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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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39.思案

 二時間後、一行は疲れ果てて、水晶の洞窟の中に座り込んでいました。

 洞窟の下にあるマグマ溜まりへ降りていく道を探し回ったのですが、どうしても見つけることができなかったのです。誰もが口数少なくなって、腰を下ろしたり、ぐったり岩に寄りかかったりしていました。魔法使いの目を使ったポポロは特に疲労が激しくて、座ったフルートの脚に頭を載せて横たわっていました。フルートが心配そうにそれを見ています。

 腕組みして考え込んでいたロズキが、赤の魔法使いに尋ねました。

「これ以上調べようと思ったら、魔法でマグマの中に飛び込むしかないのではないか? とはいえ、高温のマグマだから、私の魔力でもとてもそこまでのことはできない。君はどうなんだ?」

「俺自身はともかく、他の者は難しいな。マグマの中では息をすることもできないだろう」

 と魔法使いが答えると、ポチがメールを見上げました。

「ワン、ぼくたちは人魚の涙を飲んでいるから、水の中でも息ができるけど、マグマではどうなんですか? やっぱり息はできますか?」

 メールは首を振りました。

「無理だと思うなぁ……。マグマって溶岩だろ? 水じゃないもんね」

 全員が黙り込んでしまいます。

 

 水晶の洞窟は相変わらずきらめく結晶でいっぱいでした。その間から、赤く染まった煙が噴き出し、天井の穴に向かって上っていきます。煙はこれから火道の中を長い間上昇して、火口から外へ出て行くのです。

 それを見上げながら、フルートが言いました。

「あの煙には闇が含まれている。この下では闇がかなり濃くなっているようだ。やっぱり何かがマグマと一緒に闇を送りだしているんだと思うんだけど、ポポロの目では原因が見つけられなかったんだ」

 赤の魔法使いがうなずきました。

「俺が透視しても、やはりよくわからなかった。俺は闇には邪魔されないはずなんだが。どうもマグマ溜まりのどこかに、透視をさえぎるものがあるような感じがする。何かが潜んでいるのかもしれない」

 すると、ルルが言いました。

「私とポチが調べてきましょうか? 風の犬に変身して煙が出てくる隙間をくぐれば、下のマグマ溜まりに降りられると思うわよ」

「下に何が潜んでいるかわからない状況なのに、君たちだけで行くのは危険だ。何かあっても、ぼくたちは助けに行けないんだから」

 とフルートが難しい顔で答えて、再び沈黙が訪れました。誰もがどうしていいのかわからなくなって、考え込んでしまいます。

 

 すると、急にゼンが、ぴしゃりと自分の膝をたたいて立ち上がりました。

「行き詰まったときに、ぐだぐだ考えたってしょうがねえぜ! こういうときには、まずは食え、だ! 腹が減ってたらいい考えも浮かばねえんだからな。飯にしよう、飯に!」

 と自分の荷袋からまた携帯食を出して、全員へ配り始めます。先に火道の横穴で一度食事にしていたので、途中で数が足りなくなりますが、すぐに赤の魔法使いが追加分を出して、全員に配ってくれました。ポポロもどうにか起き上がって、自分の分を受けとります。

 一同が干し肉やビスケットを食べ、水筒を回し飲みしていると、赤の魔法使いがまた杖を振りました。

「ついでにこんなものはどうだ?」

 とたんに、目の前の地面に分厚い生肉の切り身が何枚も現れたので、フルートたちは驚きました。それが岩の上でじゅうじゅうと音を立て始めたので、またびっくりします。

「肉がひとりでに焼けてるよ!?」

「火もねえのに! これも赤さんの魔法か!?」

「いいや。この場所が暑いせいだ。このあたりは文字通り火の上だからな」

 と魔法使いが笑います。

 肉がすぐにいい匂いをたて始めたので、おっとっと、とゼンがあわててひっくり返しました。片面に、こんがりといい焼き色がついていたので、すかさず荷袋から塩を出して振りかけます。

「なんとも驚きだな。こんな場所で焼き肉が食べられるとは」

 とロズキはあきれながら感心しました。フルートたちのほうは、思いがけないご馳走に大喜びです。

 

 腹いっぱい食事をすると、本当に彼らは元気になりました。改めて車座になって、話し合いを再開します。

 一番最初に口火を切ったのは、なんとポポロでした。真剣な顔でこう言います。

「あたしたちは急いだほうがいいと思うわ……。ここは地下深い場所だから外の様子が全然わからないし、あたしも疲れて透視できないんだけれど、あたしたちが降りてきた時間から考えて、きっと地上ではもう夜更けなんだと思うの。ぐずぐずしてると、夜明けの時間が来て、あたしの魔法が切れてしまうわよ……」

