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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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43.足止め

 炎と溶岩の巨人の間で素早く姿を変えている人面火を、変身できないようにして攻撃する、とフルートは言いました。今は巨人の姿の敵を、じっと見つめ続けます。

「それは正論だが、どうやって停めるつもりだ!? 我々が攻撃するより、あいつの変身のほうが早いのだぞ!」

 とロズキが尋ねてきました。臆病風に吹かれたわけではありません。その手はまだ聖なる剣を握っていて、敵を倒す隙をうかがっています。

 フルートは考えながら話し続けました。

「人面火は数が非常に多いし、すぐマグマに飛び込むから、すべてを倒すのは無理だ。巨人の姿のときに動きを封じて、金の石で人面火に戻れないようにする。そこを魔法で破壊するんだ――。ゼン、あいつを停めろ! ロズキさんは、もう一度あいつの脚を!」

 フルートの指示に、おい、とロズキは驚きましたが、仲間たちのほうは即座に動き出しました。ルルが巨人へ突進を始め、ゼンは拳を握ります。

「ルル、そのままあいつの上に全速力だ! メール、しっかりつかまってろよ!」

 そこでルルはさらに速度を上げ、メールはゼンに強くしがみつきました。メールの腕の中で、ゼンの体が力を溜め始めました。全身の筋肉が太く張り詰めていきます。

 すると、ゼンが言いました。

「下だ、ルル!」

 彼らはもう巨人の頭上にいました。巨人が腕を伸ばしてゼンたちを捕まえようとしています。ルルは指示通り急降下を始めました。その背中でゼンが拳を握り、全身の力に落ちる勢いをのせて、巨人の手を殴りつけます。

 とたんに、溶岩の手は木っ端みじんになりました。自分から分裂したときと違って、飛び散った岩のかけらは人面火に戻りません。岩のままマグマに溶けてしまって、復活もしません。

 

「効いてるわ!」

 とルルは歓声を上げましたが、ゼン! とメールは悲鳴を上げました。巨人を殴りつけたゼンが、拳を押さえて前屈みになってしまったからです。メールが身を乗り出してのぞき込むと、ゼンは土気色(つちけいろ)の顔を歪めていました。

「くっそ……やっぱり、あの恰好でも生気を吸い取るのかよ……」

 巨人を殴りつけた瞬間に、拳から力が抜けて目の前が真っ暗になったのです。目はすぐに見えるようになりましたが、何百メートルも全力疾走した後のように、息が上がってしまっていました。

「ゼン、ゼン、大丈夫かい!?」

 とメールは半狂乱でしたが、ゼンはすぐに身を起こしました。

「騒ぐな、馬鹿……大丈夫に決まってらぁ。俺の生命力は底なしだぞ……」

 話しながら、ゼンはまた拳を握りました。ルルに言います。

「もう一度上に行って、急降下だ……反対側の手もぶっ壊すぞ」

「無理よ! あなた、ふらふらじゃない」

「大丈夫だって言ってんだろうが。さっき、たらふく肉を食ったから、元気はあり余ってらぁ……」

 ゼンはまだ少し弱った声でそう言うと、もう一度ルルを急かしました。もうっ、と言って、ルルはまた急上昇しました。もう一方の巨人の手を狙って急降下します。メールはゼンの背中へ顔を伏せてしまいます――。

 

 ゼンがもうひとつの巨人の手を砕いた瞬間、巨人の前にフルートが飛び出しました。マグマの水面ぎりぎりまで降下して逃げるゼンたちをかばいながら、ペンダントを突き出して叫びます。

「金の石、こいつを人面火に戻すな! ロズキさん、こいつの脚を切れ!」

 魔石が金の光を放ちました。溶岩でできた巨人の体を照らします。

「うまいぞ!」

 とロズキは飛び出しました。聖なる光が照らしているので、巨人は人面火に戻れなくなっていました。戻れば、その瞬間に聖なる光で消滅してしまうのです。ロズキは剣の刃をまた伸ばして、巨人の両脚を一度に断ち切りました。すぐに赤の魔法使いへ呼びかけます。

「こいつを粉々にしろ!」

 魔法使いは杖を巨人に突きつけました。壊滅の呪文を唱えようとします。

 

 ところが、そのとたん、巨人の体の一部が溶け出しました。岩が灼熱の液体になって、目の前にいたフルートへ飛びます。フルート自身は魔法の鎧を着ているので無事でしたが、突き出していたペンダントを直撃されました。ペンダントがフルートの手から弾き飛ばされてしまいます。

 はっとフルートは息を呑みました。ペンダントは鎖で首に下げてあったので、マグマに落ちるようなことはありません。ただ、ペンダントに溶岩がへばりついていました。たちまち冷えて黒い岩に戻り、ペンダントの表面を固めてしまいます。巨人を照らしていた聖なる光がさえぎられます――。

