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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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第9章 古(いにしえ)

28.剣の主(あるじ)

 「ほ、炎の剣の主(あるじ)だぁ!?」

 とゼンは大声を上げ、フルートたちは仰天しました。彼らの前には銀の鎧に赤い胸当てをつけた青年が浮いていました。肩まで届く髪は赤褐色で、顔つきは穏やかですが、戦士らしいたくましい体格をしています。右手に当然のことのように炎の剣を握っているので、メールが食ってかかりました。

「その剣はフルートのだよ! あんたは何者さ!? 剣から火と一緒に急に現れたりして――!」

 当のフルートのほうは、驚きすぎて何も言えずにいました。呆然と青年を見つめてしまいます。

 ロズキと名乗った青年は不思議そうな顔をしました。

「君の剣だって? 何かの間違いだろう。これは炎の剣だ。内に火の魔力を秘めている魔剣で、常人に使えるような武器じゃないんだよ」

「そんなことは知っているわ! でも、それはフルートの剣なのよ! だって、フルートは金の石の勇者なんだから!」

 とルルが言ったとたん、青年は表情を変えました。笑うように細められていた目が、いきなり鋭く彼らをにらみつけます。

「おまえたちは何を言っている!? 金の石の勇者の名を騙る(かたる)とは何事だ! 子どもであっても承知せんぞ!」

 これにはゼンもメールもルルも、ポチまでもが腹を立てました。青年に向かって言い返します。

「てめぇ! いくら助けてくれたからって、なんだよ、その言い方!」

「フルートは金の石の勇者だよ! あんたこそ何様さ!? 偉そうに!」

「そうよ! 炎の剣をフルートに返しなさいよ!」

「ワン、それはフルートの剣ですよ!」

 フルートはやっぱり何も言えませんでした。この人はいったい誰だろう、と謎の戦士を見つめ続けます――。

 

 すると、そんなフルートを後ろからポポロが呼びました。

「フルート! 赤さんの血が停まらないわ! 早く手当をしないと……!」

 フルートは我に返りました。振り向くと、ポポロは赤の魔法使いにかがみ込んで、必死で魔法使いの胸に布を押し当てていました。魔法使いは、ぐったりしたまま身動きしません。白い布はしたたるほど真っ赤に染まっています。

「赤さん!」

 とフルートは魔法使いに飛びつきました。あわてて首からペンダントを外して、金の石を押し当てます。魔法使いの体からたちまち傷が消えていきました。猫のような瞳が開きます。

 身を起こした赤の魔法使いに、フルートは謝りました。

「手当が遅くなってすみません。大丈夫ですか?」

「ダ。トウ」

 と魔法使いは答えました。大丈夫だ、ありがとう、と礼を言われたように、フルートは感じました。

 ところが、そこへあの戦士が身を乗り出してきました。こともあろうに、炎の剣を構えながら言います。

「それは確かに聖守護石! だが、その大きさはなんだ!? それに、そこにいるのはムヴアの魔法使いではないか! 何故、敵と共にいる!?」

 敵!? とフルートたちはまた驚きました。本当に、何がなんだか、まったく訳がわかりません。

 剣を向けられて、赤の魔法使いはポチの背中から飛び上がりました。フルートたちから離れた場所へ飛んで叫びます。

「ナ、ローホー! レ!」

 それを聞いてポチが、えっ? と言ったので、フルートたちは尋ねました。

「赤さんはなんだって!?」

「いったい何がどうなってやがる!? 説明しろよ、説明を!」

「ワン、赤さんがあの人に、おまえは幽霊だ、立ち去れ、って……」

 幽霊!!? とフルートたちはまた驚きました。本当にもう、何がどうなっているのか、彼らには全然わかりません。

 炎の剣を握った戦士が、赤の魔法使いに言いました。

「私を幽霊とは、聞き捨てならないことを言う。おまえはここでまた罠を仕掛けているのか。我々の邪魔をするというのであれば、この場で切って焼き尽くすぞ!」

「レ、ローホー! ワ、ナ、イ、ナイ!」

 と魔法使いは言い続けますが、ことばは戦士には通じていませんでした。消え去れ! と戦士が言って赤の魔法使いへ飛び、剣を振り下ろします。切りつけたものを一瞬で焼き尽くす、炎の剣です。

