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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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29.とまどい

 火の山の地下へ続く火道に、フルートたちは浮いていました。風の犬のポチの背にはフルートとポポロが、同じく風の犬のルルの背にはゼンとメールが乗り、赤の魔法使いは少し離れた場所に自分の魔法で浮いています。

 彼らの目の前には戦姿をした青年も浮いていました。要の国の領主で、金の石の勇者のセイロスの右腕だと言います。

 ゼンがとまどいながらフルートに尋ねました。

「おい、つまり――どういうことなんだ? セイロスって言やぁ二千年も前の人間だぞ。どうしてそんな昔の時代のヤツが姿を現したんだよ?」

「どうしてなのかは、ぼくにもよくわからない。だけど、ここに飛び込む前に炎の馬が言っていたじゃないか。あるところまで進めば案内人が現れる、って。それがこの人のことなんじゃないかな」

 とフルートが答えます。

 けれども、ロズキと名乗った戦士は、彼らに負けないほど、とまどった顔をしていました。案内人と言われても、ぴんと来ていない様子です。

 

 すると、赤の魔法使いが口を開きました。ムヴア語で彼らに話しかけてきたので、ポチが通訳します。

「ワン、ぼくたちが火山の奥深くまで来たからじゃないか。火山が炎の剣に力を与えて、前の持ち主を呼び出したのかもしれない、って」

 呆然としていた戦士が、赤の魔法使いを見ました。その顔をしげしげと見つめて言います。

「瞳の形が違う……。あの時、我々をはめようとしたムヴアの魔法使いとは別人だったのか。だが、何故まだムヴア語を話しているのだ? 味方であれば、天のことばを話すべきだろう」

 言うが早いか、戦士は赤の魔法使いへ手を向けて呪文を唱え始めました。ポポロが、はっとします。

「ことばを変える魔法――!」

 赤の魔法使いはその場から飛びのこうとしました。フルートがポチと共に前に飛び出し、丸い盾を突き出します。とたんに、その表面で光が散りました。戦士が繰り出した魔法を、魔法の盾で跳ね返したのです。

「何をする!? 彼が我々のことばを話せるようにしただけだぞ!」

 と叫んだ戦士へ、フルートは怒って言い返しました。

「あなたこそ勝手なことをするな! どのことばを話すかは、その人自身が選んで決めることだ!」

 ゼンとメールも飛んできて文句を言いました。

「赤さんはことばを変えられたら魔法が使えなくなっちまうんだぞ!」

「あんたって、親切そうだけど、かなり思い込みが激しいよね! 親切の押し売りだ、って言われないかい!?」

 戦士は鼻白んだ顔になりました。少年少女や赤の魔法使いを見回し、やがて、きまり悪そうに頭をかきます。

「善にはやりすぎるのが欠点だ、とは、よくセイロス様にも叱られる……。確かに、一方的にこちらの都合を押しつけるのは良くないことだな。我々が彼のことばをわかるようになれば良いわけだ」

 そう言って、戦士は自分とフルートたちの上へ手を振りました。聞こえてきたことばは、ポポロの呪文にとてもよく似ていました。燃える炎のような色の光が、彼らの周りに飛び散ります――。

 

 光が消えると、戦士は赤の魔法使いに話しかけました。

「どうだろう? あなたのことばをわかるようにしたつもりだ。何か話してもらえるだろうか?」

「ムヴアのことばを理解する魔法を使ったのか。おまえはかなりの魔法使いらしいな」

 と赤の魔法使いが言いました。通訳がなくてもことばが理解できたので、フルートたちはびっくりします。

「私たちは天空人と共に戦っている。魔法は彼らから教わったのだ」

 と戦士は答え、またとまどった表情になってフルートを振り向きました。

「君は私を二千年前の人間だと言ったな……。今はいつなのだ? ここはどこだ? 何故私はここにいるのだろう?」

「あなたがどうしてここにいるのか、それはわかりません。赤さんが言うように、炎の剣があなたを呼び出したのかもしれないけれど、どうしてそんなことができたのか、それもよくわかりません。あなたがいた時代から今までに、約二千年の時間が過ぎています。ここは南大陸の火の山の地下。ぼくたちは、ロムド国を闇の噴煙から守るために、火山の大元へ行く途中なんです」