「奴が変わる!」

 とフルートが叫んだ瞬間、巨人は本当に分裂して人面火になりました。マグマには飛び込まずに、フルートへ襲いかかってきます。金の石を封じられたフルートには、防ぐ手段がありません。後ろでポポロが悲鳴を上げます。

 すると、ロズキが急上昇してきました。フルートやポチの前に飛び込み、群がる人面火を聖なる剣で切り払います。リーン、リリーン、と澄んだ音が響いて、人の顔を持つ炎が消滅していきます。

 やがて、分が悪いと思ったのか、人面火はまたマグマの中へ飛び込みました。マグマと同化して見えなくなってしまいます。フルートたちは空中の一箇所に寄り集まりました。煮えたぎり、煙を上げながら流れるマグマの湖を見渡します――。

 

 赤の魔法使いが呪文を唱えると、ペンダントを固めていた岩が砕けて落ちました。魔石がまた光り始めます。

 それを見ながらゼンが言いました。

「やっぱり金の石は弱ってやがるな。いつもなら、このくらいの攻撃は跳ね返しているはずなのによ」

「ワン、そう言うゼンこそ大丈夫なんですか? 二度も生気を吸われたのに!」

 とポチが聞き返すと、へっとゼンは肩をすくめました。

「あのくらいはなんでもねえって。俺は底なしにしぶといんだぜ」

 その様子が本当に元気そうだったので、一同はほっとしました。改めてマグマの湖を眺めます。敵はまだ姿を現しませんが、ルルは鼻の頭にしわを寄せて言いました。

「相変わらず闇の匂いはひどいわよ。きっとマグマの中でこっちをうかがっているんだわ」

「どうすれば奴を倒せるのだ。ほんのいっとき、あいつを巨人のまま足止めできれば、魔法使いがあいつを消滅できるのに」

 とロズキが歯ぎしりします。

 すると、フルートがそれを繰り返しました。

「そうだ。ほんのいっとき、巨人のままで足止めできればいいんだ……」

 青い瞳が考え込みながら何かを見据えています。ポポロは急に不安になってフルートにしがみつきました。何を考えているの? と尋ねると、少年は我に返った顔で笑いました。

「違う、願おうとしてるわけじゃないよ。ちょっと作戦を思いついたんだ。ポポロ、ゼンたちのほうに乗り移ってくれないか?」

 ポポロはますます青ざめました。フルートはポチと二人だけで行動しようとしています。きっと、ろくな作戦ではありません。

 すると、フルートの口調が少しきつくなりました。

「ポポロ、ルルの上へ行くんだ。時間がかかりすぎたら、君の魔法が切れて、みんなここで死んでしまう。ぐずぐずしている暇はないんだ」

 ポポロは驚いたように身を引き、フルートから手を放しました。涙ぐみながらルルの背中へ乗り移ります。フルートが厳しい顔をしているので、ゼンやルルたちも口が挟めません。

 

 すると、フルートが赤の魔法使いとロズキに言いました。

「もう一度、あいつを引き止めます。ロズキさんが脚を切ったら、赤さんがあいつを破壊してください」

「どうやって?」

 と赤の魔法使いも疑わしそうに尋ねましたが、フルートはそれには答えませんでした。何故か自分の首からペンダントを外すと、ゼンに渡して言います。

「預かっていてくれ。そして、ぼくが合図したら、すぐに飛んでくるんだ」

 その真剣な様子に、ゼンは真顔になりました。ペンダントを受けとって、わかった、と答えます。

 フルートはポチの背中からマグマの湖を見下ろしました。溶岩の巨人が現れるのを待ち続けます。

 すると、輝きながらうねり流れるマグマの中に、黒い塊が浮き上がり、みるみる大きくなって人の形になっていきました。身の丈十メートルもある巨人になって、マグマの上に立ち上がります。

「出た!!」

 一同が思わず声を上げる中、ポチは飛び出しました。巨人へまっすぐ向かいながら、フルートが声を張り上げます。

「おまえは闇の巨人だ! 闇の怪物ならば聞いたことがあるだろう! ぼくは金の石の勇者だ! おまえたちが欲しがる願い石は、ぼくの中にあるんだぞ!」

 フルート!! と仲間たちは叫びました。自分の正体を明かした勇者の少年は、金の石を手放してしまっていました。闇の怪物から自分を守ることができません。

 そして、もう一人、別の理由で驚愕(きょうがく)している人物がいました。

「い、今、彼は何と言った? 願い石を? あの魔石を、自分の中に持っているだと――!?」

 いにしえの戦士は、そう言ったきり、ことばが続けられなくなりました。

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