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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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50.浮島

 赤の魔法使いが作り出した冷気が、マグマに向かって吹き降りていきました。びょうびょうと音をたてながらマグマを冷やしていきます。

 すると、赤く輝いていたマグマの表面が黒く変わって、岩の塊になっていきました。センザンコウが風を吹きつけて足場を作ったのと同じことですが、こちらのほうが大がかりで温度も低いので、小さな島ができあがります。

 ただ、マグマは常に流れて動いていました。作った島もすぐに割れて押し流されていきます。それでも魔法使いが冷気を送り続けると、島は次第に大きく育って、岩も分厚くなっていきました。

「行くぞ!」

 とフルートは先頭を切って飛び出しました。マグマの上の浮島へ、ためらうことなく下りていきます。続いて島へ下りたのはゼンでした。ロズキもその横へ舞い下ります。

 ところが、それに続いてメールまでがルルから飛び下りてきたので、ゼンは仰天しました。

「戻れ、馬鹿! おまえはここで戦えねえだろうが!」

「戦えるさ! あたいだって戦士だよ! 渦王の鬼姫なんだからね!」

 とメールは言い返しました。気の強さは相変わらずです。

「何言ってやがる! おまえは武器が何もねえだろうが! ここには花もねえんだぞ! どうやって戦う!?」

「これがあるさ!」

 とメールが見せたのは、先に上の洞窟でゼンが折って渡した水晶でした。六角柱の結晶がナイフのようにきらめきます。

「馬鹿、んなもんで――」

 

 けれども、ゼンは最後まで言い切ることができませんでした。島へ下りたフルートたちを見て、センザンコウたちがいっせいに攻撃を始めたからです。刃物のようなうろこが雨あられと飛んできます。

「金の石!」

 とフルートは叫びました。金の光が盾のように頭上に広がり、うろこを跳ね返します。

 何度うろこを飛ばしても効かないとわかると、センザンコウたちはまた体で攻撃を始めました。丸くなって飛んできます。

「よけろ!」

 とフルートがまた叫び、四人はあわてて小さな島を逃げ回りました。センザンコウの弾丸が次々に落ちてきて、島をぐらぐらと揺らします。マグマに浮かんでいるだけの、頼りない陸地です。

 ところが、センザンコウがすぐには動き出さないのを見て、ゼンが歓声を上げました。

「いいぞ! 見てろ!」

 と、まだ丸くなったままのセンザンコウに駆け寄り、むんずとつかんで頭上に持ち上げてしまいます。センザンコウはいっそう固く体を丸めましたが、ゼンはそれをマグマの中へ投げ込んでしまいました。怪物がキーッと悲鳴を上げて燃えていきます。

「私たちも行きましょう!」

 とルルはポチと一緒に舞い下りていきました。島の上でまだ丸くなっているセンザンコウに襲いかかり、風の力で吹き飛ばします。丸い形のセンザンコウは停まることができなくて、島の外へ転がっていきました。周囲は煮えたぎるマグマです。たちまち燃えながら押し流されてしまいます。

 

 丸くなったままでは分が悪いと悟ったのか、センザンコウは島に飛び下りると、すぐに体を開くようになりました。さらに刃物のようなうろこを逆立てたので、素手のゼンにはつかめなくなります。

 すると、今度はフルートが飛び出していきました。うろこの隙間へ鋭く剣を突き出します。センザンコウはあわててうろこを発射しましたが、フルートの鎧と盾が全部弾き返しました。炎の剣がうろこの奥の体に突き刺さり、敵を燃え上がらせます。

 ロズキも別のセンザンコウへ突撃していました。センザンコウのうろこは撃ち出してもすぐに復活してきますが、次のうろこが育つまでに数秒の時間が必要でした。その隙を狙って、うろこにおおわれていない場所へ剣を突き立てます。センザンコウは逃げ出しましたが、島の端まで逃げたところを、ロズキの魔法に足元の岩を崩されて、やはりマグマに落ちてしまいました。

 二人の戦士の周りで、怪物はどんどん減っていきます。

「よぉし、あたいも!」

 とメールは飛び出しました。駆け寄っていったのは、島に降りてきたばかりで、体を完全に開いていなかったセンザンコウです。丸めた体の中から顔が出てきた瞬間を狙って、その目に水晶のナイフを突き立てます。

 センザンコウは悲鳴を上げて、また巨大なボールに戻りました。反射的に身を守ったのです。

「うまいぞ、メール!」

 とゼンが駆けつけてきて、ボールをマグマに投げ込みました。良い連携です。

 

 けれども、どれほど仲間を倒されても、センザンコウはフルートたちを襲い続けました。浮島はマグマの湖を流れに乗って動いているのですが、岩壁を這って追いかけてきては、うろこを撃ち出し、体当たりをしてきます。

 五匹目のセンザンコウを仕留めたロズキが言いました。

「しつこい連中だ……。これぐらいやられたら、いいかげん逃げていっても良いはずなのに……」

 大柄でたくましい戦士ですが、肩で息をしていました。兜をかぶっていない顔には大量の汗が流れています。マグマに浮かぶ島の上なので、魔法でも熱気を防ぎきれずにいたのです。

「闇の気でおかしくなっているからだ。凶暴になっていて、ぼくたちを殺すまでは戦いをやめないんだ」

 とフルートは答えました。こちらは魔法の鎧を着ているので、暑さはまったく平気ですが、真剣な顔つきになっています。ずいぶん倒したのに、敵はまだ二十匹以上残っていました。どれもが、かなりの高速で頭上を飛び回り、隙を見ては島に突撃してくるので、油断ができません。最後の一匹を倒すまでには、まだ時間がかかってしまいそうです――。

