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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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第7章 火道

22.毒虫

 火の山の火口の下には空洞があり、横穴から煙が送り込まれていました。煙はすぐに向きを変え、火口へと立ち上っていきます。

 フルートたちは、空洞の底から押し寄せてくる毒虫の集団を見て、その横穴へ飛び込みました。噴き出してくる煙の中を突き進みます。

 すると、その後を追って、毒虫たちも穴に飛び込んできました。細い体をくねらせて煙の中を飛び、フルートたちに迫ってきます。それを振り向いて、ポポロが泣き声を上げました。

「だめよ、追いかけてくるわ!」

「ナマジは地下に棲んでいるから、目が見えねえ! 煙は関係ねえんだよ――! 体中で振動を感じて、獲物の後を追いかけてくるんだ!」

 とゼンが言いました。得意の弓矢で毒虫を追い払いたいのですが、煙が濃すぎて、ゼンには敵の姿が見えません。

 視界が効かなくなっているのはフルートや犬たちも同じでした。先のわからない煙の道を、闇雲に進んでいくしかありません。そこへ煙の中からナマジが現れました。ポポロが襲われそうになって、きゃあっと悲鳴を上げます。

 フルートはとっさに盾でポポロを守りました。その左腕にナマジが飛びつきます。それは平べったい体に無数の足が生えた、ムカデに似た虫でした。体の両脇の足を翼のように動かすことで風に乗り、空を飛ぶのです。

 フルートは腕からナマジを引きはがしました。節だらけの体の裏側には短い毒の棘がびっしりと生えていますが、フルートは魔法の鎧を着ているので平気です。炎の剣で真っ二つにすると、毒虫は燃えながら煙の中へ落ちていきます。

 

 けれども、ポポロがフルートの背中にしがみついてまた言いました。

「どんどん追いついてくるわ! ものすごい数よ……!」

 すると、すぐ後ろで今度はメールの悲鳴が上がりました。ゼンがわめきます。

「ちくしょう、メールが刺されたぞ!!」

 フルートは即座に振り向きました。胸のペンダントを掲げて叫びます。

「癒せ、金の石!」

 とたんに魔石が強く光ってメールを照らしました。真っ青な顔で苦しんでいたメールが、また息ができるようになって、ゼンの腕の中に倒れ込みます。金の石が毒を消したのです。

 同じ光が照らす煙の中に、ナマジは何百匹も見えていました。フルートたちは全速力で飛んでいるのに、体をくねらせて、みるみる追いついてきます。金の光で照らされても溶け出すことはありません。闇の気でおかしくなっていても、毒虫自体が闇になっているわけではないので、聖なる光が効かないのです。

 すると、赤の魔法使いがいきなり叫びました。

「ロ! ガ、テル!」

「ワン、ルル、前に曲がり道だ!」

 とポチが魔法使いのことばを伝えたとたん、煙の向こうに突き当たりが見えました。岩壁が迫ってきます。

「下だ! 煙が上がってくる!」

 とフルートも叫び、犬たちは大きく方向転換しました。身をひねり、風の体の内側にフルートやゼンたちを抱え込むようにして、下へ曲がります。とたんに風の腹が岩壁をこすって激しい音をたてました。岩の道は下へ向きを変えて、また先へ続きます――。

 

 赤の魔法使いも曲がり角を曲がって下へ飛びました。その後を毒虫の大群が追いかけてきます。

 すると、虫たちが次々と岩壁にぶつかり始めました。ナマジは目が見えない上に、あまり速く飛んでいたので、曲がりきることができなかったのです。堅い岩にたたきつけられて、ぐしゃりと潰れてしまいます。ずっと後ろを見ていたポポロが歓声を上げ、すぐにまた悲鳴に変わりました。