 ロムド国? と戦士はまた不思議そうな顔になりました。国の名前に聞き覚えがなかったのです。フルートは話し続けました。

「要の国の今の呼び名です。ぼくはそこで生まれて育ちました。二千年前、要の国は滅びました。王のいない時代が千年以上も続いた後、同じ場所にロムド国ができたんです――」

 戦士は目を見張りました。信じられないようにフルートのことばを繰り返します。

「滅んだ……? 要の国が滅んだだと……?」

 ゼンたちは戦士がなんだか気の毒になって思わず目をそらしましたが、フルートだけはじっと戦士を見つめ続けました。誰かが彼に知らせなくてはならないことだとわかっていたのです。

 戦士は尋ね続けました。

「何故だ……? 国王陛下が亡くなれば、セイロス様が後を継いで、要の国の次の王になるはずなのに。セイロス様はどうなさったのだ……?」

 それに答えたのは赤の魔法使いでした。

「初代の金の石の勇者は、闇の竜を倒そうとして、願い石の誘惑に負けたと聞いている。そのために要の国は滅んだんだ」

 願い石……と戦士はまたつぶやきました。その顔がみるみる青ざめ、体中が震え出したので、フルートたちはあわてました。戦士が今にも卒倒するのではないかと心配します。

 けれども、戦士は自分で自分の頭をつかみました。震える両手で顔をおおい、声を振り絞ります。

「そうだ……。セイロス様は願い石に負けてしまわれた……。金の石の勇者は永久に失われたのだ……」

 一行は本当に驚きました。フルートが思わず叫びます。

「あなたはセイロスが負けたときのことを知っているんですね!? その場に居合わせていたんだ!」

 この人物が、二千年前に世界の存亡をかけて繰り広げられた戦いの証人なのだということに、ようやく気がつきます。

 

 すると、戦士は震えながら言い続けました。

「そうだ……思い出した……。セイロス様を失って、我が軍は次々に闇に敗れていった。私もあの時に死んだのだ……」

 顔をおおった両手の間から、むせび泣きが洩れ出しました。

「無念……無念だ……。我が軍は闇に敗れてしまった……。我々は、かの竜から世界を守ることができなかった……」

戦士のたくましい背中が、泣き声に合わせて震え続けます。

 フルートたちは困ってしまいました。ゼンが頭をかきながら言います。

「あのなぁ――えぇと、ロズキだったよな? セイロスはいなくなったけどよ、光の軍勢は結局デビルドラゴンに勝ったんだぜ。ヤツは今は世界の果てに幽閉されてらぁ。まあ、そこから影で抜け出してきて、ちょくちょく世界に悪さしやがるから、俺たちがそのたびにぶっ飛ばしてるけどよ。とにかく、世界はあいつに負けたりなんかしてねえぞ」

 戦士は顔を上げました。

「デビルドラゴンというのは、かの竜のことか――? あいつを世界の果てに幽閉しただと? どうやって!?」

「それをぼくたちも知りたくて、ずっと旅をしているんです」

 とフルートは答えると、心の中でそっと溜息をつきました。この人に聞けば、闇の竜を倒したときの様子や方法がわかるのではないかと考えたのですが、どうも期待通りにはいかないようです。

 すると、赤の魔法使いが言いました。

「どうやら俺たちは少し話をしたほうがいいようだ。ここで休憩することにしよう」

 魔法使いがハシバミの杖を振ると、火道の岩壁に大きな横穴が現れました。先にコーロモドモが潜んでいた穴を、魔法で広げたのです。

「そういや、確かに腹が減った! ずいぶん長いこと下りてきたんだし、ちょっと休もうぜ!」

 とゼンが言い、全員は横穴へと移動していきました――。

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