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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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第13章 人面火

41.人面火(じんめんか)

 人面火!? とフルートたちは驚きました。初めて聞く怪物ですが、炎の表面に人の顔が浮き上がっているので、いかにもという名前ではありました。

 すると、怪物へ目を凝らしていた赤の魔法使いが言いました。

「どうやらウィル・オ・ウィスプの仲間らしいな。闇に墜ちた死者の魂が火の玉になったものだ」

「ワン、鬼火ってやつですか? 闇の怪物だ!」

 とポチが言うと、ロズキが言いました。

「あれはマグマに死者の魂が宿ったものだ。炎の剣を取りに火の山に潜ったときに、この怪物とも戦ったことがある。鬼火と違って、あの火は本物だからやっかいだぞ」

 フルートは金のペンダントを握りしめていましたが、その話を聞いて驚きました。

「炎の剣があの怪物を繰り出してきたんですか!? 闇の怪物なのに!?」

「炎の剣は聖なる剣ではない。むろん光も持っているが、すべてを焼き尽くして破壊する闇の力も秘めている。剣が光へ向かうか闇へ向かうか、それは持ち主次第なんだ。君が使っていて、剣が一度も闇の顔を見せなかったのなら、それは君自身が剣を正しく使っていたからだな。今いるあの人面火も、炎の剣が呼び出したものではないだろう」

 ロズキの話にフルートはますます驚きましたが、他の仲間たちは逆に納得してうなずきました。フルートは、出会った人の心の善の部分を揺さぶって、次々と仲間にしていきます。魔剣もまた、同じようにして、光の陣営に加わっていたのでした。

 

 すると、人面火が彼らの周囲をゆっくりと回り始めました。炎に浮き上がった顔は、うつろな目で、げらげらと笑い続けています。

「来るぞ!」

 とロズキが言ったとたん、炎が襲いかかってきました。目の前で突然大きく燃え上がって、彼らを包み込もうとします。

「この!」

 とゼンは矢を放ちましたが、矢は炎の中ですぐに燃え尽きました。ロズキは剣で切りつけますが、刃は炎を素通りしてしまいます。

 フルートの炎の剣も、人面火に攻撃することができませんでした。逆に火の力を与えてしまったのか、炎がいっそう大きくなったので、犬たちはあわてて身をかわします。

「散れ!」

 と赤の魔法使いが杖を突きつけました。魔法の光が飛んで、たちまち炎が四散します。

 ところが、次の瞬間、炎はまたより集まって、たくさんの人面火に戻りました。大声で笑いながら、彼らの周りを飛び回ります。

「赤さんの魔法も効かねえのかよ!」

 とゼンがわめくと、ロズキが言いました。

「ここがマグマの上だからだ。火の怪物だから、マグマからいくらでも力を得て復活してしまうのだ」

「奴の火に触れるな。生気を吸い取られて死ぬぞ!」

 と赤の魔法使いが警告します。

 また人面火が襲いかかってきました。複数の火が同時にやってきたので、フルートが叫びます。

「守れ、金の石!」

 とたんに魔石が輝いて、彼らを包みました。人面火が恐れる表情で飛びのいたのを見て、メールとルルが言います。

「こいつら、聖なる光を怖がってるよ!」

「闇の怪物だもの、当然だわ!」

 フルートは一瞬ためらってから、ペンダントをつかんで突き出しました。

「光れ、金の石! 闇の鬼火を消し去れ!」

 とたんに金の石は強く輝きました。マグマより明るくあたりを照らすと、光の中で人面火が蒸発して消えていきました。笑い声が聞こえなくなります――。

 

 金の石が光を収めると、人面火はもう姿を消していました。輝くマグマがうねりながら流れているだけです。

 フルートは、ほっとしてペンダントを手放しました。

 すると、ロズキが意外そうに言いました。

「聖守護石はまだ闇を消滅させることができたんだな。君が全然その力を使わないから、もうできなくなったのかと思っていたよ」

 フルートは曖昧(あいまい)な表情になりました。

「あまり使いたくなかったんです……。どうやら、この場所は熱や毒ガス以外にも危険なものがたくさんあって、ポポロの魔法だけでは足りないようです。金の石はずっとぼくらを守り続けていて、少しずつだけど、光が弱くなってきていたから、あまり強い力は使わせたくなかったんです」

 ペンダントの中央の魔石は、もう明滅をやめて、穏やかに光るだけになっていました。他の者が見ては、光が弱まったようにも感じられませんが、フルートにはそのわずかな違いがわかるのに違いありませんでした。

