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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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第14章 友だち

44.金の石の勇者

 巨人の足止めに向かったフルートが、自分は金の石の勇者だ、願い石はぼくの中にある、と宣言したので、仲間たちは仰天しました。フルートは金の石をゼンに預けていったのです。

 巨人はフルートへつかみかかろうとしていましたが、それを聞いて手を止めました。すぐに闇のものの声が聞こえ始めます。

「金の石ノ勇者……?」

「聞いたことがアル」

「そうだ。願い石ノ主だ」

「どんな願いでもかなえルという、願イ石カ――」

 巨人は一体でも、聞こえてくる声はたくさんでした。巨人の内側からざわざわと響いてきて、じきに何と言っているのかわからなくなります。

 そんな巨人に向かってフルートは叫び続けました。

「そうだ! 願い石はどんな願いでもひとつだけかなえることができる! 石はぼくの内側にある! それを手に入れれば、おまえたちの願いもきっとかなうぞ!」

 仲間たちはまた悲鳴を上げました。フルートは、願い石を持つ自分自身を餌にして、巨人を惹きつけようとしているのです。

「この馬鹿!」

 とゼンはルルと飛び出そうとしましたが、とたんに、来るな! とフルートからどなられました。鋭い声にゼンたちは動けなくなってしまいます。

 

 巨人の中の声がまたはっきりし始めました。ざわめきの中から、ひときわ大きな声が聞こえるようになってきたのです。

「そうダ、願い石はどんな願いデモかなえてくれる!」

「どんナ願いでも? では、我々を生き返らせるコトもできるのカ?」

「できル、できルとも!」

 ざわざわざわ、と無数の声がまた湧き上がってきました。巨人を作る人面火たちが、いっせいに話しているのです。やがてそれがいくつかの声にまとまっていきます。

「願イ石、願イ石――」

「我々はコノ世に生き返りたい――」

「願い石があれバ、我々は生キ返れる――」

「欲しい。願い石ガ欲しい――」

 その声がさらに重なって、ひとつの声に変わっていきます。

「欲しい、欲しい、願イ石! よこせ、よこせ、願イ石をよこせ! 願イ石に願って、我々はコノ世に復活するんだ。願イ石を我々ニよこせ――!!」

 雷のような声がマグマの湖に響き渡ります。

 その時にはフルートはもう巨人のすぐ目の前にいました。

「おまえたちになんて渡すものか! 欲しければ奪ってみろ!」

 と巨人に向かって叫びます。

 すると、巨人が急に炎に包まれました。燃えさかる火の奥から、また声がします。

「焼き尽くセ! 食らい尽くセ! 願イ石を奪うんだ!」

 巨人は人面火になろうとしていました。炎でフルートを包んで殺し、内側の願い石を手に入れようとしているのです。

 すかさずフルートは親友を呼びました。

「ゼン!」

 おう! とゼンが仲間たちとすっ飛んできました。フルートの後ろでペンダントを掲げると、魔石から金の光がほとばしります。

「聖なる光ダ! 消されるゾ!」

 と声がして、炎は再び溶岩の巨人に戻りました。金の石がいくら照らしても、消滅させられなくなってしまいます。

 すると、フルートが今度はロズキを振り向きました。

「今だ! こいつの脚をマグマから切り離せ!」

 呆然としていたロズキは、我に返って飛び出しました。握っていた武器を聖なる剣に変えながら、巨人と対面している少年少女を見上げます。

 巨人はまた体の岩を溶かして、ペンダントに向かって撃ち出していました。熱い溶岩の弾丸です。素早くかわすルルの背中で、ゼンは巨人にペンダントを向け続けました。魔石が金の光を放っているので、巨人は人面火になることができません。

「なんだ、彼らは……?」

 とロズキは飛びながらつぶやきました。

「彼らは何者だ? フルートは本当に願い石を持っているのか……?」

 けれども、呆然としている暇はありませんでした。巨人の太い脚は、もう目の前です。光を帯びた剣の刃を伸ばして、両脚を一気に断ち切ろうとします。

 

 そのとき、頭上で少年少女の悲鳴が上がりました。フルートが巨人の手につかまったのです。岩でできた指がフルートの胴を握りしめます。

 とたんにフルートの顔が青ざめていったので、ポポロはまた悲鳴を上げました。巨人は触れた生き物から生気を吸い取っていきます。フルートの魔法の鎧でも、それを防ぐことはできなかったのです。

「こんちくしょう! フルートを放せ!」

 とゼンは巨人をペンダントで照らし続けました。金の石も今まで以上に明るく輝きますが、岩の巨人はまったく影響を受けません。フルートの顔がますます青ざめていきます。

「いかん!」

 とロズキは急上昇しました。伸ばしていた刃で巨人の腕を切り落とそうとします。

 すると、フルートが巨人の手の中から叫びました。

「来るな! こいつを倒せ!」

 ロズキは思わず立ち止まりました。その瞬間、彼の脳裏に広がったのは、自分が闇と戦ってきた、かつての戦場でした。総大将のセイロスの声を聞いたような気がします。

「私にかまうな! 敵を倒すことに集中しろ!」

 と――

 