「だめ、まだ来るわ! 振り切れない……!」

 潰れた虫の体がクッションになって、後続の虫は岩壁に激突しなくなったのです。仲間の死骸にしがみついて停まると、またすぐに飛びたってフルートたちを追いかけてきます。

 メールがゼンの首にしがみついて叫びました。

「ね、ねえ、何か虫を追い払う方法はないわけ!? 虫が嫌いな薬とか!」

「んなもん、あるか! あいつらは振動を起こすものを餌だと思っているんだ! 俺たちが飛んでる限り、ずっと追いかけてくるんだよ!」

「そんなこと言ったって、飛ばなかったら追いつかれて襲われるわよ!」

 とルルがゼンに言い返します。

 赤の魔法使いは何度も振り向いては、追いついてきた毒虫を魔法で吹き飛ばしましたが、虫の数が多すぎて防ぎきれずにいました。金の石の光も毒虫相手には効果はありません。赤の魔法使いの横をすり抜けた毒虫が、またポポロに襲いかかろうとして、フルートに切り捨てられます――。

 

 フルートは赤の魔法使いを振り向いて叫びました。

「赤さん! 魔法でぼくたちの後ろに網を張ってください!」

 網!? と仲間たちは驚きましたが、猫の目の魔法使いはすぐに杖を振りました。

「タ! ミ、ロ!」

 とたんに彼らと毒虫の間に蜘蛛の巣のような網が現れました。岩の間に張り渡されたので、毒虫が次々にひっかかります。

 煙の合間からそれを見て、ゼンがわめきました。

「無理だ! あいつらはどんな隙間でもすり抜けてくるんだぞ!」

 そのことばの通り、虫たちはすぐに網の間に潜り込み、細い体をくねらせて、こちら側に抜けてきました。また彼らの後を追いかけてきます。ポポロは思わず目をつぶりました。どんなに堅く目を閉じても、魔法使いの目には、追いかけてくる虫が見えてしまいます。

 すると、フルートがまた言いました。

「赤さん、今度はあの網を震わせて――!」

 フルートが何を言っているのか、仲間たちには意味がわかりませんでした。赤の魔法使いも、一瞬とまどった表情になります。

 が、次の瞬間、赤の魔法使いはまた後ろを向きました。ハシバミの杖を振り下ろして叫びます。

「ロ、ミ!」

 赤い光が煙と共に道を走り、張り渡された蜘蛛の巣に広がりました。網を作るロープが、ぶぶぶぶ、と羽虫のような音を立て始めます。

 とたんに、フルートたちの後を追いかけていた毒虫たちが空中で停まりました。振り向くように網のほうへ頭を向け、無数の足をざわざわと動かします。

「ポポロ!?」

 とフルートが尋ねてきました。煙がさえぎっているので、後ろで何が起きているのか、他の者たちには見えなかったのです。

「ナマジが停まったわ。あ、引き返していく――!?」

 とポポロが声を上げ、仲間たちは驚きました。ゼンが尋ねます。

「引き返していくぅ!? 全部かよ!?」

「全部よ……網のほうへ戻って行くわ……」

 犬たちは飛ぶ速度をゆるめました。煙の中から毒虫が現れないことを確かめて、おもむろに立ち止まります。

「ワン、どういうことですか? フルート」

「どうしてナマジは引き返していったの?」

 と犬たちに聞かれて、フルートは答えました。

「網が震え出したからだよ。ナマジは振動で餌を見つけて襲いかかる、ってゼンが言っただろう? 網の振動に惹かれて、そっちに集まっていったんだ。さあ、網に餌がないことに連中が気づく前に、先へ進もう」

 相変わらず機転のきくフルートです。

 

 そこで、一行はまた岩の中の道を進み始めました。昔、マグマが火口まで噴き上がっていった道ですが、今は噴煙だけが流れ続けています。その中をフルートたちは下りていきました。煙の大元へたどり着こうとします。

 すると、押し寄せてくる煙の中で、ルルがくん、と鼻を動かして顔をしかめました。

「どうしてこんなに闇の匂いがするのかしら。この奥にも、闇でおかしくなった生き物がいるの?」

 ひとりごとのように言ったルルのことばに、仲間たちは誰も答えることはできませんでした。ただそれぞれに武器や杖を握りしめ、周囲に用心しながら、さらに地中へと降りていきました――。

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