 ロズキは思わず溜息をつきました。

「聖守護石は、昔は大きくて輝かしい石だったのだ。セイロス様の額でいつも輝いていて、セイロス様が命じれば、数キロ四方を照らして闇の敵をことごとく消滅させることができた。セイロス様が聖守護石を見せただけで、陣営は奮い立って、勇敢に闇と戦うことができたのだが――」

「よせ!」

 と赤の魔法使いが突然さえぎりました。話をする戦士の体が、透き通って消え始めていたからです。戦士はあわてて口をつぐみ、肉体が戻ってくると、渋い顔で首を振りました。

「本当に執拗な呪いだな。光と闇の戦いの様子を少しも語らせないつもりなのか」

「神聖な場所ならば、大丈夫かもしれません」

 とフルートは考えながら言いました。

「デビルドラゴンの呪いは世界全体に広がっているんですが、寺院や神殿といった神聖な場所だけには、呪いを逃れた記録が口伝えで残っていたんです。そういう場所に行けば、ロズキさんも安全に過去の戦いを語れるかもしれません」

「ワン、それじゃミコンの大神殿がいいかもしれない! あそこはユリスナイと信仰に守られた神聖な場所ですよ!」

 とポチが言い、ゼンもうなずきました。

「ここでのことが片付いたら、ミコンに行きゃいいってことか。昔の戦いの様子がわかれば、なんか手がかりも見つかりそうだよな」

 ロズキはまた意外そうな顔になりました。

「それは、私に仲間になれという意味か? これからもずっと君たちと一緒に行動しろと?」

「ロズキさんが嫌でさえなければ」

 とフルートが大真面目で答えると、メールも口をはさんできました。

「幽霊だからって気にすることなんかないさ! 幽霊なら、もっとしつこくて目立ちたがりのヤツを知ってるんだからね」

 うふふふ……と笑いながら現れる幽霊を思い出して、一同は、ぞくりとしました。本当に彼が出てきそうな気がしてあたりを見回しますが、あの女のような笑い声は聞こえてきませんでした。前回、カルドラ国の港でフノラスドに大打撃を受けたので、さすがに今回は追ってこられないようです。

 ロズキは穏やかに笑い返すと、顔と同じくらい静かな声で言いました。

「嬉しいものだな。こんな状態になっていても、それでも、仲間になれと言ってもらえるとは……。何故長い眠りから呼び起こされてここに来たのだろう、とずっと考えていたが、私がいることにも、何か意味はあるのかもしれないな。巡り会うべくして、君たちと巡り会ったのかもしれない」

 すると、赤の魔法使いが言いました。

「俺の仲間たちは、そのことを理(ことわり)に定められた出会いだ、と言う。この世界に、意味のない出来事は何ひとつないということだ」

 それを聞いて、ロズキがまたほほえみます――。

 

 ところが、その時またフルートの胸の上で金の石が明滅を始めました。強く弱く、警告するように輝きが変わります。

「また闇の敵だ!」

 とフルートが叫んだとたん、マグマの湖からしぶきが上がって、炎に変わりました。人の顔が現れて、ゲラゲラと笑い出します。

「また人面火よ!」

「ワン、しつこいなぁ!」

 犬たちは炎をかわしました。フルートがペンダントを突き出して、もう一度聖なる光を浴びせようとします。

 すると、人面火は自分からマグマにまた飛び込みました。煮えたぎるマグマと一緒になって、見えなくなってしまいます。

「逃げた……?」

「いや、隠れたんだ。気をつけろ。どこかから飛び出してきて、襲いかかって来やがるぞ」

 とゼンが首の後ろをなでながら言うと、本当にマグマから炎が飛び出してきました。今度は最初から巨大で、彼らの行く手で高い壁のように燃え上がります。

 おっと、と犬たちはまたかわしました。いくら暑さに平気になる魔法がかかっていても、フルート以外の者は炎に耐えられません。しかも、これは闇の火なので、触れれば生気を吸われて死んでしまうのです。

 すると、炎が形を変えていきました。めらめらと燃えながら上へ伸び、横へ広がり、たちまち人のような形になります。フルートたちは、空中を旋回しながら驚いていました。行く手に立ちふさがっているのは、炎でできた巨人です。

「あれはまさか――!?」

 とフルートは声を上げました。伝説の火の巨人が姿を現したのではないか、と考えたのです。

 ところが、次の瞬間、巨人から火が消えました。後に残ったのは、黒い岩の塊です。やはり、大きな人の姿をしています。

「ワン、溶岩の人だ……」

「マグマの上に立っているわよ?」

 犬たちが驚いていると、巨人が動きました。岩でできた太い腕で、フルートたちに殴りかかってきます。

「危ない!!」

 一同はあわてて四方に散りました――。

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