 ロズキは歯を食いしばると、即座にまた向きを変えました。マグマの水面まで急降下すると、体を回転させ、聖なる刃で巨人の足首を断ち切ります。

 巨人はバランスを崩し、ゆっくりと倒れ始めました。手にはフルートを握ったままです。岩の体の中からは、また人面火たちの声が聞こえてきます。

「殺セ、殺セ」

「願い石ヲ奪い取れ」

「こいつを吸収しロ!」

 もう一本の手が伸びてきて、フルートの頭をわしづかみにしました。あっという間に引きちぎってしまいます。メールやポポロや犬たちは大きな悲鳴を上げました。フルートの頭が飛んでいきます――

 が、ゼンがすぐに言いました。

「あわてるな、馬鹿! あれは兜だ!」

 ゼンの言うとおり、飛んでいくのは金の兜だけでした。マグマの中に落ちて見えなくなってしまいます。

 フルートは金髪の頭をむき出しにして、巨人の手に握られていました。兜がなくなったので、土気色になった顔がいっそうよく見えます。苦しそうに歪んだ表情です。

 巨人の手がまた伸びてきました。前のめりに倒れながら、それでもフルートの頭をまたつかもうとします。願い石、願い石、と無数の声が言っていました。生き返れるぞ! 我々の願いがかなうぞ! と甲高く叫ぶ声もあります。

 すると、フルートがまた叫びました。

「今だ、赤さん!」

 苦痛に顔を歪めていても、強くはっきりとした声です。

 とたんにムヴアの魔法使いの声が響き渡りました。

「壊滅!」

 魔法使いはいつの間にか巨人の後ろに来ていました。赤い光の弾が巨人の背中に激突して、あっという間に粉々にします。

 魔法で砕かれた巨人の体は、人面火に戻れませんでした。無数の岩の塊になってマグマの中に落ち、輝きながら溶けていきます。同時にたくさんの悲鳴が響きました。人面火を作る悪霊が、燃えながら消滅していくのです。

 

 巨人の手が崩れたので、フルートも宙に投げ出されました。岩と一緒にマグマの湖へ落ちていきます。

「危ない!」

 ロズキが飛んでいって受け止めようとすると、それより早く、風の犬のポチがフルートに飛びつきました。風の体で巻き込むように受け止め、必死で呼びかけます。

「ワンワン、フルート! フルート! 大丈夫ですか!?」

 ゼンやメールやポポロを乗せたルルも飛んできました。全員が口々に呼びかけます。

「おい、しっかりしろ!」

「ずいぶん生気を吸われたろ!? 大丈夫かい!?」

「怪我はない!?」

 フルートは仲間たちを見上げました。その顔色は土気色のままでしたが、それでも全員へ笑ってみせます。

「もちろん、大丈夫だよ……。あいつを消滅させられたな?」

 魔法で砕かれた巨人は、マグマの中で完全に溶けていました。もう人面火も溶岩の巨人も現れません。

 フルートはポチの上に座り直すと、ルルから乗り移ってきたポポロを自分の前に座らせて、そのまま胸に抱き寄せました。ポポロが大泣きをしていたからです。ごめんね、といつもの優しい声で謝ります……。

 

 ロズキは宙に浮いたまま、そんな勇者の一行を眺めていました。

 そこへ赤の魔法使いがやってきて話しかけます。

「意外だったか? これが彼らの本当の姿だ」

 いや、と戦士は頭を振りました。思い出すような遠い目になって言います。

「彼が敵を倒せと言ったときに、私はセイロス様から命じられたような気がした……。確かに、姿はまったく違う。年齢もセイロス様よりずっと幼いし、共に戦う仲間たちの年齢も若い。だが、彼らは確かに金の石の勇者と、その仲間たちなのだな。はるかな年月(としつき)を経て、金の石の勇者は再びこの世界に現れていたのだ……」

 そう言って、ロズキは黙り込みました。見上げていた目を足元へ向けます。そこでは、黒い溶岩の塊を浮かべたマグマが、渦巻きながら流れています――。

「どれ、これを勇者に届けなくては」

 と魔法使いは言って、フルートたちのほうへ飛んでいきました。その手には、魔法でマグマから救い出した金の兜がありました。自分の兜が戻ってきたので、フルートが喜びます。

 兜をかぶり直し、ゼンから受けとったペンダントを首から下げると、フルートは言いました。

「よし、行くぞ! 今の戦いでずいぶん時間を取られた! 一刻も早く闇の煙の原因を見つけて、災いを取り除くんだ!」

 その顔はまだ青ざめていますが、マグマが流れていく先をしっかりと見据えています。

 ロズキはまた顔を上げました。マグマの上を飛び始めたフルートたちを見つめ、やがて舞い上がると、彼らの後を追いかけていきました――。

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