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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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第8章 コーロモドモ

25.舌

 コーロモドモー、と響き渡った不気味な声に、フルートたちは身構えました。風の犬になったポチとルルが空中で立ち止まります。

 すると、彼らの足元の横穴から、いきなり何かが飛び出してきました。長い鞭(むち)のように火道の中をなぎ払い、また横穴へと戻っていきます。

「な、なんだ……!?」

 とフルートたちが驚く中、赤の魔法使いが言いました。

「コーロモドモ!」

「ワン、コーロモドモ!? それってなんです!?」

 とポチが聞き返したとたん、また穴の中から長い鞭が出てきました。今度は彼らに向かって飛んできます。

「危ない!」

 犬たちはあわてて上昇しました。鞭がぴしりと岩をたたき、岩壁をなめるようになぎ払って横穴へ戻っていきます。鞭の表面は、ぬらりと黒く光っています。

 ゼンがわめきました。

「なんだよ、あれ!? 闇の触手か!?」

「違う! 金の石は反応していない!」

 とフルートは答えました。その胸の上で、魔石は金色に輝いています。明滅していないからには、闇の敵ではありません。

 

 すると、ポポロが息を呑みました。目を見張って横穴を見下ろしています。

「あれ、怪物の舌よ! ものすごく長いわ……!」

 舌!? と一同が驚いたところに、また黒い鞭が出てきました。最後尾にいた赤の魔法使いへ飛ぶと、その小さな体を直撃します。赤の魔法使いは岩壁にたたきつけられました。動けなくなったところへ、鞭が絡みつきます。

「赤さん!!」

 とフルートたちが呼ぶと、魔法使いはすぐ正気に返ってハシバミの杖を振りました。岩にたたきつけられた怪我はすぐに治りましたが、何度杖を振っても黒い舌を振りほどくことはできません。

「赤さんの魔法が効いてない!」

「ワン、どうして!?」

 すると、赤の魔法使いの体が、ぐんと舌に引っぱられました。飛ぶような勢いで横穴に引き寄せられます。

 フルートたちはあわてて助けに飛びました。魔法使いが横穴に引きずり込まれる寸前でルルが追いつき、風の刃で怪物の舌を断ち切ります。

 とたんに赤の魔法使いはまた魔法が使えるようになりました。杖を振ると、絡みついていた舌が霧散します。

「ツワ、ツ、ス! ロ!」

「ワン、あいつは魔法攻撃を跳ね返すんですか!?」

 とポチが言ったところへ、また長い舌が飛んできました。風になったポチをすり抜け、今度は背中のフルートたちを直撃します。フルートとポポロはポチの上から跳ね飛ばされてしまいました。垂直な火道を真っ逆さまに落ち始めます。

「ワン、フルート! ポポロ!」

 ポチは後を追いました。ルルも急降下していって、フルートたちを捕まえようとする舌を風の刃で断ち切ります。とたんにすさまじい声が横穴から響きました。

「コーロモドモォォー……!!!!」

 雷鳴のように火道を震わせます。

 

 ポチはフルートに追いつきました。下に回り込んで背中に拾い上げます。

 フルートはポポロの片手をしっかりつかんでいました。ポチの動きに合わせて彼女を引き寄せ、両腕の中に受け止めます。

 ポポロはフルートの首にしがみついて言いました。

「また来るわよ……! 気をつけて!」

 とたんにまた黒い鞭のような舌が飛んできました。ルルが断ち切って短くなったはずなのに、それでも余裕でフルートたちのところまで飛んできます。ポチは身をかわし、フルートはとっさにポポロの上に伏せました。分厚い舌がフルートの鎧の背をたたきつけ、今度はポチと一緒に跳ね飛ばしてしまいます。

 ポチはきりもみしながら火道を落ちていきました。フルートもポポロも、投げ出されないように背中にしがみついているのがやっとです。それをまた長い舌が追いかけてきます――。

 すると、その後を赤の魔法使いが追いかけてきました。魔法攻撃は跳ね返されるはずなのに、杖を振って叫びます。

「ロ、バワ!」

 赤い魔法の光が舌を追い越し、フルートたちの手前で停まりました。空中で赤い大きな鳥に変わり、翼を打ち合わせて舌へ飛びかかっていきます。舌は鳥へ狙いを変えました。飛び回る鳥を追って空中を回転します。その隙にポチはようやく体勢を整えることができました。フルートとポポロを背中に乗せたまま、火道の途中で停まります。

