「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第18巻「火の山の巨人の戦い」

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26.コーロモドモ

 「気をつけろ、みんな! 舌をかわせ!」

 とフルートは言いながら、ポチと一緒に飛び回りました。

 怪物のコーロモドモはワニのような口を開け、長い舌でフルートたちの後を追いかけていました。ルルが何度も風の刃で断ち切ったのに、それでもどこまでも伸びてきて、彼らに襲いかかろうとします。

「ちっくしょう! 必ず最初にたたいてきやがるな!」

 とゼンがルルの背中でわめいていました。コーロモドモはまず鞭のような舌の一撃を繰り出し、獲物が岩にたたきつけられて動けなくなったところを、舌で絡め取って呑み込むのです。防具をつけていないゼンやメールは、なかなか近づくことができません。

 赤の魔法使いも杖を握りしめたまま攻めあぐねていました。コーロモドモには魔法攻撃が効きません。飛び回って舌をかわしますが、それ以上は何もできずにいました。

 フルートは怪物を見据えて剣を握り直しました。

「ポポロ、しっかりつかまってるんだ。ポチ、あいつに近づけ!」

「ワン、わかりました!」

 ポチはうなりを上げて飛びました。飛んでくる舌をかわして、横穴から顔を出している怪物に接近します。

 するとポポロが叫びました。

「後ろよ!」

 かわされた舌が、向きを変えて、後ろから襲いかかってきたのです。後ろに乗っていたポポロを直撃します。

「金の石――!」

 とフルートは叫びました。胸のペンダントが金の光を放ち、彼らを包んで舌を弾き飛ばします。

 フルートは言い続けました。

「金の石、そのままぼくらを守れ! ポチ、もう一度接近だ!」

 ワン、とポチはまたほえて、コーロモドモへ飛びました。舌がまた襲いかかってきますが、今度は守りの光に跳ね返されます。フルートが炎の剣を振り上げます。

 

 すると、金の光の後ろから、突然ゼンたちを乗せたルルが飛び出しました。フルートたちの陰に隠れていたのです。舌が飛んでくるより早く、ゼンが矢を放ちます。

「今度こそ食らえ、コロドーモ!」

「コーロモドモだよ」

 とゼンの後ろからメールが訂正します。

 魔法の矢は大きな弧を描いて飛びました。怪物は舌で打ち落とそうとしますが、生き物のようにそれをかわして、怪物の左目に突き刺さっていきます――。

 コーロモドモは大きな悲鳴を上げました。全身を堅いうろこでおおわれていても、目まで丈夫ではなかったのです。頭を振り回しても矢が抜けないので、舌を使って引き抜こうとします。

 その隙にゼンが次の矢をつがえました。狙って放つと、今度は右目にみごとに突き刺さり、怪物がまた悲鳴を上げます。

「ワン、やった!」

「攻撃のチャンスだわ!」

 と犬たちが言い、フルートは炎の剣をもう一度構えました。

「舌を根元から断ち切るぞ! 行け、ポチ!」

 と怪物へ急接近します。

 

 ところが、フルートが剣を振り下ろそうとしたとたん、怪物の舌がまた動きました。少しの狂いもなくフルートへ飛んできて殴りつけます。

 フルートの胸元で金の石は光を収めていました。とっさに剣で舌を止めようとしたフルートが、受け止めきれずにポチの上から跳ね飛ばされます。

「ワン、フルート!」

「フルート!?」

 仲間たちは驚きました。コーロモドモは両目を潰されても周囲が見えていたのです。

「ナマジと同じく目は関係ねえのか! 詐欺(さぎ)だぞ!」

 とゼンがわめきます。

 跳ね飛ばされたフルートは、一度岩壁に当たり、そのまま下へ落ち始めていました。奈落(ならく)の底は暗闇に包まれていて、どこまで続いているのかわかりません。ルルとポチが急いで追いかけます。

