何十といううろこが、空中に寄り集まるフルートたち目がけて飛んできました。研ぎ澄まされた刃のような、丸い円盤です。
「金の石!」
とフルートは叫びました。魔石は彼らを煙から守るために金の光で包んでいましたが、その光がぐんと強まりました。輝きが飛んでくるうろこを弾き返します。
「金の石、そのままみんなを守っていてくれ! センザンコウを無視して、奥へ行く!」
とフルートは言いました。地上では次第に明け方が近づいています。早くしなければ、ポポロの魔法が時間切れになって、全員がこの場で死んでしまうのです。
ところが、彼らが飛び始めると、今度は丸い塊が飛んできて、金の光に激突しました。衝撃が彼らにまで伝わってきます。
「なんだ!?」
と振り向いた一同は、また驚きで目を見張りました。ぶつかったのは丸くなったセンザンコウだったのです。岩壁を這って彼らに追いつき、体をボールのように丸めて飛んできます。センザンコウはうろこにおおわれている上に、全長が五メートルもあるので、体当たりの衝撃も相当でした。しかも、衝突した後は体を開いて岩壁まで飛び、そこからまたフルートたちを追いかけてくるので、攻撃はいつまでたってもやみません。
「ちょっと、やめてよ!」
とルルが叫びました。激突されるたびに風の体を激しく揺さぶられて、体がちぎれそうだったのです。ポチやルルはすぐにまた風の犬に戻れますが、フルートたちが乗った場所がちぎれたら、彼らはマグマへ墜落してしまいます。
赤の魔法使いとロズキは、飛んでくるセンザンコウへ魔法を繰り出しました。
「落ちろ!」
と魔法使いが叫ぶと、杖から赤い光がほとばしって、丸くなったセンザンコウを打ちのめします。ロズキの魔法も別のセンザンコウをたたき落とします。
ところが、落ちていったセンザンコウは、マグマの水面の上で一瞬ふわりと浮き上がりました。体の中から強い風を噴き出したのです。とたんにマグマの表面が冷えて、黒く固まりました。センザンコウはそこに着地すると、また飛び上がり、岩壁に取りついて這い上がってきます。
「なんてヤツらだよ……!」
とゼンが歯ぎしりしました。本当に、こんな生き物は見たことがありません。
その時、ポポロが言いました。
「守りの光が弱まってきてるわよ! 範囲が狭くなってきているわ!」
金の石は、マグマ溜まりへ降りてくるまでに、かなり力を使って弱ってきていました。そこへ度重なる攻撃を受けたので、金の光が、外から押されるように、次第に小さくなってきます。
金の石! とフルートは精一杯念を込めました。金の石の力の源は、守りたいと思うフルートの心です。ほんの少し光が明るくなって広がりますが、そこへまたセンザンコウが激突してきました。たちまちまた光が狭まります。
赤の魔法使いとロズキは守りの光の外へ飛び出しました。それぞれに魔法で障壁を作って、金の光の中の一行を守ります。
ところが、そこへ今度はセンザンコウのうろこが飛んできました。戦士はとっさに剣で弾き返しますが、魔法使いは赤い長衣の裾や袖を切り裂かれました。
「気をつけろ!」
とゼンがどなってルルの背中から矢を放ちました。矢はセンザンコウに命中しましたが、鎧のようなうろこに跳ね返されてしまいます。ああもう! とメールは叫びました。自分も戦いに加わりたいと思うのですが、ここには花も苔もありません。
すると、敵の様子を観察していたフルートが言いました。
「センザンコウの腹にうろこはない! 狙うならそこだ!」
その通り、ボールのような体を開いたセンザンコウの腹は、うろこの代わりに毛でおおわれていました。意外にも、柔らかそうな毛並みです。
「よし、あいつの下へ行け!」
とゼンに言われて、ルルも光から抜け出して急降下しました。体を伸ばして滑空するセンザンコウの下へ回り込みますが、敵のほうもそれに気がつきました。空中でたちまち体を丸めてボールになってしまいます。