 

 すると、戦士の前にフルートが飛び出してきました。背後に赤の魔法使いをかばい、左腕の盾で剣を受け止めます。む? と戦士は驚きました。見た目は小柄で華奢な少年なのに、大人のような力強さで剣を停めたのです。

 フルートは戦士をにらみつけました。

「赤さんはぼくたちの友だちだ。あなたはぼくを助けてくれたけれど、赤さんを傷つけるというのであれば、ぼくは絶対に承知しません」

 けれども、フルートは右手に武器を持っていませんでした。ロングソードはまだ背中にありますが、それを引き抜こうともしません。

 戦士は一度剣を引きました。目を細めると、痛ましそうな表情をします。

「敵の術にはまっているのか。自分が何をしているのか、わからずにいるのだな」

 戦士はおもむろに剣を頭上に振り上げていきました。炎の弾を撃ち出す構えです。狙っているのはフルートたちではなく、赤の魔法使いのほうでした。それに気づいた魔法使いがまた火道の中を飛びます。フルートたちを巻き込まないように離れていったのです。

 フルートは即座に上昇しました。戦士へ腕を伸ばして、振り上げた剣の刃をがっきとつかみます。

 戦士は驚きました。

「馬鹿、何をする!? これは切りつけたものを燃やす火の剣だぞ! いくら籠手(こて)をつけていても、火がおまえを――!」

 けれども、フルートの体は火を吹きませんでした。剣を手で押さえたまま、青い瞳で戦士をにらんで言います。

「炎の剣を返してください。これはぼくの剣だ」

 なに!? と戦士は言い、フルートの背中に黒い鞘があるのを見て、また驚きました。

「何故、おまえがその鞘を持っているのだ!? 炎の剣は、剣が自分の主と認めた人間にしか使えないのだぞ!」

「だから、フルートが持ち主だ、って言ってんだろうが! こいつは炎の剣に選ばれた剣の主だ! 横から現れて剣の持ち主を名乗ってるおまえこそ、いったい何者なんだよ!?」

 とゼンがどなりました。その後ろと下で、メールとルルが大きくうなずいています。

 

 すると、フルートの後ろからポポロがまた言いました。

「この人、本当に幽霊よ……。大昔に死んだ人の魂が、この場所に呼び出されて、実体になっているの」

 えええ!!? とフルートたちは仰天しました。どこからどう見ても生身の人間の戦士を見つめてしまいます。

 驚いたのは戦士も同じでした。自分自身を見回して言います。

「幽霊だと? この私が? そんな馬鹿な……!」

 フルートは、はっと気づいた顔になりました。何かを思い出すように少し考えてから、こう言います。

「ぼくがエスタの火の山の地下で炎の剣と出会ったときに、剣の化身のゴブリンは、自分が誰かに仕えるのは二千年ぶりだ、と話していた。ひょっとして、あなたは炎の剣の前の持ち主なんじゃないですか? ずっと昔の――今から二千年前の」

「ワン、二千年前って、まさか!」

 とポチが声を上げました。ひとつの特別な出来事を示しているキーワードです。フルートはうなずき、戦士へ尋ね続けました。

「もう一度、あなたの名前を聞かせてください。それと、あなたの身分や国の名前も。あなたは先代の金の石の勇者をご存じなんじゃありませんか?」

 先代? と戦士はまた驚いたように繰り返しました。フルートたちを見回し、やがて質問に答えます。

「私の名前はロズキ。要の国の青嵐(せいらん)の地の領主で、光の軍団の一番隊長だ。金の石の勇者であるセイロス様からは右腕と呼んでいただいている」

 やっぱり、とフルートはつぶやき、仲間たちは呆気にとられてしまいました――。

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