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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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40.マグマ溜まり

 煙を噴き続けていた裂け目が、赤の魔法使いの魔法と同時に広がり始めました。水晶が光る岩場を砕いていきます。

 すると、新たな裂け目からも、煙と蒸気が噴き上がってきました。みるみる広がって、洞窟の中は真っ暗になってしまいます。

「みんな、もっと集まれ!」

 とフルートは仲間たちに呼びかけました。押し寄せてくる煙の勢いに押されて、金の石の光が狭まっていたのです。彼らを乗せた犬たちがぴったりくっつき合い、そこにロズキも身を寄せます。

 煙で見えなくなった洞窟からは、魔法使いの声が聞こえ続けていました。

「洞窟よ、つながれ! 溶岩の湖よ、我々の前に姿を現せ!」

 魔法使いが言っているのはムヴア語の呪文ですが、フルートたちにも意味がわかります。

 洞窟の中は岩が崩れていく音でいっぱいになりました。やがて、どぉん、と大きな音が響くと、岩と煙がいっせいに上に向かって飛び始めます。

 金の石の光は彼らを守り続けました。大きな音がした瞬間に激しく揺れましたが、その後はまた、しっかりとその場にとどまります。煙や細かい岩のかけらが、風に乗って上へ飛んでいく様子が、光の中から観察できました。フルートは拳を握りしめたまま、流れていく煙を見つめます――。

 

 やがて、風はおさまり、煙も薄れ始めました。岩が砕ける音も、もう聞こえません。

 ゼンが渋い顔でフルートに言いました。

「結局また爆発が起きたじゃねえか。さっき岩栓を吹っ飛ばしたときよりは小さいけどよ」

「しょうがないよ。マグマが上がってきて噴火したりしなかったんだから、それでいいさ」

 とメールが弁護します。

 フルートのほうは、まだ煙でかすむ洞窟を、心配そうに見回していました。

「赤さん! どこですか……!?」

「ここだ。無事につながったぞ」

 と赤の魔法使いが煙の中から現れて言いました。その後ろで煙はますます薄れ、やがて、半ば崩れ落ちた岩場と、その下の真っ赤な輝きが姿を現しました。赤の魔法使いは裂け目の穴を広げる、と言ったのですが、実際には洞窟の床を半分以上吹き飛ばしてしまったのです。崩れた岩が赤い輝きの中に落ちて、湯に落とした氷のように溶けていきます。

「マグマだ……」

 と一同は思わず言いました。熱せられてどろどろに溶けた岩の湖です。高温を発しているのでオレンジがかった赤に光り輝いていますが、表面にはいたるところに黒い塊も浮いていて、絶えず溶けたり崩れたりしながら、大きな流れを作っていました。崩れた穴の向こう側へと流れていきます。

「すごい」

 と犬たちは言いました。マグマはまるで溶けて煮えたぎった飴のようでした。流れの淀んでいる場所では、ふつふつと大きな泡が湧き上がり、弾けては白い煙をたてています。

「マグマは地面のもっと深いところから湧き出しているみたいだな……。こうして流れていって、ザカラスの西の火の山から地上へ噴き出しているんだ」

 とフルートは言いました。うねり流れるマグマは、輝く巨大な蛇のようでした。それがはるかな火口目ざして火道を駆け上がり、地上に噴火を起こしているのだと思うと、壮大さとエネルギーのすさまじさに、目眩(めまい)が起きそうになります。

 メールは前に座るゼンに尋ねていました。

「ねえ、あのマグマって、どのくらい熱いわけ? 落ちたら一瞬で蒸発しちゃうかな?」

「そこまではいかねえ。燃える火と同じくらいの温度だからな。ただ、こんなに大量だと、いくらポポロの魔法で守られていても、落ちたらただじゃすまねえだろう。魔法の鎧を着ているフルートだって、やばいと思うぞ」

「落ちたらたちまち燃えちゃう、ってわけか。怖いね」

 とメールが真顔になります。

 ロズキはマグマではなく、フルートの背中の剣を見つめていました。

「おまえと出会って戦ったのも、こんな場所だったな……」

 と、炎の剣へ、そっとつぶやきます。

「入口は開いた。これからどう行動する?」

 と赤の魔法使いが尋ねてきました。

 フルートは洞窟の底の岩場とマグマ溜まりの間に本当に空洞があることを確認していました。ポチの背中から空洞を指さして言います。

「あそこを行く。どこかに必ず闇を吐き出している大元があるはずなんだ。そこを見つけて――たたきつぶす」

 優しげな顔とは裏腹な強い声に、ロズキはまた驚いた表情になりました。仲間たちのほうは、当然のことのように、おう! と答えます。そんな彼らをマグマが真っ赤に照らしています――。

 

 風の犬のポチとルルは水晶の洞窟からマグマの湖へ降りていきました。その後ろを、ロズキと赤の魔法使いがついていきます。猛烈な熱を放っている場所ですが、魔法に守られているので、暑さは感じませんでした。ただ、輝きがあまりに強いので、まぶしさに閉口します。何があるのか見極めることもできないので、とうとう赤の魔法使いがまた杖を振りました。あたりがほんの少し陰って、ようやく周囲が見渡せるようになります。

 そこは新しい洞窟の中でした。天井は岩でできていますが、下をうねり流れていくのは灼熱のマグマです。マグマの湖面と天井の間にはかなりの高さがありましたが、時折、マグマの中から大きな泡が湧き出してきては弾けるので、油断はできませんでした。マグマも、表面から立ち上る煙も、かなりの速度でひとつの方向へと流れています。

「あっちがザカラスの火の山の方角か」

 とゼンは言いました。そちらへマグマや煙を送り出しているものを探しますが、マグマ溜まりの洞窟は広大なうえに、煙もたちこめているので、ゼンの視力でも見通しが効きません。

 ポポロもフルートの後ろでまた魔法使いの目を使っていましたが、やがて、あっ、と小さく叫びました。

「急によく見えなくなったわ。闇が濃くなったみたい……」

 とたんに、ルルも飛びながら鼻を鳴らして顔をしかめました。

「本当。急に闇の匂いが濃くなったわよ。風みたいに前から押し寄せてきたわ」

「ワン、でも、風は後ろから吹いてますよ。押し寄せてくるってのは――」

 とポチが首をひねります。

 

 その時、メールが行く手を見て叫びました。

「何か出てきた!」

 マグマの表面が大きくうねると、飛び散ったしぶきが空中に留まったのです。そのまま燃える炎に変わります。炎はマグマへ戻っていきません。

 一同が不思議に思っていると、今度はフルートの胸の上で、魔石が明滅を始めました。金の光が、強く弱く、また強くと、明るさを変えます。

「闇の敵だ!!」

 とフルートは叫んで、背中から炎の剣を引き抜きました。ゼンは百発百中の弓矢を、赤の魔法使いはハシバミの杖を、ロズキは腰の剣を構えます。

 マグマはうねり続け、またしぶきが飛び散って、いくつもの炎に変わりました。空中に浮いたまま漂って、一行の周りに集まってきます。やがて、彼らはたくさんの炎に取り囲まれてしまいました。フルートの胸で、金の石がいっそう激しく明滅します。

 すると、浮かんだ炎が揺れ始めました。炎の表面が歪んで、そこに何かが浮かび上がってきます。一同は思わず息を呑みました。炎の表面に現れたのは、不気味な人の顔でした。うつろな目で彼らを見つめて、いっせいに笑い出します。

「いかん、人面火(じんめんか)だ!」

 とロズキは警告の声を上げました――。

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