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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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24.爆発

 あそこを壊す!? と仲間たちは思わず声を上げました。

 煙を噴き上げている岩の隙間は、山を登る途中で見かけた間欠泉のようでした。笛にも似た大きな音が、縦穴いっぱいに響き渡っています。

 赤の魔法使いがフルートに何かを言い、ポチがそれを通訳しました。

「ワン、岩栓はそれほど厚くないから、壊すより魔法で向こう側に抜けた方がいいんじゃないか、って。ぼくもそう思いますけど、フルート?」

「だな。あれを壊したら、中からすごい勢いで煙が噴き上がって来そうじゃねえか」

 とゼンも言うと、フルートは首を振りました。

「だからだよ――。この岩栓の向こう側はきっと煙でいっぱいだし、ぼくたちを押し上げようとする勢いだって、相当のもののはずだ。あれを壊して煙を外に逃がしたほうが、安全に先に進めると思うんだ」

 すると、赤の魔法使いは苦笑する顔になりました。

「ナ、ケニ、ズ、ダ。バ、ナガ、レナイ、ゾ」

「ワン、フルートは見かけによらず大胆だ、って。あれを壊すと、岩でみんなが怪我をする可能性があるそうですよ」

「大丈夫だ。これが必ず守ってくれる」

 と言ってフルートはペンダントを掲げて見せました。その真ん中では金の石が輝いています――。

 そこで、赤の魔法使いはハシバミの杖を振り上げました。フルートはペンダントへ呼びかけます。

「みんなを守れ、金の石!」

 魔石が明るく輝きました。フルートもポポロもゼンもメールも、風の犬になっているポチもルルも、赤の魔法使いも、金の光の球の中に、すっぽりと包み込まれます。

 その内側で魔法使いは杖を振り下ろしました。赤い光がほとばしって飛び出し、煙が噴き出す割れ目へと吸い込まれていきます。

 とたんに、静寂があたりを充たしました。煙の噴出が停まったのです。フルートも仲間たちも思わず息を詰めました。次に何が起きるのかと割れ目を見守ります。

 すると、足元から不気味な地鳴りが響き始めました。ピシッ、パシッと岩にひびが走っていく音も聞こえてきて、やがて岩場全体が大きく揺れ出します。

「煙が噴き上がってくるわ! みんな気をつけて――!」

 ポポロが叫んだとたん、岩場のあちこちから煙が噴き出し始めました。岩栓の割れ目から煙がさかのぼってきたのです。見る間に割れ目が広がって、砕けていきます。

「ル!」

 と赤の魔法使いが警告の声をあげました。とたんに割れ目という割れ目から、どっと煙が噴き出します。煙は猛烈な風になり、さらに岩を砕いていきました。嵐のような風が火道を駆け上り、岩が吹き飛ばされ、真っ白な濃い煙が充満して、あたりがまったく見えなくなってしまいます――。

 

 けれども、煙と轟音(ごうおん)はじきに収まっていきました。噴き上がってくる煙が次第に薄く弱くなって、とうとう火道をゆっくりと立ち上っていくだけになります。その中に、金の光に包まれたフルートたちの姿が、また現れます。

 彼らの眼下に広がっていた岩場は消えて、長い縦穴が下に続いていました。岩栓は噴煙にすっかり吹き飛ばされてしまったのです。それを見下ろして、ゼンが言いました。

「ったく……地上では絶対に噴火が起きてるぞ。水蒸気爆発ってヤツだ」

 冷や汗をかいているような声でした。仲間たちも、足元にまた現れた火道を、声もなく見つめていました。火山が持つ力のすさまじさに呆然とします。

 ところが、フルートだけは逆に頭上を見ていました

「アマニは――!? 彼女は火口の近くにいるんだ。大丈夫だっただろうか!?」

 仲間たちは顔色を変えました。赤の魔法使いが杖を握りしめて頭上を見ます。

 すると、ポポロが遠いまなざしで言いました。

「大丈夫、アマニは無事よ……。噴火の前に地震が起きたのね。馬たちを連れて、安全な場所に避難してくれているわ……」

 一同は、ほっとしました。猫の目の魔法使いも、安堵の表情に変わります――。

 

 

 彼らはさらに深い場所へと下りていきました。

 火道はどこまでも続いていますが、いくら進んでも、大元のマグマ溜まりにはたどり着きません。

 ただ、ところどころで道が枝分かれするようになっていました。道の太さはまちまちですが、あちこちから来ては、彼らの下りる火道に合流しているような感じです。そのたびに彼らは道を確かめ、煙の上ってくる方向へと進んでいきました。噴煙は途切れることがないので、行き先を誤る心配だけはありませんでした。

 火道の壁から蒸気が激しく噴き出している場所も通り抜けました。岩壁の割れ目から水蒸気が白い煙のように噴き出して、地底から立ち上る噴煙に混じっていくのです。注意深くそれを避けながら、ポチが言いました。

「ワン、みんなは感じないだろうけど、もうずいぶん暑くなっているんですよ。百度は軽く超えてます。だから地下水もあんなふうに蒸気になっちゃうんです」

「まあな。地面の中は暑いもんなんだぜ。北の峰でも、坑道で働いてるドワーフたちはみんな上半身裸だからな」

「大地はとても大きなエネルギーを持っているのよね。だから暑いし、うまく利用すれば、とても大きな魔法が使えるようになるの……」

 とポポロが言ったので、フルートは納得しました。

「それが南大陸のムヴアの魔法使いなんだな。赤さんたちは、この大地と共に生きる魔法使いなんだ」

 すると、赤の魔法使いが皮肉っぽい笑い顔になりました。

「ムヴア、ツシ、ワ、ケ。ラ、ツ、テタ」

「ワン、そのムヴアの魔法使いも、もう自分だけになってしまった。みんな、ムヴアを捨ててしまったのだから、って――」

 とポチは通訳すると、困った顔になりました。なんと続けていいのか、わからなくなったのです。仲間たちもことばが見つからなくなりましたが、フルートだけは言いました。

「赤さんがムヴアを捨てずにいてくれて、本当に良かったと思います。だから、ぼくたちはこうして火の山の大元まで行けるし、そのことで、ロムドや世界の人たちを助けられるんだから」

 どこまでもまっすぐに真実を見つめているフルートでした。赤の魔法使いは、金の石の勇者にはかなわない、と言うように笑って首を振ると、後はもう皮肉な顔は見せなくなりました。

 火道はさらに地中深くへ続いています――。

 

 すると、彼らの耳にかすかな音が聞こえてきました。ザザザ……と何かがこすれるような長い音です。

「なんだ?」

 とゼンは足元へ目を凝らしました。ゼンは夜目が効くので、火道の奥の暗がりも見通せます。音は火道に合流する横道からしているようです。

 とたんに、同じ横穴から別の音が聞こえてきました。

「コーロ……コーロモドモー……!!!」

 得体の知れない不気味な声が、火道いっぱいに響き渡りました――。

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