 そこへポポロの泣き声が聞こえてきました。

「フルート、地上で空が少しずつ明るくなってきたわ! 夜明けが近づいてきたわよ……!」

 フルートは思わず唇を強くかみました。このままでは時間切れになってしまいます。

 

 一瞬考えた後、フルートは顔を上げて言いました。

「赤さん、魔法を停めろ! もう冷やさなくていい!」

 全員は仰天しました。浮島のすぐ下は灼熱のマグマです。魔法で冷やし続けなければ、島はまた溶けてしまいます。

「んなことしたら、俺たちはマグマに落ちてお陀仏だぞ!?」

 とゼンがどなると、フルートは首を振りました。

「島はすぐには消えない! ぎりぎりまで戦い続けるんだ!」

 無茶なことこの上ない指示です。馬鹿な! と言いかけたロズキは、ゼンやメールがフルートと一緒にまた激しく戦い出したのを見て驚きました。頭上では赤の魔法使いがすでに風の魔法を停めていました。島は湯に落ちた氷のように溶け始めているのに、それでも戦いを続けているのです。二匹の風の犬も、フルートたちを救出するのではなく、敵を倒すほうに全力を注いでいました。全員がフルートの命令に従っています。信じられないほどの統率力でした。

 気がつけば、ロズキ自身も島に留まって戦っていました。飛び上がって逃げようとするセンザンコウに切りつけて、傷を負わせます。すると、その隣に赤の魔法使いも飛び下りてきました。反撃してきたセンザンコウを、魔法でマグマへたたき込みます。

 みるみる小さくなっていく溶岩の浮島で、フルートたちと十数匹になったセンザンコウは激戦を続けます――。

 

 すると、突然島が真ん中から二つに割れました。マグマに溶かされて崩れてきたのです。割れ目から落ちそうになったメールを、ゼンがあわてて引き寄せます。ゼンとメール、フルートとロズキと赤の魔法使いが、二つの島に別れ別れになってしまいます。

 ゼンとメールがセンザンコウに取り囲まれていくのを見て、フルートが叫びました。

「ルル、助けに行け! 奴らをマグマに落とすんだ!」

 ルルは空から急降下しました。ゼンとメールの周りで渦を巻き、センザンコウを追い払います。

 ところが、怪物は岩に爪を立ててしがみつきました。どんなに強い風が吹きつけても、びくともしなくなります。

「吹き飛ばせないよ!」

 とメールが言いました。この強風では弓矢も使えないので、ゼンは歯ぎしりします。ルルが回転をやめてしまえば、センザンコウは再び襲いかかってきます。

 その時、島が大きく揺れて、また二つに割れました。割れ目の上にいたセンザンコウがマグマに落ちます。島はさらに崩れて溶けていきました。島のかけらがひっくり返り、しがみついていたセンザンコウたちもろとも、マグマに呑まれていきます――。

 その上空にルルが舞い上がっていました。背中にはゼンとメールを乗せています。二人は別の島に向かって叫びました。

「おまえらも早く上がれ!」

「そっちも崩れるよ!」

 彼らの言うとおり、フルートたちが乗った島も砕けて溶けていました。島がみるみる小さくなっていきます。

 フルートは言いました。

「赤さんとロズキさんは空へ飛べ! センザンコウが逃げないように抑え込むんだ! ポチ、来い!」

 魔法使いといにしえの戦士はすぐに島から舞い上がりました。まだ残っていたセンザンコウを、魔法で島へ押しつけます。フルートへはポポロを乗せたポチが急降下していきます。

 

 ところが、一匹のセンザンコウが魔法から逃れていました。フルートへ突進して、激しい体当たりを食らわせます。フルートは音をたてて倒れました。その上にセンザンコウがのしかかります。

「フルート!!」

 と仲間たちは叫びました。島が崩れ砕けてマグマに呑み込まれていくのに、フルートはセンザンコウを追い払って逃げることができません。

「いかん!」

 と赤の魔法使いとロズキが助けようとすると、とたんにフルートにどなられました。

「魔法を停めるな!! 最後まで手を緩めるんじゃない!!」

 抑え込む力が弱まったので、センザンコウが逃げ出そうとしていました。魔法使いと戦士が急いでまた魔法で押さえつけます。

 そこへポチが飛び下りてきました。センザンコウの真っ正面から突撃して、ガウッと牙をむきます。センザンコウは自分より巨大な風の怪物にたじろいで、一瞬身をひきました。その隙にフルートは剣を突き出し、センザンコウの顔に突き立てます。

 怪物は大きな炎に包まれました。前脚の下に抑え込んでいたフルートも一緒です。火の中にその姿が見えなくなってしまいます。

 島がついにばらばらに砕けました。あっという間に小さくなってマグマに呑まれていきます。岩も、炎を上げて燃えるセンザンコウも、マグマの中に消えていきます――。

 すると、火の中からポチが飛び出してきました。背中ではポポロが泣きながらフルートを抱きしめています。フルートのほうは金のペンダントを彼女に押し当てていました。炎をくぐってフルートを救出したので、火傷を負ってしまったのです。火傷が癒えた後も、ポポロの涙は停まりませんでした。フルートを堅く抱きしめ続けています。

 

 上空でまた一緒になった一同は、マグマの湖を見下ろしました。もう島はどこにもありません。センザンコウも一匹残らずマグマに呑まれました。ようやく激闘が終わったのです。

 けれども、それにほっとしている暇はありませんでした。すぐにフルートが仲間たちへ言います。

「もう時間がない。闇の出所を見つけて元を断つんだ。急げ!」

 おう! と仲間たちは応えると、一丸となってマグマの湖の奥へ飛んでいきました――。

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