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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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49.反撃

 赤の魔法使いに撃ち落とされたセンザンコウを、ポチに乗ったフルートが追いかけました。その後ろにはポポロがしがみついています。

 ボールのように丸くなっていたセンザンコウが、体を開き始めました。柔らかな毛におおわれた腹の真ん中に、空気を出す特殊な穴があったのです。迫ってくるマグマの水面へ風を吹きつけて、冷やし始めます。灼熱のマグマの表面が、その場所だけ輝きを失って、黒い岩場に変わります。

 ところが、センザンコウがそこに着地するより早く、ポチが間に飛び込んできました。岩場をかすめながら、センザンコウの真下を通り抜けていきます。その背中から、フルートは炎の剣を突き出しました。体を開いていた怪物の腹を切り裂いていきます。

 キーッと鋭い悲鳴を上げて、センザンコウは跳ね上がりました。傷口が火を噴き、たちまち全身が炎に包まれてしまいます。フルートの予想通り、うろこにおおわれていない腹は、攻撃に抵抗できなかったのです。燃えながらマグマに落ちて、押し流されていきます。

 ポチは必死で上昇しようとしていました。その腹のすぐ下にはマグマの激流があります。跳ね上がる熱いしぶきが、背中のフルートやポポロに雨のように降りかかります。

「金の石!」

 とフルートは叫びました。たちまち金の光があふれて二人を包みますが、次の瞬間、正面で大きな泡が弾けました。粘りけのある赤い液体が、彼らの頭上から降ってきます。とたんにポポロが悲鳴を上げました。金の石が守っているのに、猛烈な熱さを感じたのです。

 フルートはまた声を上げました。

「金の石、ぼくはいい! ポポロを守れ!」

 フルートが着ている鎧は暑さ寒さを防ぐのです。金の光が狭まってポポロだけを包み込み、顔や手の火傷を癒しました。ポチが舞い上がってマグマから離れていきます――。

 

 それを見守っていたゼンたちは、ほっと息を吐きましたが、フルートたちが次のセンザンコウに向かっていくのを見て我に返りました。気がつけば、別のセンザンコウが自分たちの近くまで這い上がってきて、体中のうろこを逆立てています。

「来るぞ! よけろ!」

 とゼンはどなり、ルルは急旋回でうろこを避けました。メールがセンザンコウを指さします。

「見えた! うろこの間にホントに毛が生えてるよ!」

 うろこは堅くて丈夫でも、その下には腹と同じように柔らかい毛並みがあったのです。ゼンは飛び回るルルの上から苦労して狙いをつけると、逆立ったうろこの隙間目がけて弓を射ました。うろこに弾き返されていた矢が、今度はみごとに突き刺さります。センザンコウはキーッと悲鳴を上げると、岩壁から落ちていきました。マグマの激流に呑み込まれていきます。

 

 それを見て、赤の魔法使いがつぶやきました。

「戦い方がわかってきたな。早いところ撃退しよう」

 と次のセンザンコウを撃ち落とします。マグマの上に不時着しようと体を伸ばす怪物へ、フルートたちがまた飛んでいきました。マグマのしぶきを浴びながら、無防備な腹へ炎の弾を食らわせます――。

 そこへロズキが駆けつけて、赤の魔法使い目がけて飛んできたうろこを、剣でたたき落としました。魔法使いは、センザンコウを撃ち落とすことに集中していて、自分に敵が迫っていたことに気づかなかったのです。

「防御は私が引き受けた! 気にせずに勇者たちを援護しろ!」

 と戦士が言ったので、魔法使いはまたフルートたちに向き直りました。ポポロは金の石に守られていますが、フルートが全身にマグマを浴びて難儀していました。鎧で熱からは守られているのですが、マグマが冷えて固まって、動きを邪魔していたのです。

 そこへまた別のセンザンコウが襲いかかってきました。フルートは炎の剣を振りましたが、腕が半分以上岩で固まっていたので、狙いがはずれました。センザンコウが身をかわして反対側の岩壁に飛びつき、すぐまたボールになって飛んできます。

「防御!」

 と赤の魔法使いはフルートたちの前へ障壁を張りました。センザンコウが激突して、マグマの水面へ落ちていきます。フルートの体からは岩が砕けて落ちたので、ポチはまた急降下しました。落ちていくセンザンコウの下に回り込み、フルートが剣で仕留めます。

「ワン、これで四匹!」

 とポチが言うと、その瞬間、ゼンがもう一匹のセンザンコウを射落としました。これで倒した敵は五匹です。

 

 けれども、マグマ溜まりの岩壁にセンザンコウはまだ三十匹以上残っていました。相変わらずうろこを撃ち出し、ボールになって体当たりをしてきます。

 ポポロはフルートの後ろで涙ぐんでいました。彼らに残されている時間はもうあまり長くはありません。一刻も早く奥へ進んでいきたいのに、センザンコウを倒すのには、まだ時間がかかりそうなのです。どうしよう、どうしたらいいんだろう、と泣きながら考えますが、名案は浮かびません。彼女はもう、今日の魔法を二度とも使い切っています。

 すると、フルートもつぶやきました。

「ぐずぐずしてると夜が明ける。早く片をつけないと――」

 兜からのぞく横顔は真剣そのものです。少し考え込んでから、声を張り上げます。

「赤さん、寒気を作ってくれ! それをマグマに吹き下ろすんだ!」

「何をする気だよ!?」

 とゼンが聞き返しました。フルートがどんな作戦を思いついたのか、すぐには判断できません。

「マグマの表面を固めるんだよ! そこで敵を迎え討つ!」

 それを聞いて、赤の魔法使いは驚きました。

「マグマは大量だし、地下から湧き続けている。あれを全部固めるのは不可能だぞ」

「一部だけでいいんだ! それも表面だけでいい! 浮島ができれば、そこを足がかりにできる――急げ!」

 体は子どものように小柄でも、赤の魔法使いはれっきとした大人です。それに向かって命令口調で言うと、フルートは振り向いて、ポポロにも何か言いました。ポポロが目を見張り、すぐに金のペンダントをはずしてフルートの首に返します。

 赤の魔法使いはロズキに言いました。

「俺が冷気を作れば、勇者たちを守ることはできなくなる。おまえも降りて戦ってくれ」

 よし、と戦士はうなずいてから、続けました。

「君を守る者がいなくなるから、気をつけろよ」

 ムヴアの魔法使いは猫の目を細めて笑いました。

「俺はこれでもロムド城の四大魔法使いの一員だ。それに、おまえたちがそっちで大暴れして敵を惹きつければ、こっちに回ってくる奴はいなくなる。おまえこそ気をつけろ。おまえは幽霊でも、その体は肉体だからな」

「わかった」

 心配したつもりが逆に心配されて、戦士は苦笑しました。

 

 ポチとルルが洞窟を天井近くまで上昇していきました。それを確かめてから、赤の魔法使いがおもむろに言います。

「冷えろ――!」

 とたんに、あたりが急にひんやりしてきます。

 次の瞬間、どっと湧き起こったのは、猛烈な風でした。天井に向かって突風が吹き始めます。急に出現した冷たい空気の中へ、マグマに熱せられた空気が吹き込んでいったのです。ポチもルルも空中で振り回されたので、フルートたちはあわてて背中にしがみつきました。センザンコウも岩壁に爪を立ててしがみついています。さすがに風が吹く間はボールになって襲ってきません。

「行け!」

 と魔法使いが杖を振ったとたん、寒気はマグマの激流へ吹き降りていきました――。

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