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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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32.勇者の仲間

 フルートたちは横穴を出て、再び火の山の火道を下り始めました。ポチに乗ったフルートとポポロ、いにしえの戦士のロズキ、ルルに乗ったゼンとメール、しんがりを赤の魔法使いという順番で降りていきます。

 メールはゼンの後ろに座っていましたが、背中にへばりついてこなかったので、ゼンが振り向きました。

「おい、平気なのか? ここはまだ地面の中だぞ」

 メールは細い肩をすくめ返しました。

「コーロモドモとか、いにしえの戦士の幽霊とか、あんまりいろんなことがあって、びっくりの連続だったから、なんだか怖いのなんて忘れちゃったんだよ。まあ、今でもあんまり気持ちよくはないけどさ。我慢できないほどじゃなくなったよ」

「あら、よかったわね」

 とルルが言います。一種のショック療法だったのですが、彼らはそんなことばは知りません。メールがまた前のように元気になったことを喜びながら、縦穴の中を降りていきます。

 

「そういえば、ぼくたちの名前をちゃんと教えていませんでしたね」

 と言い出したのはフルートでした。仲間たちを順にロズキに紹介していくと、幽霊の戦士は驚きました。

「ドワーフだって? どこをどう見ても人間だろう? それに、海の王の娘ということは、海の一族なのか? まさか、彼らがこんな内陸に来られるはずがない! それに、彼女が天空人だったなんて! 風の犬がいるからには天空人もいるのだろうと思ったのだが、このお嬢さんだとは思わなかった!」

 天空人というのは、天空の民の古い呼び方のようでした。

 ゼンが下唇を突き出して言い返しました。

「見た目はどうでも、俺はドワーフだし、俺たちは全員金の石の勇者の仲間なんだよ。俺たちはこれまで何度も魔王をぶっ飛ばして、影のデビルドラゴンを追い出してきたんだからな」

 ロズキは頭をかきました。

「や、これは失礼。決して馬鹿にしたわけではないんだ――。ただ、実に風変わりな一行だと思ったんだよ」

「風変わりと言うのはその通りだと思います。いつだって、ぼくたちは勇者の一行とは思ってもらえませんから」

 とフルートは言いました。少女のような顔立ちに、穏やかな表情と穏やかな声。本当に、お世辞にも世界を救う勇者には見えないフルートです。

 すると、ロズキは優しい声になって話しかけました。

「金の石の勇者は大変じゃないかい? 正義の味方と言えば聞こえはいいけれど、実際には、聖守護石を持つ者は非常な重責を担うことになるからね――」

「大変ですね」

 とフルートは答えました。こちらは気負うことも嘆くこともない、淡々とした口調です。

「だけど、金の石の勇者が戦わなかったら、世界中が闇の竜に破壊されてしまいます。ぼくの大切な人たちも、みんな殺されてしまうでしょう。そんなことをさせるわけにはいかないから、みんなで戦っているんです」

「まだ若いからって馬鹿にするなよ! こう見えたって、俺たちは一角当千の戦士たちなんだからな!」

 と気炎(きえん)を上げたのはゼンでした。風の犬のポチがあきれて言います。

「ワン、それを言うなら一騎当千ですよ。ゼンったら、一攫千金(いっかくせんきん)とごちゃ混ぜにしてるんだからなぁ」

「うるせえ! 人の揚げ足を取るんじゃねえ、生意気犬!」

「ワン、ロズキさんが二千年の間にことわざが変わったと誤解したら大変だから、言ってるんですよ。現代の人がみんなゼンみたいに無知だと思われたら、もっと大変ですしね」

「な、なんだとぉ!? もういっぺん言ってみろ、馬鹿犬!」

「ワン、ぼくは馬鹿なんかじゃありませんよ。単純短気のゼン!」

 ゼンとポチが言い合いを始めたので、火道は急に賑やかになってきました。

「ちょっと! うるさいわよ!」

「やめなったら! ロズキさんに笑われるじゃないか!」

 とルルやメールも加わって、あたりは本当に騒々しくなります。

 

「すみません、うるさくて」

 とフルートが謝ると、ロズキは、いや、と言ってから、改めて少年を眺めました。

「君は本当に優しいようだな。同じ金の石の勇者でも、セイロス様とはずいぶん雰囲気が違う」

「あれ、セイロスって厳しかったの?」

 たった今までゼンたちを叱っていたメールが、あっという間にこちらの話にまざってきました。

「いいや、非常に思いやりのある、寛大なお方だった。ただ黙って立っているだけで周囲を威圧するような高貴さがあったから、その前で騒ぐような真似はできなかった。誰もが自然とセイロス様の前にひざまずいて、頭を垂れていたのだ」

「あんたもかよ、ロズキ? あんたはセイロスの右腕だったんだろう?」

 とゼンも話に加わってきました。

「無論、私もだ。セイロス様に何か意見することなど、とんでもないことだからな」

 とロズキが答えたので、仲間たちはたちまち納得のいかない顔になりました。

「どうしてさ? セイロスって、そんなにいつも立派で正しい人間だったわけ?」

「ワン、セイロスってなんだかオリバンに似ている気がするけど、オリバンは近寄りがたくなんかないですよね」

「そうね。ちゃんと私たちと目を合わせて話してくれるわ」

「オリバンというのは?」

 とロズキが不思議がったので、赤の魔法使いが答えました。

「ロムド国の皇太子殿下で、俺たちの未来の王だ。お立場はセイロスと同じだな」

「へぇ。とすると、君たちはその皇太子に仕えているというわけなんだな。この時代では、皇太子はあくまでも皇太子で、金の石の勇者はその下で戦っているわけか。なるほど――」

 一人で納得する戦士に、ゼンたちはまたいっせいに食ってかかりました。

「違う! 俺たちはオリバンの家来なんかじゃねえ!」

「あたいたちはただの仲間! 友だちだよ!」

「ワン、ぼくたちはみんな金の石の勇者の仲間なんです!」

「オリバンもその一人なのよ! 私たちの主君なんかじゃないわ!」

 その剣幕にロズキは目をぱちくりさせました。

「家来ではない? では、君たちは誰に仕えて戦っているんだ? ――君が彼らの主君なのか?」

 とフルートのほうを見たので、フルートは首を振りました。

「いいえ。ぼくたちは誰にも仕えていないし、誰も家来にしていません。ぼくたちはみんな、金の石の勇者の仲間っていう友だちなんです」

 フルートの後ろではポポロがうなずいています。

 

 ロズキはまた頭をかくと、赤の魔法使いを振り向きました。

「この時代の金の石の勇者は本当に変わっているな。これで闇の竜と戦えるとは、正直とても信じられないが――」

「本当だ!!」

「あたいたちは何度もデビルドラゴンを撃退したんだってば!!」

 とゼンやメールがまた反論したので、わかったわかった、とロズキは手を振りました。騒ぐ子どもをなだめるような調子です。

 赤の魔法使いは静かな声で言いました。

「昼寝中の獅子は怖そうには見えない、とはムヴア族のことわざだ。おまえもそのうちに見ることになるだろう」

「見るって何を?」

 とロズキは聞き返しました。ゼンやメールやルルが怒ってわめいているので、赤の魔法使いのことばがほとんど聞き取れなかったのです。

「目覚めた獅子がどれほど強いかを、だ」

 と魔法使いは答えましたが、やっぱりロズキには聞こえていませんでした。わかった、信じるから怒らないでくれ、とゼンたちをなだめるのに必死になっています。

 フルートも困惑して仲間たちを止めようとしていました。そんな少年へ目を向けて、赤の魔法使いはそっと微笑しました――。

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