぐに言いました。

「ロズキさん、もう一度あいつの顔へ光の魔法を! ルル、ポチ、合図をしたら飛び出せ!」

 ワン、と犬たちはほえ、ロズキも即座に了解して、ナンデモナイの顔目がけて魔法を繰り出しました。ひときわ大きな光の塊です。

 ナンデモナイはハンマーでそれを打ち砕きました。先ほど、まぶしさで目がくらんだので、今回は目を細めて備えています。

 光が弾けて広がった瞬間、フルートは叫びました。

「ポチは正面! ルルは――!」

 フルートの手はナンデモナイの脚を指さしていました。広がった光の陰になっているので、巨人にはフルートの指示が見えません。光が散る中からフルートとポチが突進してきたので、すぐさまハンマーの向きを変えて殴りつけようとします。

「はぁ、犬をみたたき――」

「かわせ、ポチ!」

 とフルートはまた叫びました。ポチが身をひねり、大きな渦を巻きながらハンマーをかわします。

 その間にルルもナンデモナイへ飛んでいました。脚の後ろ側へ回り、瞬時に身をひるがえして膝の裏側を切り裂きます。

 予想外の攻撃に、ナンデモナイは思わず悲鳴を上げました。傷を負った脚からばっと血が飛び散り、力が抜けて足元がよろめきます。

 とたんにフルートがまた言いました。

「ポチ、ルル、あいつを押せ!」

 フルートの指は、ナンデモナイを真っ正面から示しています。

 二匹の犬は巨人へ突進しました。風の勢いで、ごうごうと押していきます。脚を負傷したナンデモナイは、すぐには体勢を立て直せなくて、いっそうよろめきました。二歩三歩と後ずさります。

 

 フルートは叫び続けました。

「押せ! このまま押し続けるんだ――!」

 ナンデモナイは、ずっとマグマの川の中州から離れようとしませんでした。魔法で作り出してあるのでしょう。灼熱のマグマの中でも、この中州はびくともしません。例えナンデモナイでも、高温のマグマに落ちれば無事ではすまないからだろう、とフルートは推理していました。風の勢いで中州の外へ押し出そうとします。

 そこへ、また光の弾が飛んできました。ロズキが魔法で攻撃してきたのです。敵の顔の前で破裂して強く輝きます。それをまともに見たナンデモナイは、目がくらみました。巨体が不安定に大きく揺らぎます。

「行け!!」

 フルートが叫び、ポチとルルは風の体当たりを繰り返しました。どん、どん、と音がするたびに、ナンデモナイの巨体はいっそうよろめき、後ずさっていきます。

 と、その足が中州の端を踏み外しました。うおぉ、とナンデモナイが叫んで、体を引き戻そうとします。

 そこへ、ポチとルルが並んで突進しました。二匹同時にナンデモナイの胸へ激突して、巨体を押します。

 ついにナンデモナイはバランスを崩しました。両腕を振り回しますが、体勢を立て直すことはできません。仰向けにのけぞり、背中から倒れていきます――。

 大きな音と灼熱のしぶきをたてて、ナンデモナイはマグマの川に落ちました。

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