「どうすりゃいいのさ! 攻撃のしようがないよ!」
とメールがまた叫ぶと、センザンコウがうろこの刃を撃ち出してきました。ルルの体がいくつもに切り裂かれ、ゼンとメールは空中に投げ出されてしまいます。
「ワン、危ない!」
ポチが助けに飛んでいこうとすると、ボールになったセンザンコウが飛んできて、長い尾を振り回しました。それがフルートたちに当たりそうになったので、ポチはとっさに身をかわしました。ゼンたちが遠ざかってしまいます。
きゃぁぁ、とメールは悲鳴を上げてゼンにしがみつきました。ゼンはそれを抱きかかえますが、墜落を止めることはできません。二人一緒にマグマの湖へ落ちていきます――。
すると、目の前の空中に赤の魔法使いが現れました。
「停まれ!」
とハシバミの杖を振ります。
とたんに、ふわりとゼンの体が宙に停まりました。その脚のすぐ下はもうマグマの激流です。ゼンはあわてて脚を縮め、両腕に抱えたメールを高く差し上げました。マグマから飛び散るしぶきが、かかりそうだったのです。
そこへロズキが降りてきて、ゼンの胴をつかまえました。そのまま一緒に宙高い場所へ引き上げ、元に戻ったルルの背中へ乗せます。フルートたちも飛んできて、全員はまた一緒になりました。
「いったいどうすればいいのだ!?」
とロズキは歯ぎしりをしました。闇の怪物であれば、聖なる剣で消滅させられるのですが、センザンコウは闇のものではありません。通常の攻撃は堅いうろこに跳ね返されてしまいます。
赤の魔法使いも魔法攻撃が効かないセンザンコウを攻めあぐねていました。金の光が破られないように障壁を作るのが精一杯です。そうしながら、魔法使いは密かに遠くへ助けを求めていました。仲間の四大魔法使いがいるロムド城です。このままでは勇者たちが地下で死ぬことになる。力を貸してくれ――と白、青、深緑の三人の魔法使いへ呼びかけます。
けれども、心話でいくら救援を求めても、返事はありませんでした。南大陸はいにしえの魔法で世界の他の場所から隔絶されています。四大魔法使いたちであっても、それを越えてことばを交わすことはできなかったのです。
センザンコウは相変わらず四方八方から攻撃を仕掛けてきました。彼らは身動きが取れません。
ところが、またじっとセンザンコウを観察していたフルートが言いました。
「あいつのうろこの間には毛並みが見える――。ゼン、うろこの間を狙え。きっと効くはずだ! ポチ、ぼくたちはあいつの腹を狙うぞ!」
「ワン、どうやって!? あいつはすぐに丸くなりますよ!?」
とポチが聞き返すと、フルートはすぐには答えずに、自分の首からペンダントを外しました。後ろに座るポポロの首にペンダントをかけてやりながら言います。
「ごめん。金の石が守っていても、きっと熱いと思うんだ。我慢してくれるかい?」
ポポロは驚き、すぐに唇をきゅっと結びました。真剣な表情でうなずいて、フルートにつかまり直します。
フルートは言いました。
「赤さん、センザンコウをたたき落としてくれ――! あいつはマグマに落ちそうになると、体を開いて風を出す! その瞬間を狙うんだ!」
「マグマのすぐ上じゃないか! 呑まれるぞ!」
とロズキが驚きましたが、フルートはそれには答えませんでした。ただポチに、行くぞ、とだけ言います。
ポチはうなりを上げて飛び始めました。丸くなって飛びかかってくるセンザンコウをかわしながら、反撃の隙を狙います。
ゼンも、ふん、と笑うような顔になりました。
「よぉし、俺たちも行くぞ!」
とルルの上で弓に矢をつがえます。その後ろでは、メールがしっかり敵を見据えています。
赤の魔法使いはまた宙高く舞い上がりました。自分に向かって襲いかかってきたセンザンコウへ、魔法を繰り出します。
「落ちろ!」
うろこの鎧でおおわれたボールが、マグマの湖へ墜落していきました――。