 すると、それより早く黒い鞭が伸びてきました。落ちていくフルートを追いついて、しゅるっと体に絡みつきます。フルートは縦穴の中に宙づりになりました。炎の剣を握る右腕は、舌の戒めの下になって、動かすことができません。

「フルート!」

 ルルは身をひるがえしました。風の刃で舌を断ち切って、フルートを解放しようとします。

 ところが、今度はそこへ長い尾が飛んできました。いつの間にかコーロモドモはすっかり横穴から抜け出していたのです。

「危ねえ!」

 メールをかばおうとしたゼンが、尻尾に跳ね飛ばされました。こちらも縦穴に墜落してしまいます。

「ゼン!」

 ルルとメールはあわててゼンの後を追いました。なんとか追いついてルルの背中に拾い上げますが、上昇しようとすると、また怪物の長い尻尾が襲いかかってきます。

「ちっくしょう……!」

 とゼンは歯ぎしりしました。尻尾に打たれた痛みはたいしたことはありませんでしたが、フルートを助けに近づくことができません。

 ポチとポポロも、フルートに近寄れずにいました。フルートのほうへ飛ぶと、コーロモドモが巨大な口で食いついてくるのです。火道の岩壁にしがみつく怪物の上を飛び回るしかありません。

 赤の魔法使いは火道の中にいくつもの岩の塊を呼び出すと、怪物目がけて飛ばしました。魔法で直接攻撃することができないので、岩で攻撃しようとしたのです。けれども、岩は怪物に当たると、すぐに弾き飛ばされました。丈夫なうろこでおおわれた体には、かすり傷ひとつつきません。

「フルート!!」

 と仲間たちはまた叫びました。怪物が舌を縮めてフルートを呑み込もうとします。

 

 フルートは必死で左手を伸ばしていました。右腕は怪物の舌に縛られていますが、左腕はまだ自由になります。炎の剣を左手に持ち替えて切りつけようとしますが、あと少しというところで、左手が剣に届きません。

 すると、突然その横の空間に赤の魔法使いが現れました。赤い長衣をはためかせ、ハシバミの杖を振って言います。

「ギ、ツレ!」

 とたんに炎の剣はフルートの右手から左手に移っていました。フルートは歓声を上げ、剣を高く振り上げました。勢いよく怪物の舌へ切りつけようとします。

 すると、怪物がいきなり舌を振り回しました。フルートを絡め取ったまま、赤の魔法使いをびしりと打ちのめします。魔法使いはまた吹き飛ばされて、岩壁にたたきつけられました。フルートも振り回された勢いで、炎の剣を取り落としてしまいます。

 剣は火道の中をまっすぐに落ちていきました。深い深い奈落の底です――。

 

「やべぇ!」

 ゼンはメールやルルと剣を追いかけました。

 ポポロとポチは赤の魔法使いへ飛び、岩壁から落ちてきたところを、風の背中に受け止めます。

「赤さん! 赤さん!!」

 ポポロがいくら呼んでも返事はありませんでした。魔法使いの小さな体が、衣より赤い血の色に染まっていきます。

「くそったれ!!」

 とゼンはわめきました。ルルは必死で炎の剣を追いかけているのに、底から湧き上がってくる薄い煙が逆風になって、剣に追いつかないのです。剣は刃を下にして、縦穴の中を落ち続けます。

 怪物のコーロモドモはワニのような顎を大きく開けていました。牙がずらりと並ぶ口の中へ、フルートを呑み込もうとします。

「ワン、フルート!!」

 とポチは叫びました。急いでそちらへ飛びますが間に合いません。フルートがコーロモドモに引き寄せられていきます。

 

 すると。

 ゼンが伸ばした手の下で、落ちていく剣が炎に包まれました。

 剣は何も切っていないのに、突然赤い炎が湧き上がってきて、剣全体を包み込んだのです。

 驚くゼンやメールやルルの視線の先で、炎はふくれあがり、大きくはためきました。まるで鳥のように炎の翼を広げ、続いて人のような形に変わっていきます――。

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