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第18巻「火の山の巨人の戦い」

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18.星空

 火の山に夜が訪れました。山の上に降るような星空が広がります。

 赤の魔法使いは山の狭い尾根にいくつもの木の器を置き、真ん中に座って、低い声で呪文を唱えていました。その近くから戻ってきたポチが、フルートたちへ話します。

「ワン、火の石が見つかるまで、赤さんはずっとあそこにいるそうです。ぼくたちは寝ていていいから、って」

「野宿は慣れてるからかまわねえけどよ……炎の馬が現れねえよな」

 とゼンが言い、仲間たちは周囲を見回しました。火の体を持つ馬は、やはりどこにも見当たりません。

 メールが溜息まじりに言いました。

「山が違ってたんじゃないのかい? 南大陸の火の山じゃなくて、別のほうの火の山に来いって言ってたんじゃないのかな」

「火の山って、あと二つあったわよね。ザカラスの近くとエスタの南と。どっちも中央大陸だわ。せっかく南大陸まで来たっていうのに、また戻らなくちゃいけないわけ?」

 とルルが文句を言うと、ポポロも困ったような表情で言いました。

「南大陸から他の大陸へは、魔法で移動することができるのよ。距離はとても遠いけれど、まず南大陸の北の海岸まで飛んで、それから海を越えて中央大陸に渡るようにすれば、あたしの魔法でも行けると思うの。ただ、帰りがだめなのよ。魔法で南大陸には入れないから……。中央大陸からまたこの南大陸に戻ってこようと思ったら、もう一度船に乗らなくちゃいけないわ」

「もう一度あの船旅をやれって言うのか!? 勘弁しろよ!」

 とゼンが声を上げ、他の仲間たちもうんざりした表情になりました。いつまでたっても先に進めないような焦燥感に襲われてしまいます。

 

 フルートは説得するように言いました。

「ここじゃないかと思うんだよ。この火の山からは闇の気配がしているし、きっと何かが起きているんだと思うんだ……」

 けれども、やっぱりいくら待っても炎の馬は現れません。

 しかたなく、彼らは眠ることにしました。手慣れた様子でマントや毛布にくるまり、山の斜面に横になります。山頂は気温がかなり低くなっていましたが、風がないので、耐えられないほどの寒さではありませんでした。寝やすい体勢になろうとしばらくもぞもぞしてから、次々に眠りに入っていきます。

 アマニは一番最初に眠っていました。食事の最中に泣き出した後、そのまま泣き寝入りしてしまったのです。その小さな体の上には、フルートのマントがかけてありました。フルートは魔法の鎧を着ているので、寝るときに何も必要なかったからです。

 フルートは鎧を着たままで、石だらけの斜面に寝転がっていました。仲間たちの寝息が聞こえてきますが、フルートは頭の中でいろいろ考えていたので眠くなりません。歌のように低く流れる赤の魔法使いの呪文を聴きながら、満天の星を見上げ続けます……。

 やっぱりここじゃなかったんだろうか? とフルートは考えていました。

 闇の気配など、中央大陸ではいたるところでしています。闇の怪物はどんなところにでも潜んでいるからです。この南大陸は全体に闇の気配が薄いので、ちょっとした闇に敏感になっているだけなのかもしれません。

 だとしたら、やっぱり別の火の山に行かなくちゃいけないんだろうか、とフルートは考え続けました。どちらの火の山なのだろう、とも考えます。ザカラスの近くの火の山は知りませんが、エスタの南にある火の山ならば、フルートは行ったことがありました。炎の馬に連れられて空を駆け、噴火をしている山の中腹から入り込んで、裂け目に落ちていたゴブリンを助けたのです。そのゴブリンは炎の剣が姿を変えたものでした。それ以来、炎の剣はずっとフルートと共にあります――。

 フルートはかたわらに置いていた炎の剣を取り上げました。赤い石をはめ込んだ黒い大剣です。それを星空に掲げて、心の中で呼びかけます。

 ぼくたちは火の山に来たぞ。どうすれば炎の馬にまた会えるんだ?

 けれども、剣は何も言いませんでした。黒い鞘や柄に空の星が映ります……。

 

 やがて炎の剣がフルートの鎧の上に落ちました。さすがのフルートも睡魔に襲われたのです。剣を抱いたまま眠りに落ちていきます。

 寝入りばな、フルートは遠い日の続きを夢に見ました。フルートは手に入れた炎の剣で自分の馬をスライムの中から救い出すと、森の中を駆けていきました。朝が来たというのに、あたりは夕方のように暗く淀んでいました。闇をはらんだ黒い霧が、一帯を包み込んで広がっていたからです。一緒に駆けていた炎の馬の火が、みるみる小さくなっていくので、驚いて尋ねると、この霧のせいだ、と馬は答えました。

「私は本来、光の生き物なので、闇を含んだ霧の中にいると、どんどん弱ってしまうのです」

 と男性のようにも女性のようにも聞こえる不思議な声が話します……。

 

 そのとたん、フルートは目を開けて跳ね起きました。一瞬で目を覚ましたのです。そばで寝ている仲間たちへ大声で呼びかけます。

「起きろ! 炎の馬の呼び方がわかったぞ――!」

 一行は驚いて飛び起きました。アマニも目を覚まし、赤の魔法使いも石を捜す魔法を中断して飛んできます。

 フルートは興奮しながら言いました。

「炎の馬は光の生き物だから、闇に弱い! 闇の中にいると弱って死んでしまうんだ! この山頂には、地中から噴き出してくる闇の気配が漂ってる! だから、炎の馬はここに近づけなかったんだよ!」

「ワン、聖なる獣のユニコーンみたいにですか? あのひとも闇には弱かったですよね」

「じゃあ、どうすれば炎の馬をここに呼べるの?」

 とポチとルルが言うと、ポポロが身を乗り出して言いました。

「あたしができるわ……! あたしがここに聖なる結界を作ればいいのよ!」

「よし! 頼む、ポポロ!」

 とフルートに言われて、ポポロは立ち上がりました。山頂の尾根まで駆け上がり、そこで両手を広げます。

 すると、その服が色と形を変えました。いつもの乗馬服が黒い長衣に変わったのです。天の星の光を浴びて、衣の上でも星の光がまたたき始めます。

「ロレワラアーイカツケルナイーセ」

 少女の細い声が山頂に響きました。継続の呪文がそれに続きます。

「ヨーセクゾイーケ!」

 

 とたんにポポロの両手から緑の光がほとばしりました。螺旋(らせん)を描きながら空に立ち上り、光の柱を作っていきます。

 フルートたちは驚きながら駆け寄っていきました。こんな結界を見るのは初めてです。星に届きそうなほど高く伸びていく光を見上げて、アマニが言います。

「あんなに高い場所まで結界を作っているの……? 信じらんない。あんた、とんでもない魔力を持っていたんだね」

 そこへ、カツッと何かを蹴るような音が空から聞こえてきました。すぐにそれが連続して響いてきます。

「蹄の音だぞ」

 とゼンが夜空の中へ目を凝らして言いました。フルートたちも空を見上げ、やがて、光の柱の中を駆け下りてくる一匹の獣を見つけました。全身を輝く火で包まれています。

 すると、斜面で空を見上げていたフルートの馬が、ヒヒヒーンと高くいななきました。それに応えるように、空からもいななきが返ってきます。

 蹄の音を響かせて、獣は地上に降り立ちました。赤い炎のたてがみと尾をなびかせながら、光の柱の中から人々を見つめます。

「炎の馬」

 フルートは燃える獣に歩み寄って、そう呼びかけました――。

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