 

 メールがゼンに言っていました。

「ちょっと! 早く攻撃しなよ! 何をぼさっとしてるのさ!」

 ゼンは片手に弓を握ったまま、苦い顔で舌と鳥の戦いを見下ろしていました。

「動きが速すぎて狙いがつけられねえんだよ――。炎の矢はセイマの海で火竜になって消えちまったからな。手元にはもうエルフの矢しか残ってねえんだ」

 すると、メールがゼンに飛びつきました。ゼンの首を締め上げそうな勢いで言います。

「なに寝ぼけたこと言ってんのさ! あれはあの横穴から出てきてるんだから、あの前まで行けばちゃんと本体が狙えるじゃないか!」

 ゼンは口を尖らせてメールをにらみました。

「んなことして、俺たちにあれが飛んできたら、ひとたまりもねえだろうが。俺たちは防具を着てねえんだぞ。それでもいいのか?」

 メールは、かっと顔を赤くしました。

「あたいのことを心配してるんだろ!? いつものゼンなら、そんな馬鹿なこと絶対言わないもんね――! ここが地下だって、周りに花がなくたって、そんなの全然かまわないさ! 遠慮なくやりなよ、ゼン!」

 ついさっきまで、あれほど地下におびえていたメールが、今は青い瞳を燃え上がらせてゼンをにらんでいました。戦わなかったら承知しないよ、という表情です。

 ゼンは思わず苦笑しました。

「この跳ねっ返りが」

 と言うと、メールをひょいと自分の後ろへ移し、弓矢を構え直します。

「よし行け、ルル! あの横穴のど真ん前につけろ!」

「ほぉんと、あなたたちっていいコンビよね」

 とルルは言って、急降下しました。黒い長い舌が出ている横穴の前で、ぴたりと停まります。

 暗い穴の奥をのぞき込んで、ゼンは眉をひそめました。巨大な怪物がいたのです。全身をワニのようなうろこでおおわれ、大きく開けた口の奥から舌を伸ばしています。ゼンはその眉間に狙いを定めて矢を放ちました。白い矢が怪物の頭へ飛んでいきます――。

 

 けれども、矢はワニのように角張ったうろこに当たると、あっけなく弾き返されてしまいました。怪物の体には傷ひとつつきません。

 怪物はぎょろりと目を動かしました。鋭い瞳が穴の外のゼンたちを見据えます。やべぇ、とゼンが言った瞬間、外へ伸びていた舌が向きを変えました。飛び回る鳥から離れてゼンとメールに襲いかかります。

「ゼン!」

 フルートはポチと一緒に上昇しました。剣から炎の弾を撃ち出そうとしますが、火道が狭いので角度がなかなか合いません。その間に舌がゼンとメールへ飛びました。身を守るものは何もつけていない二人です。巨大な鞭のような舌に直撃されれば、即死するかもしれません。

 すると、ゼンたちと舌の間に魔法の鳥が飛び込んできました。赤の魔法使いが杖を掲げて叫んでいます。

「エ、バワ!」

 鳥は翼を鳴らして舌へ襲いかかっていきました。かぎ爪で舌をつかみ、鋭いくちばしでつつきます。

 舌はすぐにまた向きを変えると、鳥を横殴りにしました。岩にたたきつけられて動けなくなった鳥に絡みつき、あっという間に横穴の中へ引きずり込みます。とたんにキーッという鳥の声が上がりました。怪物にひと呑みにされたのです。

 フルートたちは思わず青ざめましたが、赤の魔法使いが何かを言いました。ポチが通訳します。

「ワン、この間に下に進もう、って――」

「だめよ! もう出てくるわ!」

 とポポロが悲鳴のように言いました。赤の魔法使いのことばはすぐには通じないので、どうしても余分な時間がかかってしまうのです。横穴からまた鞭のような舌が現れます。

 

 すると、その後ろから、ぬっと巨大な顔も出てきました。とうとう本体が這い出してきたのです。大きなうろこにおおわれた頭は、形もワニに似ていました。鋭い目で横穴にいるフルートたちを見ると、口を開けて鳴き声を上げます。

「コーロモドモー……!!!」

 不気味な声がまた溶岩の壁の中に響き渡っていきました。

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