 一同は顔色を変えました。彼らの大半は、ポポロの魔法のおかげで地下でも無事でいるのです。魔法がなくなれば、熱と有毒ガスで即死してしまいます。

「だが、どうやって急ぐ? これより下へは降りられないし、降りてもそこはマグマの海なのだぞ」

 とロズキがいいました。

「マグマ溜まりの上には空洞があるの……。ここからでは透視できないけど、直接そこに行けば、きっと何かが見つかるわ」

 とポポロは言い張りました。仲間たちがここで死んでしまっては大変なので、必死になっています。

 赤の魔法使いが考え込みながら言いました。

「やはり犬たちにマグマ溜まりへ降りてもらおう。俺も二人までなら一緒に抱えて下へ飛べる。下で風の犬と合流すれば、飛んで調べることができるだろう」

「赤さんに連れていってもらう二人って、いったい誰になるのさ? あたいたちは五人いるんだよ?」

 とメールは口を尖らせました。自分はきっと後に残されてしまうだろう、と予想がついたのです。

 いや、とフルートは答えました。

「誰も後には残らない。この下へは全員で行くんだ――。万が一、マグマが逆流してきたら大変だと思っていたんだが、時間切れが迫っているならしょうがない。赤さん、ここの床を壊そう。穴を開けて、そこから降りていくんだ」

「ワン、こことマグマ溜まりをつなげるんですか!?」

 とポチが驚いて声を上げました。

「そんなことして、岩栓を砕いたときみたいに、また爆発が起きたらどうする気!?」

 とルルも叫びます。先ほどと違って、ここはマグマのすぐ上です。爆発をきっかけに噴火まで起きるかもしれません。

 けれども、フルートは言いました。

「ここの煙は、岩栓があった場所の煙より勢いが弱い。たぶん大丈夫だ。それに、ぼくたちはマグマ溜まりを調べて、闇の噴火を停めなくちゃいけない。ぐずぐずしている暇はないんだ」

 ロズキはまたあきれました。

「一度撤退する、ということは考えないのか? 外へ戻って準備を整え、改めて調べに来るべきだろう。戦場でも、体制が十分整わないままに戦いを始めるのは敗北の元だぞ」

 フルートは首を振りました。

「マグマ溜まりに何かが潜んでいたら、ぼくたちがここまで来たことに気づいているかもしれない。戻って準備を整えている間に、山に侵入できなくなるかもしれないんだ。それに、ぼくたちが遅くなるほど、闇の灰は世界に降っていく。本当に、ぐずぐずしている暇なんかないんだ」

 きっぱりと言い切るフルートは、誰が何と言っても考えを曲げない、あの頑固な口調になっていました。

 

 赤の魔法使いはおもむろに立ち上がりました。

「わかった。煙が出てくる穴を広げて、この下とつなげよう。おまえたちは空に浮いているんだ。そのほうが危険が少なくなる」

 おいおい、とロズキはまたあきれましたが、フルートは風の犬に変身したポチに飛び乗って、全員に呼びかけました。

「ぼくの周りに集まれ。金の石の守りの中に入るんだ」

 仲間たちはすぐにそれに従いました。フルートの後ろにはポポロが、風の犬のルルの上にはゼンとメールが飛び乗ります。すると、彼らを淡い金の光が包みました。金の石が守り始めたのです。

 ロズキは驚いてつぶやきました。

「どうしてみんな、こんな指示に従うんだ? どう考えたって無茶なのに」

 横にいた赤の魔法使いが聞きつけて答えました。

「彼らが金の石の勇者の一行だからだ。いつだって、彼らは無茶を承知で困難と闘って、世界を守ってきた」

「あの歳で? 彼らはまだ子どもだろう」

 とロズキは言って、また驚きました。まだ十代半ばの少年少女たちが、いつの間にか大人のような表情に変わっていたからです。特に、フルートはとても厳しい顔で、煙を吹き出す岩場を見つめていました。もう少女のようには見えません。

 すると、ゼンが手招きしてどなりました。

「早く来いよ、ロズキ! あんたがこっちに来ねえと、赤さんが魔法を使えねえだろうが!」

 戦士は鼻白むと、あわてて彼らのほうへ走って、金の光の中に入りました。

「いいぞ!」

 とフルートが赤の魔法使いへ言います。

 魔法使いは赤い煙の吹き出す裂け目へ細い杖を突き出すと、短く呪文を唱えました。

「砕けろ!」

 とたんに、裂け目からひびが広がって、岩の床が砕け始めました――。

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